E1409 – 特集“図書館におけるデジタル人文学”<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.233 2013.03.07

 

 E1409

特集“図書館におけるデジタル人文学”<文献紹介>

 

Special topic section, Digital Humanities in Libraries: New Models for Scholarly Engagement. Journal of Library Administration, 2013, 53(1), p. 1-96.

 昨今,米国の大学図書館界によるデジタル人文学(Digital Humanities)研究への参加あるいは支援が活発に行われている。スタンフォード大学等の図書館にはデジタル人文学研究のサポートサービスが行われているし,最近開設された大学・研究図書館協会(ACRL)のデジタル人文学グループのウェブサイト“dh+lib”では情報提供と議論が活発である。かの国のデジタル人文学は着実に図書館界との協同の地歩を築きつつある。

 そのような中刊行された“Journal of Library Administration”誌53巻1号では,“Digital Humanities in Libraries: New Models for Scholarly Engagement”という名の特集が組まれている。図書館におけるデジタル人文学はホットなテーマでありながら,これまで関連文献が少なかったため,この特集のもつ意義は大きい。この号には序論を含め7本の論文が掲載されているが,ここではデジタル人文学と図書館の関わりを理論的に論じた論文と,一機関に焦点を当ててその活動等を紹介した論文の2本を紹介したい。

(1)Chris Alen Sula. Digital Humanities and Libraries: A Conceptual Model. p. 10-26.

 プラット・インスティテュートのスーラによるこの論文は,デジタル人文学と図書館との関わりを概念モデルで示している。その概念モデルは,図書館等の文化遺産機関が扱うコンテンツの性質をx軸に,そしてコンピュータの領域かあるいは人の領分かをy軸に据えて,デジタル人文学で登場する23の事象や活動(linked data,GISツール,オープンアクセス,アドヴォカシー等)をその平面上に位置づけたものである。スーラはこのモデルが,図書館とデジタル人文学が相互に補完的な関係にあること,デジタル人文学が図書館界の中で永続的な位置を占めていることを示すものだと述べている。確かに図書館とデジタル人文学の2つの世界は密接に関わりあっていることがここから分かる。

 またこの論文では,モデル提示に先だち,デジタル人文学における図書館の位置づけについての議論をまとめており,前提を整理する上で有用である。この特集号の序論とともにおさえておきたい。

(2)Bethany Nowviskie. Skunks in the Library: A Path to Production for Scholarly R&D. p. 53-66.

 ノウヴィスキの論考は,2006年にデジタル人文学研究センターとしてバージニア大学図書館に設置されたScholars’ Labについて,開設に至る背景と活動の現状,そして図書館との関連性を論じたものである。

 ノウヴィスキは,図書館に置かれた人文学のための研究開発を“スカンク・ワーク”(組織からの影響を排した独立的な研究開発活動のこと)と呼び,その活動に図書館がパートナーとして関わるべきだと唱えている。このような主張の背景として,ノウヴィスキ自身がそうであるように,大学教員とは異なるキャリアパス(“alt-ac”/オルト・アカデミーという)を歩む人文学博士号取得者が,図書館やデジタル人文学関係のポストで増えつつあることが指摘されている。

 またノウヴィスキは,デジタル人文学という拡大しつつある学問領域では,図書館に基盤を置くこのような研究開発機関が重要な役割を占めているとも述べている。その理由として,デジタル人文学コミュニティの成長に伴い,管理の行き届いたプロジェクトやチーム,成果発表等のための場やそれを支える実務家等がこれまで以上に必要となり,それらのニーズの交点に図書館及び図書館付設の研究機関が位置しているからだとしている。

 そしてScholars’ Labの紹介では,デジタル人文学教育の機能を備えていることがまず取り上げられ,“場”としてのラボの機能が紹介されている。次にそのラボのプロジェクトが,すぐに役立つもの,サービス改善に資するものを方針に据えていることが述べられ,現在はディスカバリポータルのデザインや機能改善,GISデータとデジタル化した古地図配信のためのウェブサービスに取り組んでいるとの紹介がなされている。

 この特集号には上の2つの論考の他に,大学図書館におけるデジタル人文学の阻害要因をブログで論じて昨夏話題となったポスナー(Miriam Posner)(E1334参照)の論文や,ニューヨーク公共図書館の“NYPL Lab”を紹介した論文などが掲載されている。“Journal of Library Administration”誌自体はオープンアクセス誌ではないが,執筆者らが出版社と交渉した結果,ほぼ全ての論文がリポジトリ等で公開されている。図書館とデジタル人文学についての最新の理論と現実を知る上で一読をお勧めしたい。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://www.tandfonline.com/toc/wjla20/53/1
http://acrl.ala.org/dh/
http://thegirlworks.wordpress.com/2013/01/30/open-access-reads-digital-humanities-in-libraries/
https://micahvandegrift.posterous.com/proof
http://chrisalensula.org/digital-humanities-and-libraries-a-conceptual-model/
http://archive.nyu.edu/handle/2451/31698
http://www.escholarship.org/uc/item/6q2625np
http://libra.virginia.edu/catalog/libra-oa:2745
https://open.library.emory.edu/publications/emory:cwzbf/
E1334