カレントアウェアネス-E
No.277 2015.03.05
E1657
デジタル・アーカイブズによる琉球政府文書の利用促進
沖縄県は,2013(平成25)年度から琉球政府文書デジタル・アーカイブズ推進事業(琉球政府文書をデジタル化し,ネット公開を目指す事業)の取り組みを開始した。2015(平成27)年度からの一部公開に向けて,現在準備を進めている。
有人離島を多く有する沖縄県では,地域間の情報格差が大きく,県民に公平なサービスを提供することが重要な課題である。また琉球政府文書は,米国の「琉球列島」統治という波乱に満ちた時代を生きた人々の証言となる貴重な歴史資料であり,沖縄現代史の検証をはじめ広く日本戦後史や第二次大戦後の世界史の研究に寄与するところが大きく,県民や国内外の利用者にとってアクセスがより容易になることが求められている。
沖縄県内の情報格差の是正と,琉球政府文書のアクセスの向上という二つの課題を同時に満たす上で,デジタル化された資料をウェブ上で閲覧することが可能となる本事業はきわめて有効であり,その学問的意義に留まらず,社会的意義も非常に大きいといえる。
本事業は,「デジタル化業務」「普及業務」「個人情報マスキング業務」の3つの業務から構成されている。そのうち私たち普及員は,琉球政府文書の利用促進に際して中心的な業務となる「普及業務」を担当している。今年度の「普及業務」では,主に利用普及のためのガイド作成に関連する以下の2点の作業に取り組んでいる。
第一の作業は,自社で開発したソフトを用いてPDF化された簿冊の全頁に目を通し,利用ガイドに有用な情報を入力することである。同時に,現時点で非公開にすべき個人情報が含まれる頁を特定・分類し,秘密の軽重に応じたランクや資料年度などを入力の上,「個人情報マスキング業務」のためのデータを作成する。今年度は普及員2名で,2,300簿冊(1簿冊200頁と仮定して,約46万コマ)を処理する。
第二の作業は,今後の普及活動のため,沖縄県公文書館指定管理者にご協力いただき,公文書館におけるこれまでの琉球政府文書の利用状況を調査することである。同調査においては,まず簿冊ごとの閲覧及び複写回数を合計した「利用回数」を集計した。つぎに同一簿冊でもマイクロフィルムなどの複製資料がある場合は,それらを含めた「利用回数」を計上した。さらに,簿冊単位での需要分析だけではなく,琉球政府の組織機構や業務内容をもとに沖縄県公文書館が行った資料分類に基づき,部局・資料群(課や外局など)・シリーズ(業務内容)単位でも分析した。この作業を通じて,琉球政府文書の需要が,資料の階層構造に立脚したまとまりにおいて可視化され,今後の普及活動において有用な知見を得ることができた。その他,市町村史や学術論文等の刊行物における琉球政府文書の引用や参照状況も調査し,利用状況の総合的な把握を目指している。
今後は,利用状況調査をふまえて,一般から研究者までの幅広い利用者を対象とするガイドを作成し,琉球政府文書の利用促進を目指していく。その際,現時点で需要が高いと判断できる分野のさらなる利用を目指すとともに,現時点で利用頻度の低い分野の認知度を上げていくことも重要である。両者を実現するために,広範な利用者を想定した,琉球政府文書の利用ガイド(歴史的な背景,琉球政府文書の意義,部局ごとの資料の特徴,個別の資料紹介,推奨される調査方法等)を公開スケジュールに合わせて作成し,普及活動を実施していきたい。
上記において,各資料が生み出された歴史的背景や文脈などの知識は欠かすことができない。そのため,普及業務には,沖縄戦後史を研究する修士以上の学位をもった人材をあてている。今年度は,戦後の沖縄における社会運動史を研究する上原こずえと,米国統治期の「外国人」管理制度を研究する土井智義が担当している。次年度以降は増員の計画もあり,より多様な研究者によって集合的に知を蓄積し,社会的意義と学問的意義の両立を目標として本事業の周知をはかり,もって琉球政府文書デジタル・アーカイブズの利用促進をめざしていきたい。
株式会社Nansei琉球政府文書デジタル・アーカイブズ推進事業(沖縄県委託事業)
調査普及担当・上原こずえ/土井智義
Ref:
http://www.archives.pref.okinawa.jp/kensaku/cat8/cat457/
http://www.archives.pref.okinawa.jp/collection/2013/03/post-457.html
http://www.archives.pref.okinawa.jp/aboutopa/47%E5%8F%B7%E5%85%A5%E7%A8%BF%E7%94%A8HP%E7%94%A8.pdf