カレントアウェアネス-E
No.186 2011.01.20
E1136
北米の大学図書館における障害者サービスの調査結果
北米研究図書館協会(ARL)は,2010年12月に,報告書シリーズ“SPEC Kit”の第321号として,研究図書館・大学図書館における,障害のある利用者向けのサービスについての調査結果報告書を刊行した。ARLのウェブサイトで公開されている要約部分を基に,その概要を紹介する。
調査は2010年の8月から10月にかけて行われ,ARL加盟館125館のうち62館から回答があった。調査項目は,サービス内容や設備,サービス方針,担当職員やその研修等であり,1999年の同様の調査からの変化を見ることも考慮された。
<サービスの内容・設備等について>
- 検索やコピー等の職員による代行はほぼ全ての館で行われており,代行貸出カードの発行や貸出期間の延長等を行っている館もある。約4分の1の回答館では,障害者サービス専用デスクが備えられている。
- 学習スペースについては,大半の館には高さ調整の可能なコンピュータ端末用デスクが備えられており,全ての席が車いす対応である館も1館あった。60%の回答館にはアクセシビリティ支援技術の付いた端末があるが,その台数は,図書館の規模や大学の障害者担当部署との連携具合により差が大きい。
- ソフトウェアについては,製品が限られ,あまり選択の幅がないことがうかがえたが,60館で文字拡大ソフトが使用されていた。また,学習障害への理解の高まりに伴い,より高機能のシステムが使用されるようになっている。
- 機器については,スキャナー,スピーカー,拡大読書器等は大半の図書館に備えられており,15館は点字関連の機器があると回答した。その他に,手話のためのテレビ電話,読み上げ機能付き計算機,ボイスレコーダー等を所蔵している館もあった。
<サービス方針・職員等について>
- サービスやソフトウェア・機器の決定については,利用者の要望を反映するとの回答が大半であったが,多くの機関では,大学本部の障害者担当部署がサービス等を決定しており,図書館で利用者のニーズを調べたことがあるのは9館のみであった。
- 潜在的な利用者にサービスを周知する方法としては,大学の障害者担当部署での案内,図書館のウェブサイト,口コミの3つが主な方法であったが,館内の案内表示,オリエンテーション,パンフレット等も利用されていた。
- サービスを提供する職員については,カウンターに出る全ての職員が対応するという回答が圧倒的であった。その研修方法については,館内での実地研修に加え,ワークショップやウェブ上セミナー等への参加等があげられたが,自己学習のみという回答も多くあった。
- ソフトウェアや機器等の財源については,通常の図書館運営費を財源としている館は60%で,大学の障害者担当部署から財政的支援がある館は半数弱であった。図書館や大学のIT予算から支出されている館もあった。障害 者関連の予算としての割当てがある館は3館のみであった。
このような実態を踏まえ,結論部分では,ソフトウェアや機器の価格が高いこと,職員研修が十分でないこと,責任者が他の業務を抱えており障害者サービスの専任とはなれない状態であること等の課題があり,こうした状況は1999年の調査時と変わっていないとしながらも,各館では,よりよいサービス提供を目指した意欲的な取組みが行われていると指摘している。
Ref:
http://www.arl.org/news/pr/spec321-december10.shtml
http://www.arl.org/bm~doc/spec-321-web.pdf