カレントアウェアネス-E
No.239 2013.06.20
E1441
図書館が私の人生を変えた:みんなで綴る図書館のストーリー
2013年4月,米国の2人の図書館員によって,“Libraries Changed My Life (LCML)”というTumblrサイトが立ち上げられた。発案者であるニューヨーク市の児童サービス担当の図書館員イングリッドと,フロリダのシステム担当の図書館員ナタリアは,このサイトを,人々が実際に経験した図書館についての前向きなストーリーを語り,図書館の価値に疑問を持つ人々にその素晴らしい影響力を伝える場所にしたいとしている。ストーリーは,サイトのメールフォームから,もしくは郵送で投稿することができる。また,テキストだけでなく,写真,動画,アート作品も受け付けられている。
投稿者の多くは子ども時代に訪れた図書館の思い出を語っている。母親の車に乗って山のような本を抱えて図書館から帰った思い出や,本への愛と質問する意欲を教えてくれた大地の精ノームのような図書館員との思い出,また,初めて学校図書館の子ども用図書のエリアから高学年用図書のエリアに行き,図書館員から図書を薦められた思い出等,それぞれの投稿者が自身の言葉で自身の体験を綴っている。中には,引っ越した町に図書館がないことが分かり,ショックを受けて母親と一緒に図書館設立のロビー活動を行う団体を探したと語る投稿者もいる。この投稿者の住んでいた町には,最終的に新しい図書館が開館した。また,何年か後に都会へ引っ越すことになった時,彼女の引っ越し先を選ぶ第一条件は,大きな公共図書館があることだったという。
配偶者の失業により,娘のために絵本が買えなくなり,図書館に通うようになったという投稿もある。投稿者は家族で図書館を訪れ,パズルやおもちゃの家具で遊び,他の家族と交流をはかり,図書館員と会話し,娘が求めるだけの絵本を借りて帰るようになった。何度か図書館を訪れるうちに娘が図書館を好きだということがわかり,「失業は家族にとって辛いことだったけれど,娘が幼い時期から図書館に行かなければいけなくなったことは,ある意味喜ばしいことだった」と投稿者は語っている。今は仕事も見つかり,また本が買えるようにもなったが,娘が多くの本を無料で楽しめる図書館をできるだけ家族そろって訪れるようにしている。
投稿されたストーリーは,読書に関するものだけではない。イリノイ州の図書館で開催されたコンサートについて紹介した投稿がある。投稿者の両親は,米国の作曲家の歴史について,講演と演奏で紹介する“Meet George Gershwin”という企画をたてた。リサーチライブラリアンは図書館システムを使い,投稿者の父親いわく「とてつもなくすばらしい」資料を見つけてプログラムを手伝ってくれたという。
図書館員によって投稿されたストーリーもある。緑色の幼虫の画像と共に投稿されたのは,庭で見つけたアメリカオオミズアオの幼虫を図書館員に見せに来た4歳の少年のストーリーである。少年は図書館の拡大鏡を使って,幼虫とさなぎを綿密に調査した後,彼の裏庭における生態学についてより深く研究するために,“the savage garden”(コメディ俳優レスリー・ニールセンが庭の植物や生物を紹介するNational Geographicのビデオ)を借りていった。
一方で,図書館が自分の人生を変えたとは言えないと語る投稿もある。この投稿者は,「記憶する限り図書館に行かなかった時期はないから」人生を変えたとは言えないという。また別の投稿者は次のように述べている。「自分の人生で図書館が人生を変えた一瞬を示すことはできない。単純には数えられないほどある。」「変化は緩やかで終わりがなく,旅のようで,だからこそ一層重要だ。」
2013年6月9日現在までに約35件の投稿が掲載されており,その内容は様々である。LCMLには現在も新しい投稿が日々追加されている。
(関西館図書館協力課・安原通代)
Ref:
http://librarieschangedmylife.tumblr.com/
https://www.facebook.com/LibrariesChangedMyLife
http://shop.nationalgeographic.com/ngs/product/dvds/animals-and-nature/animals-and-wildlife/savage-gardens-dvd-exclusive