E1511 – 幼稚園に入る前の子どもと1,000冊の本を:米国図書館の取組

カレントアウェアネス-E

No.250 2013.12.12

 

 E1511

幼稚園に入る前の子どもと1,000冊の本を:米国図書館の取組

 

 子どもが幼稚園に入るまでに,1,000冊の本を一緒に読む。読書は冊数の問題ではないかもしれないが,一緒に本を読むその時間は,子どもにとっても,子どもを育てる人たちにとっても,貴重なものではないだろか。そんな時間の積み重ねを支援する“1,000 Books Before Kindergarten”と銘打ったプログラムが,最近,米国各地の公共図書館に広がりつつある。そもそもこのプログラムは,2011年に米国中西部のブレマン公共図書館(インディアナ州)で始まった。その後中西部を中心に各地で行われるようになり,正確な数は不明だが,2013年11月時点で,15州100館ほどにおいて実施されていることが確認されている。

 プログラムの仕組みは極めてシンプルなものだ。図書館は,このプログラムの実施を広報し,参加登録を受け付け,そして参加者の1,000冊到達への歩みを支援する。肝要な点は,どのようにして参加者のモチベーションを維持し,1,000冊というこの長いプロセスを,楽しく完走してもらえるようにするかということだろう。何を読んだのか,記録をつけてもらう。そのために図書館は記録をつけるためのノートなどを提供する。マイルストーンとなるような冊数に達したら,プレゼントを贈る。図書館の活用を促し,読み聞かせなどの行事をこのプログラムに関連付ける。実施している内容はおよそこのようなことだ。

 最初にこのプログラムを実施したブレマン公共図書館のクロスト(Sandy Krost)氏によると,開始にあたり,記録を残すための記録帳のデザインにはこだわったようだ。同館では,参加登録時に,トートバックと記録帳を配る。その際,記録帳は最初の100冊分だけを渡す。ウサギをあしらったパステルカラーのカードで,バインダーにとじられるようにしている。100冊到達するごとに,次はサル,その次はペンギンと,新しい記録帳を渡す。10色10種類の動物のカードが集まると目標の1,000冊に到達,という仕組みになっている。記録帳は,同館のウェブサイトで見られるようになっている。

 プレゼントについては,けっして高価なものを贈るわけではなく,それぞれの図書館で資金の工面ができる範囲で決めているようだ。先日報道でも取り上げられたワシントンD.C.近郊のアーリントン郡公共図書館(バージニア州)では,100冊でトートバックを,その後100冊ごとにステッカーをプレゼントする。1,000冊に到達すると,同館のこのプログラムを支援しているウーバノヴィック(Jackie Urbanovic)氏の絵本“Duck at the Door”を贈る。また「読書殿堂」入りの記念として,「1,001冊パーティ」に招待するという。

 イーストモルガン公共図書館(コロラド州)では,写真撮影を組み合わせて企画を盛り上げている。同館のプログラムでは,まず参加登録時に写真を撮る。そして100冊ごとに次の写真を撮る。写真は図書館内に設置したコーナーに,レベルや日付の情報とともに掲示している。1,000冊に到達したあかつきには,パーティに招待するとともに,それまでの写真を収められるスクラップブックもプレゼントする計画である。

 モチベーションを維持してもらううえで,もう一つ大切な要素は,親や子どもの世話をする人へのアプローチのようだ。クロスト氏は,“Every Child Ready to Read @your library”が一つのきっかけであったとしている。“Every Child Ready to Read”は,公共図書館協会(PLA)等によるイニシアティブで,図書館における親や子どもの世話をする人たちへの教育活動を推進している。実施館の案内でも,FAQやアドバイスの形で,保護者に要点を伝えている例が散見される。読む本は自由であること。同じ本を繰り返し読んでもカウントしてよいのだということ。1,000冊は多いように思うかもしれないが,例えば1日1冊読めば3年で1,000冊を超えること。このプログラムは,子どもが自分で読むようになるための準備であり,そのため,リズムをとったり,歌を歌ったりすることが重要であることなどをアドバイスしている。

 このプログラムは,大きな追加資金なく実施できることも特徴だろう。とはいえ,そのための経費が子どもの読む絵本の購入費を圧迫してはよろしくなかろう。アーリントン郡公共図書館では,友の会が,12ドルの寄付で一人の参加者を支援できるとして寄付を募っている。また州などが小額補助金制度を提供している例も見られ,実際これを利用して開始したケースもあるようだ。補助金制度は,ウィスコンシン州やコロラド州などでみられ,1館あたり250ドルから1,000ドルほどの額が設定されている。

関西館図書館協力課・依田紀久

Ref:
http://tinytipsforlibraryfun.blogspot.jp/2013/01/1000-books-before-kindergarten-is-still.html
http://tinytipsforlibraryfun.blogspot.jp/2013/05/1000-books-webinar-join-me.html
http://scls.typepad.com/programs/2013/05/let-1000-books-bloom.html
http://www.cde.state.co.us/cdelib/librarydevelopment/youthservices/1000books
http://www.cde.state.co.us/sites/default/files/documents/cdelib/librarydevelopment/youthservices/downloads/pdf/1000booksbeforekindergarten.pdf
http://pld.dpi.wi.gov/files/pld/pdf/2013_GWR_Mini-grant_info.pdf
http://www.valleyunitedway.org/2013/earlygrants.htm
https://maps.google.com/maps/ms?msid=201833468223905791500.0004d306c684e62e1980f&msa=0
http://www.bremen.lib.in.us/cr1000.htm
http://www.bremen.lib.in.us/ecrtr/index.htm
http://www.kodomo.go.jp/info/child/2013/2013-092.html
http://bergenfield.bccls.org/1000books.pdf
http://www.fcplibrary.lib.in.us/component/content/article/78-icetheme/icetabs/247-1000-books
http://arlingtonlibraryfriends.org/giving-opportunities/1000-books-before-kindergarten/
http://www.washingtonpost.com/local/arlington-library-system-starts-1000-books-before-kindergarten-to-urge-a-love-of-reading/2013/09/10/f9e984b4-1971-11e3-a628-7e6dde8f889d_story.html
http://www.timesonline.com/community/news/library-program-encourages-parents-to-start-reading-to-children-at/article_95f66deb-6956-5de9-bdb3-f3caa062a56c.html