カレントアウェアネス-E
No.277 2015.03.05
E1658
千葉大学アカデミック・リンク・シンポジウム<報告>
2014年12月22日,千葉大学アカデミック・リンク・センターはアカデミック・リンク・シンポジウム「つながる学び:アカデミック・リンクのこれまでとこれから」を開催した。アカデミック・リンクとは,「考える学生」の創造を目指す千葉大学の新しい学習環境コンセプトであり,附属図書館,統合情報センター,普遍教育センターが協力して,2011年度から取り組んできたものである。今回のシンポジウムでは,センターの教職員がこれまでの活動成果を講演とポスターセッションにて報告した後,学外の有識者を交え,これからの大学改革の中でどのような役割を担っていくのか,議論を行った。
シンポジウム前半では,徳久剛史学長の挨拶の後,竹内比呂也センター長からアカデミック・リンクの理念と活動全体の紹介が行われた。アカデミック・リンクは,「学習とコンテンツの近接」による能動的学習の実現を目的とし,学習空間,コンテンツ,人的支援の3つの軸のなかで,多数のプロジェクトが実施されている。また,その実施体制として,研究開発機能を担うアカデミック・リンク・センターと,実際にサービスを提供する附属図書館が中核となり,構成員が複数のプロジェクトへ所属し横断的に連携している旨,説明された。
続いて,センター教員から各プロジェクトの活動や調査の報告が行われた。以下に,各報告内容の概略を示す。
<学生・コンテンツの動きから見た学習空間の利用分析>
学習空間の利用状況を量的に分析するために,定点カメラ,赤外線カウンタ,館内返本用ブックトラックの3つを用いた各種センシングを行っている。その結果,試験期間と利用者数の連動性や,空間の特徴に応じた図書の利用傾向の差異などが明らかになった。
<学習支援のための活動とその改善>
学習支援担当の大学院生が,分野別学習相談やレポート作成セミナーを実施している。これらの実施状況について定期的な「振り返り会」を行い,課題解決パターンや問題点を相互に共有することで,相談対応の改善と大学院生自身の成長を図っている。
<物理学問題集の電子化とMoodleでの提供>
電子教材作成支援の一環として,学習管理システムMoodle上に物理学問題集を作成し,授業実践を行っている。利用報告会や学生アンケートを行ったところ,授業の振り返りに役立ったとして概ね好評であり,今後は多様な問題形式への展開が期待される結果となった。
<デジタル教材作成支援の実績>
大日本印刷,丸善との共同研究部門を設置し,紙と電子を組み合わせた新しい教材開発を多数実施している。例えば,Google Earthを用いて現在の地図と古地図を比較できるデジタル地図教材を開発し,文学部の風土記に関する授業で授業実践と評価を行った。
<情報利用行動定点観測>
学習行動と学習成果の関連を検証するために,「千葉大学学習状況・情報利用環境調査」を中心とする多様な調査を行っている。学生アンケートを実施し,個人を特定できる番号に一方向性の暗号化を施したうえで,図書貸出記録や成績情報等との連動分析を行っている。
<大学内・大学外・図書館における学生の学習行動>
新しくできた学習空間に対する認識の変化について学生同士が語る「フォーカス・グループ・インタビュー」や,学生自身が学習行動を1か月間写真で記録する「フォト・ボイス・インタビュー」を実施し,学習行動の変化や空間の影響を調査した。
シンポジウム後半は川嶋太津夫大阪大学未来戦略機構教授,田村俊作慶應義塾大学メディアセンター所長,濱村道治パワープレイス株式会社常務取締役,渡邉誠千葉大学理事,竹内センター長による,アカデミック・リンクのこれからについてのパネルディスカッションが行われた。
川嶋氏からは大学教育や図書館の歴史的変化について講演がなされ,今後は多様な学習空間の提供のみならず,学生の時間を確保することが必要と提起された。田村氏からは,学修コンテンツの作成・提供について講演がなされ,今後は教員に対する電子化への移行を促すインセンティブ作りや,著作権処理等の負担軽減が普及への課題として示された。濱村氏からは,「2015年型アクティブラーニング」の在り方が提案され,今後はチーム運営能力やファシリテーションが重要となることが示された。渡邉氏からは,千葉大学のグローバル教育に関する取り組みが説明され,グローバルアクティブラーニングと称した国際交流や反転学習の環境整備事例が紹介された。
参加者からは,各取り組みの教員・学生への浸透状況や,この環境で育った学生の卒業後の評価について質問があった。また,この数年でなぜアクティブラーニングが急速に再注目されているのかといった疑問の提起もあり,活発な討議となった。
当日の配布資料やポスター,講演映像等は,本センターのWebサイト上で公開されている。各発表の詳細や調査結果等についてご関心ある方は,ぜひそちらを参照されたい。
千葉大学アカデミック・リンク・センター特任助教・小野永貴
Ref:
http://alc.chiba-u.jp/
http://alc.chiba-u.jp/symposium.html
http://alc.chiba-u.jp/report_symposium.html
http://alc.chiba-u.jp/research.html