E1257 – 大学図書館とデジタル学習環境<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.208 2012.01.19

 

 E1257

大学図書館とデジタル学習環境<文献紹介>

 

Dale, Penny; Beard, Jill; Holland, Matt eds. University Libraries and Digital Learning Environments. Ashgate Publishing, 2011. 278p. ISBN-13: 978-0-7546-7957-8. e-ISBN: 978-0-7546-9897-5.

 インターネットとデジタル資料の普及は,大学図書館の機能である教育・研究に必要とされる資料や情報の収集・保存・提供に対して大きなインパクトを与えているばかりではなく,大学図書館サービスや業務そのものに対して根本的な疑問を投げかけているといってよいであろう。

 本書『大学図書館とデジタル学習環境』は,物理的空間や学術コミュニケーションにおける大学図書館の役割を含む,デジタル環境下での大学図書館の主要課題を取り上げた論文集である。執筆者は英国を中心とした18人の実務家であり,編者の序論に続く16の論文から構成されている。

 初めに概論ともいえる第1章「今日もここにある,明日もここにある」では,現在と将来にわたり,デジタル学習環境を作り,支え,そこに参加する際に大学図書館が果たす重要な役割が述べられている。次に第2章「重要なのはソーシャルメディア」では,ソーシャルメディアと呼ばれる現象に焦点が当てられている。第3章「デジタル環境下の情報リテラシー」では,デジタル学習環境下での情報リテラシーの包括的概観とその役割の調査結果が提供されている。第4章「デジタル世界の専門職教育」では,進展しつつあるデジタル世界で成功する図書館サービスの提供のために必要な専門職教育やスキルや知識が検討されている。第5章「図書館のカメレオン:物理的空間」では,いくつかの大学の事例研究に基づき,21世紀初頭の英国の大学図書館の建築とデザインの動向がまとめられている。第6章「バーチャルアドバイスサービス」では,リアルとバーチャルを融合した環境におけるサービスの提供を考察し,特にチャットレファレンスサービスの導入と運営に含まれる課題が検討されている。第7章「電子読書への進化」では,デジタル学習環境における読書について検討し,学生支援に必要なパートナーシップが考察されている。

 次の3章は研究活動に焦点を当てている。第8章「機関リポジトリ:現在と将来」では,大学にとって機関リポジトリがその研究成果の視認性とインパクトを強化する基本的ツールとなりつつあることや,eサイエンスを支援する将来の役割を指摘するとともに,発展を阻害する障壁について議論されている。第9章「リポジトリを大切にする:成功した導入から学ぶ」では,研究支援における機関リポジトリの重要性を検討し,機関リポジトリが大学組織にいかに適合しているか,エンドユーザと投稿者に対して機関リポジトリの利用をいかに促進するか,最も広範囲な利害関係者に対して長期間にわたる便益をいかに保証するかの3つの領域を重点的に扱い,ボーンマス大学研究オンライン(BURO)の導入について説明している。第10章「仮想研究環境の構築:ユーザ主導デザインの必要性」では,オンライン情報資源の発展は仮想研究環境を招来し,その成功のためには開発者とサービス対象のユーザコミュニティとの密接な連携が必要であることを強調する。

 第11章「継続教育における高等教育のデジタルジレンマ」では,高等教育及び継続教育におけるリソース提供についての懸案事項に対する取組とその克服について展望し,仮想学習環境の新たな利用がもたらしたチャンスと課題が述べられている。第12章「英国大学図書館が提供する留学生へのオンライン支援」では,増え続ける留学生について米国及びオーストラリアと比較しながらその支援の実態が調査されている。本書で何人もの執筆者が言及している評価とパフォーマンス測定に関しては,第13章「デジタル時代における図書館パフォーマンス測定」で検討されている。第14章「図書館資源:デジタル世界における入手,革新および活用」では,ハイブリッド及びデジタル環境下において,資源を提供するために必要となるスキルや革新的方法やワークフローの改善が説明されている。

 最後の2つの章は未来に目を向けたものである。第4章と対をなす第15章「継続専門職教育及び職場学習」では,変化するデジタル環境下で継続専門職教育が従来にも増して重要になりつつあると指摘し,近い将来のニーズについてのヒントとなる優れた実践例が提供されている。第16章「学術コミュニケーション変革の助産師としての図書館職員」では,デジタル時代が大学図書館業務を一新する可能性があると指摘し,今後の図書館は他大学の研究成果を収集・蓄積し,広める代わりに,所属する学者の全ての研究成果を収集するようになり,広範囲の学術コミュニティでそれらが利用できるようになるだろうと予測している。

 本書は図書全体としてのまとまりがやや弱く,論文の配列もランダムであり,主に英国の実践に基づいたものである。しかしながら,その適用範囲は広く,個々の論文で刺激的な議論と明快なビジョンが示された優れた論文集といえよう。本書に共通するテーマであるテクノロジー,特にモバイルテクノロジーがもたらしたチャンス,図書館職員の訓練と能力開発の重要性,評価,教育と研究の相互依存,そしてそれらを結びつけるテクノロジーの役割に関心のある大学図書館関係者の方に本書をお勧めしたい。

(名古屋大学附属図書館・加藤信哉)

Ref:
http://www.ashgate.com/default.aspx?page=637&pageSubject=324&calcTitle=1&priorityone=1&title_id=9347&edition_id=12718