E1343 – 記念展示会「関西の図書館100年,関西館の10年」を企画して

カレントアウェアネス-E

No.223 2012.09.27

 

 E1343

記念展示会「関西の図書館100年,関西館の10年」を企画して

 

 国立国会図書館関西館では,2012年10月1日から31日の期間,「関西の図書館100年,関西館の10年」と題する展示会を開催する。本展示会は関西館が開館10周年を迎えるにあたっての記念行事の一環で,筆者は企画の段階から関わった。

 展示内容については検討の段階から色々なアイデアが挙がっていたが,今回の展示では,“図書館の歴史”を取り上げることにした。その理由はいたってシンプルである。展示を通じて,「図書館のことをより多くの方に,もっと深く知っていただきたい」ということに尽きる。

 本誌読者の方はご承知のように,図書館は実に様々な業務を日々行っている。資料提供やレファレンス・サービスなどの直接的な業務もあれば,収集整理業務をはじめとして,カウンター越しには見ることのできない裏方の業務も数多く存在する。関西館が行っている図書館協力事業や電子図書館事業などは,一般の利用者からは見えにくい部分であるが,だからといって決してその重要性が低いわけではない。また,図書館の業務とサービスは,時代のニーズに対応しながら発展してきた歴史を持っている。日ごろから図書館をよく利用する方であっても,多くの場合,図書館業務の多様性には気づかないであろうし,図書館員であっても,毎日の業務の中で自館のサービスの歴史に思いを致すことはなかなか容易ではない。

 そこで企画にあたっては,関西館が10年間取り組んできた事業の歴史を振り返るだけでなく,関西館が置かれた地域の図書館の歴史を,100年という長いスパンの下で捉えられるよう構成に配慮した。本展示会は2部10章からなり,93点の資料で構成している。第I部では「関西の図書館100年」と題し,「100年前の図書館」「大正・昭和前期の図書館」「戦後図書館運動の起こり」「地域・生活のなかの図書館」「21世紀の図書館へ」という時代ごとのトピックを設け,新聞・雑誌記事や写真,各図書館の発行物などから関西の図書館の歴史を概観する。また,第II部では「関西館の10年」と題し,「国立国会図書館について」「関西館構想と建築」「関西館の事業」「関西館所蔵のコレクション」「これからの10年(近年の取り組みから)」というテーマに沿って,関西館設立に至る文書類や事業報告書などから関西館のあゆみを辿る内容となっている。また,担当職員による展示解説も予定している。

 歴史は現在と過去との対話であり,同時に未来を構想するためのヒントの宝庫でもある。これまで図書館や図書館員がどのような想いでサービスに取り組んできたのかについて知ることは,これからの新しい図書館のサービスを考えるために,必要不可欠のことだと筆者は考える。

 展示企画にあたって幸運だったのは,関西に,明治以来,日本の図書館史上で重要とされる顕著な図書館活動が行われてきたという豊富な事例の蓄積があったことである。1900年,京都帝国大学附属図書館の職員を中心に結成された関西文庫協会は,日本で初めて図書館学の専門雑誌『東壁』を発行し,当時一般にあまり知られていなかった図書館の事業について啓蒙活動に努めていった。また,昭和に入ると,大阪の図書館用品専門店であった間宮商店を中心に青年図書館員聯盟が結成された。青年図書館員聯盟は,『日本十進分類法』を作成するなど,現在に通じる図書館業務の基礎を築いていった。戦後は,神戸市立図書館長だった志智嘉九郎が中心となって,公共図書館におけるレファレンス・サービスの理論化に努め,実践においても多くの業績を残した。このほかにも,阪神・淡路大震災後の取組など,今日に至るまで注目すべき活動が数多く存在する。こうした地域のコンテクストを介在させることによって,関西館を含めた図書館の活動について,より深く知っていただける内容になったのではないかと思う。

 冒頭に述べたように,本展示の企画意図は,「図書館のことをより多くの方に,もっと深く知っていただきたい」という点にある。ささやかではあるが,本展示会が,使う側,働く側を問わず,図書館に関わる全ての方にとって,図書館について考えるきっかけとなれば幸いである。

(関西館収集整理課・長尾宗典)

Ref:
http://www.ndl.go.jp/jp/event/exhibitions/1195752_1376.html
http://www.ndl.go.jp/jp/service/kansai/about/10th_anniversary.html