E1341 – オープンアクセスの未来に大学図書館の役割として残るものは

カレントアウェアネス-E

No.223 2012.09.27

 

 E1341

オープンアクセスの未来に大学図書館の役割として残るものは

 

 2002年にブダペストオープンアクセス運動(BOAI)によってオープンアクセス(OA)を提唱するブダペスト宣言が発表されてからはや10年になる。その間国内外で様々な取組みがなされ,数多くの資料がOAとして利用できるようになってきている。一方でそれは図書館が蓄積してきた膨大なコレクションの価値が相対的に低下していくという可能性をはらんでいる。では,OAの発展した未来における大学図書館の役割はどのようなものであろうか?

 このような問題意識に基づくレポート“Moving towards an open access future: the role of academic libraries”(2012年8月付け)が英国の学術出版社であるSage社より発表された。これは同社が4月に英国図書館(BL)で開催したラウンドテーブルの議論をまとめたものである。その参加者には英米の図書館員のほか,JISC Collectionsや北米研究図書館センター(CRL),中東のカタール財団といった団体の専門家ら計14人が名を連ねている。

 ラウンドテーブルでは,10年後のOAの状況,大学の研究・教育・学習や図書館のサービスの変化,大学または図書館における予算配分・管理への影響,大学のOAへの投資における図書館の役割,大学・図書館・出版社の関係などの9つの議題について意見が交わされた。ここでは,レポートでまとめられている議論の様子を,大学図書館(員)の役割に関する言及を交えつつ次の3つの観点から紹介したい。

 1つ目の観点は「予算」である。OAへの移行は消費者=図書館による購読費の負担から生産者=研究者による出版料(APC)の負担へのシフトを意味し,その結果,国や機関によって状況は異なるものの,図書館予算の減少につながるだろうとされている。APCの管理に図書館がどの程度関与するかが話題になり,研究者がどれくらいOA誌に投稿するかが分からないため予算枠が不透明だという問題点が指摘され,それに対して年会費制度を用意するOA誌もあると紹介された。「図書館がOA予算を管理するのは自然だ」と「助成機関が研究者に対して助成を行うのなら,研究者が直接APCを支払うほうが良い」という両方の意見が出た。

 2つ目は「コミュニケーション」である。研究者らの間には依然としてOAについて強い不信や誤解があり,彼らや所属機関とのコミュニケーションが図書館の重要な役割になると指摘している。論文投稿の際に費用が発生することに対して否定的な考えを持つ研究者は多く,また,投稿先について指示をされることも好まれない。そのような研究者にOAの利点・過程・意義を明確に伝えるため,図書館員にはコミュニケーションスキルが求められるとしている。コミュニケーションを取る際に,機関内の全部局と関係を構築していることは他部署にはない図書館の強みであるとも述べられている。

 3つ目は「協働」である。メタデータの管理や資料保存における図書館員のスキルはOAの時代でも必要とされるが,これらの活動は個別の機関ではなく“ウェブスケール”で行われるようになるだろうと指摘している。関連して,OAが進展してゆき提供するリソースやツールに違いが薄れてきた場合,それぞれの大学図書館はどのようにして差を生みだすのかという疑問が提出された。実際にサブジェクトライブラリアンの共有を検討しているという声が挙がり,「個別の図書館という概念は消え去っていく。我々は協働していかなくてはいけない」と答える者もいた。協働のためには図書館の間でOA戦略についてさらなる対話を行うことが求められるであろうとし,図書館という枠を超えた協力の可能性についても触れられている。

 レポートの結論部分では,OAの進展によって図書館の伝統的な役割の一部は失われ,変化を迫られるであろうが,研究活動において,大学図書館は引き続き所属機関の中で重要な位置を占めていくに違いないと結ばれている。ただしそのためには,大学図書館が創造的であろうと努め,新たな方法による利用者の支援を積極的に行っていくことが必要であるとされている。

(関西館図書館協力課・林豊)

Ref:
http://www.uk.sagepub.com/repository/binaries/pdf/Library-OAReport.pdf