E1442 – “将来の図書館を想像する”ACEの研究プロジェクト

カレントアウェアネス-E

No.239 2013.06.20

 

 E1442

“将来の図書館を想像する”ACEの研究プロジェクト

 

 将来の公共図書館の姿について研究するプロジェクトが,イングランド芸術評議会(ACE)により,2012年から取り組まれてきた。“Envisioning the library of the future”と題するプロジェクトである。このプロジェクトでは,公共図書館ができることは何なのか,公共図書館はどうあるべきなのかについて理解するために,以下のようなことが調査されてきた。すなわち,(1)今後10年の公共図書館を形作るであろう近年の革新的取り組みその他の動向,(2)これらの変化の影響に関する図書館の専門家の考えや,図書館に関心の高い人たちの見方,(3)一般公衆の意見,である。

 (1)については文献調査やデータ分析,(2)についてはデルファイ法やオンラインでの討論,ワークショップの開催により,図書館専門家や図書館員,著作者等の考えの調査が行われた。また(3)は,ワークショップやオンライン調査により意見が集められた。これらはいずれもシンクタンク等に委託され実施された。プロジェクト全体を通じて,調査者は800人以上の人々と対話し,オンラインの調査においては1,400人からの回答があり,オンライン上の対話は1万人以上の人たちに閲覧されてきたという。これらの調査結果はフェーズごとにリポートにまとめられ,公表されている。

 これを受けたACEの総括によれば,この委託研究により,公共図書館が人々から信頼される,全ての人に開かれた場所であり,人々は図書館が現在提供し,将来も提供し続けていくサービスを高く評価しているということが明らかになったという。実際,公的な資金による図書館サービスに対するニーズが存在するとの明確なメッセージがあったという。また同時に,公共図書館が多くの課題に直面することを認識させるものも明らかになったという。その課題には,人々が情報や文化に接する手段に影響する技術の進展,公的支出の縮減,公的サービスの設計と提供への市民の関与の増大,そして高齢化社会のニーズがある,としている。

 ACEでは,委託研究をこのように総括しつつ,レスポンスとして,ACEのデイヴィー(Alan Davey)議長が“The library of the future”と題するドキュメントを2013年5月付けで公表し,21世紀の公共図書館サービスを維持し発展させる優先事項を4点にまとめ提示している。ここで示された優先事項の内容は,以下のようなものである。

 まず1つ目の優先事項は,図書館をコミュニティのハブとすることである。将来多くの人が自宅で働いたり独居したりし,人と交わらないで生活することが推測され,様々な目的で無料の公共スペースで人が会うことは,より重要なこととなっていく。このような中,公共図書館は,人々から信頼される,安全で,民主的な場所であり,人々の活動を支援するような情報資源と専門家の助言を提供する場所となることを,研究は明らかにしている。1つ目の優先事項はこれらを受けたもので,図書館というスペースを,バーチャルなサービスも統合しながら活用していくことを課題としている。

 2つ目の優先事項は,デジタル技術と創作メディアを最大限活用することである。今回の研究では,デジタル技術は急速に発展し,人々が情報や文化を接収する方法に大きな影響をもたらし続けることが明らかとなっている。これを受け,図書館は,デジタルイノベーションの中心に位置すべきであり,コミュニティを結び付け,人々が新しい技術を体験し,実験し,習得することを手伝うことにおいて,自らの役割を発展させなければならない,としている。そして,電子書籍の貸出などを含め,技術を活用していくことを課題として指摘している。

 3つ目の優先事項は,図書館が弾力的で,持続的であることを確実とすることである。研究では,公的支出の減少の中,図書館は経費を削減し,地方公共団体からの資金を補う資金源を探すことが必要となっていること,その一方で,コミュニティは,図書館サービスの設計と提供に以前よりも深く関わり始めていることが明らかになっている。3つ目の優先事項においては,どのようなアプローチが正しいのかは不明であるとしつつ,人々が図書館サービスの設計と提供に積極的に関わるような環境を作っていくことを,課題の1つとして挙げている。

 4つ目の優先事項は,図書館で働く人たちに適切な技能を届けることである。今回の研究では,図書館がデジタル情報資源の利用支援を行うことの重要性は増しているのに対し,現在図書館で働いている人たちの研修は必ずしも十分ではないことが明らかになっているとし,図書館員の研修の強化の必要性を指摘している。

 将来の図書館について多くの人々の意見の顕在化と集約を試みた今回の研究プロジェクト。その内容は興味深いものであり,またそれを踏まえ示された優先事項については,今後の取り組みが注目されるところである。

(関西館図書館協力課・依田紀久)

Ref:
http://www.artscouncil.org.uk/what-we-do/supporting-libraries/library-of-the-future/
http://www.artscouncil.org.uk/media/uploads/pdf/The_library_of_the_future_May_2013.pdf
http://www.artscouncil.org.uk/media/uploads/pdf/Envisioning_the_library_of_the_future_phases_1_and_2_full_report.pdf