カレントアウェアネス-E
No.232 2013.02.21
E1397
学校図書館ビフォー&アフター:秋田県立図書館の取り組み
秋田県立図書館が県内で実施している研修に「学校図書館ビフォー&アフター」というものがある。某テレビ番組から拝借した名称でわかるように,学校図書館を舞台として,研修の時間内に書架などの配置変更や展示を行い,図書館を“改造”してしまおうというワークショップである。
これは,学校図書館と公立図書館の連携や関係職員の育成を図るため,より実践的で,成果が目に見え,さらに参加者のモチベーションを上げられるような研修ができないかと考え,生みだしたものである。今では県内の小中学校で年5回ほど開催する人気メニューとなっている。
この研修のきっかけは,2008年に秋田県教育委員会が策定した「第二次県民の読書活動推進計画」を受けて,当館でも小中学校図書館への支援を始めたことである。まずは2009年度から小中学校図書館関係者研修講座を開始した。なかでも参加者から特に好評だったのは実際に展示を作成する研修である。限られた時間内で,テーマの設定,資料の選定,飾り付けと盛りだくさんの作業をこなさなければならない。従来の分類法とは異なる切り口から資料を捉え,多様な資料を活用できる図書館の面白さを体感できる研修である。また,こうした事業が軌道に乗ってきたころ,ある小学校から相談があり,図書館の環境改善プランを提案したところ図書館の利用が活発になったという事例もあった。
このような経験を活かし,2010年度から学校図書館ビフォー&アフターが始まった。会場となる学校だけではなく地区全体の研修となるように,市町村や郡単位で開催し,複数の学校の図書担当教職員や地元の市町村図書館職員,PTA,ボランティアなど様々な人が参加している。1回の参加者数は20~40名,研修時間は3時間程度である。
ビフォー&アフター研修では,改善プランとして主に次の点を提案している。
- 学校図書館を“商店”と想定し,入ってみたくなる入口を作る
- 古い本を整理し,面展示することで,学校図書館を明るく見せる
- 特定の対象を想定したテーマ展示を行う
- 本と閲覧席を近くして,読書のための場を作る
- カウンターや書架でも小展示を行う
また,学校図書館の状況を踏まえ,作業の心得として3つの「ない」を挙げている。
- 手間をかけない
- お金をかけない
- 一人でがんばりすぎない。周囲の手を借りよう
この研修は授業のない夏休みなどの時期に行うことが多く,北国とはいえエアコンなしの図書館で書架や本を運んだりしていると汗だくの作業となってしまう。しかし作業が進み改善プランの目指す姿が見えてくると,参加者の目が輝き出す。展示などのアイデアがどんどん出されるようになり,文字どおり研修が“走り出す”。毎回,やりがいを感じる瞬間である。
最後にグループごとの発表と講評を行い,作業内容と成果を共有している。
研修参加者からは毎回「本の置き方ひとつで図書館がこんなに変わると思わなかった」,「展示でこんなに図書館が楽しくなるのか」などの声が聞かれている。ある小学校では,通常1日で50名ほどの利用者の図書室が,研修後は昼休みだけで百数十名の子どもたちでごった返した。図書館を見た子どもたちからは「(スポーツのテーマ展示を見て)スポーツが苦手でも読んでみようという気持ちになる」,「季節にあった本がおいてあるのがすごくいい」,「本は平らにおいてあった方が見やすい。どこにどんな本があるかわかりやすい」といった感想があった。リニューアルの意図がしっかり伝わったようだ。
さらに,わずか2~3時間で図書館の様子が大きく変化したことで,他の教職員の図書館への関心が高まるケースもあった。複数の学校の校長先生から「参加者の顔が輝いていて楽しそう」,「うちの図書館にこんなに良い本があったのか」などの声も聞こえている。
このように,図書館だけではなく,参加者や周囲の人々にも“ビフォー&アフター”があったのである。
県内には約360校の小中学校があり,すべての学校図書館を当館だけの力で改善することはできない。しかし,このビフォー&アフター研修を受けた市町村図書館職員が講師となって同様の研修会を主催するケースがいくつかの市町村で生まれてきている。市町村図書館と学校図書館の間にも,団体貸出といった物的支援にとどまらず,技術的なノウハウを提供するなど互いの顔の見える関係ができ,それを県立図書館が技術面,資料面で支援する体制が整いつつある。この動きを支え,県内図書館の一層の活性化を実現するため,秋田県立図書館ではこれからも次の一手を探りながら支援を続けていきたいと考えている。
(秋田県立図書館・成田亮子)
Ref:
http://blog.keiyou.jp/akitalib/post/2012/07/20/634785727373281250.aspx
http://blog.keiyou.jp/akitalib/post/2013/02/20/634968934174195000.aspx
http://blog.keiyou.jp/akitalib/post/2013/02/20/634969624800913750.aspx
http://iss.ndl.go.jp/books/R000000004-I11159566-00