E1342 – 北米大学・研究図書館でのボーンデジタル資料の管理の実態

カレントアウェアネス-E

No.223 2012.09.27

 

 E1342

北米大学・研究図書館でのボーンデジタル資料の管理の実態

 

 北米研究図書館協会(ARL)が,報告書シリーズ“SPEC Kit”の329号として,“Managing Born-Digital Special Collections and Archival Materials”(2012年8月付)を刊行した。この報告書は,2012年2月から3月にかけて,ARLが加盟126館に対してボーンデジタル資料に携わる職員体制,収集・処理ワークフロー等に関する調査を実施し,それに回答した64館の結果をまとめたものである。調査結果からは,59館(回答館の92%)がすでにボーンデジタル資料の収集を実施,残る5館も収集を検討している等,北米の大学・研究図書館が熱心に取組んでいる様子が明らかになった。以下,報告書の要約文書を元にその内容を紹介する。

  • 職員・組織体制
     ボーンデジタル資料の収集管理担当職員数は,フルタイム換算値(FTE)で1人未満から60人と開きがあった。ボーンデジタル資料の収集は,機関内のアーキビストや図書館員が開拓してきたが,管理に関しては,デジタル化やデジタルキュレーション,IT,機関リポジトリを担当する様々な部署の職員が関わっている。
  • 収集対象のボーンデジタル資料
     収集対象のボーンデジタル資料には,デジタル形式の博士論文,個人・機関のアーカイブズ資料,研究データ等がある。デジタル形式の博士論文の収集を実施しているのは,回答のあった64館中54館(84%)であった。また,個人アーカイブや組織のアーカイブズ資料は大多数の館が収集している。研究データの収集を実施しているのは21館,ほか28館がその実施に向けた検討を行っている。写真,視聴覚記録,テキスト,動画が最もよく収集されているファイル形式である。ウェブサイトや電子メール,データベースの収集を行っているのは約3分の1の館である。ソーシャルメディアのデータを集めているのは6館のみだったが,23館が今後の実施を検討している。
  • 収集戦略
     回答館の77%が,現在では使われなくなった記憶媒体である“レガシーメディア”に保存されているボーンデジタル資料の収集を行っている。また,回答館のほぼすべてがメディアをそのまま保存しており,約半数の館がデータを利用することのできるハードウェアも収集している。15館(25%)がデータの利用を実施しており,8館のみが旧システムの機能を再現するシステムの構築を行っている。
  • ストレージの方法
     収集・処理・アクセス提供・バックアップ・長期保存で使用されているストレージメディアの種類を尋ねたところ,最も回答が多かったのは外部メディアやネットワークファイルシステム,ローカルストレージを複合的に組み合わせるものであった。また,クラウドストレージを利用していたのは12館(19%)だけであった。
  • アクセス提供
     回答館の3分の2がデジタルリポジトリシステムへのオンラインアクセスを提供しており,図書館内の特定端末からのアクセスに限定しているのは回答館の半数に満たない。また,利用者が自身のPCを利用して,ポータブルメディアに保存されたボーンデジタル資料にアクセスすることができるようにしている館が22館であった。8館はCONTENTdmやArchive-IT,Dropbox等の外部のシステムを利用してアクセスできるようにしていた。

 以上のほかに,報告書では,収集・ストレージ・アクセスにおいて障害とされている課題や,ボーンデジタル資料に含まれる個人情報の扱いについての懸念等が示されている。そして要約の結論部では,ボーンデジタル資料の収集管理がプロジェクトから定常業務へと変わるためには,ハードウェアとソフトウェアの陳腐化に取組む協働体制の構築や,可能な限りのワークフローの自動化等が必須であるとする回答館の意見が紹介されている。

(関西館図書館協力課・菊池信彦)

Ref:
http://publications.arl.org/2h4qbi.pdf
http://publications.arl.org/Managing-Born-Digital-Special-Collections-and-Archival-Materials-SPEC-Kit-329