E1092 – 日本学術会議による提言「学術誌問題の解決に向けて」

カレントアウェアネス-E

No.178 2010.09.02

 

 E1092

日本学術会議による提言「学術誌問題の解決に向けて」

 

 日本学術会議は,2010年8月2日付けで日本における学術誌問題に関する提言「学術誌問題の解決に向けて-『包括的学術誌コンソーシアム』の創設-」を公開した。以下では,提言書の内容について簡単に紹介する。

 第1章「はじめに」では,後章で指摘するポイントについて大まかな前提と見取り図を示し,そのうえで第2章「学術誌を巡る現状・動向」において,学術誌を巡る現状とその問題点がまとめられている。すなわち,日本の学術誌の情報流通は海外の学術誌商業誌に過度に依存しなければならない状況であること,学術誌へのアクセスおよび学術誌による発信の両面において機能不全に陥っていること,学術情報流通に関わる人材の不足等である。

 第3章「学術誌へのアクセス,学術誌による発信のあるべき姿」では,上述の問題点を踏まえそれぞれの論点での「あるべき姿」を提示している。学術誌へのアクセスについては,カレントファイルおよびバックファイルの学術情報へのアクセスの確保,人文社会科学系でなお多い印刷媒体での学術誌の収集と提供体制の確立の必要性等であり,学術誌による発信については,特に海外に向けた発信が必要であること,またその中で科学者自身も積極的に参加することが求められている。人材のあるべき姿として,学術誌へのアクセスを担う人材と学術誌による発信を担う人材の双方の育成と確保が必要と述べられている。そして最後に論点全体に関わるものとして,国際競争力のある学術情報の発信のための共通プラットフォームの必要性が示されている。

 第4章「喫緊の課題」では,前章での「あるべき姿」の実現に向けた課題として,次の4点が挙げられている。1つ目は学術情報流通を担う人材の育成。2つ目は学術誌へのミニマムアクセスの確保。3つ目は,国内の統一的なプラットフォームによる学術誌による発信体制の強化。そして4つ目として,学術情報流通にこれまで消極的であった科学者の意識改革を行い,科学者自身が責任をもって主体的に学術情報の流通に関わることの必要性が指摘されている。

 最後に第5章では,上述の課題を踏まえ,以下の6項目を提言としてまとめている。

(1) 包括的学術誌コンソーシアム(Comprehensive Consortium on Scholarly Publishing and Collection:C2SPC)を設置し,学術誌へのアクセスに関する課題と発信に関する課題の双方に取り組む。

(2) 前項(1) の実現のための人材を国の財政支援によって雇用し,既存の図書館コンソーシアム間の全国的連携や学術誌商業出版社との交渉,学術誌の編集・規格,制作・公開,広報・営業に関する指導等を行う。

(3) バックファイルへのアクセスを確保する。また,電子資料コレクション形成事業を推進する。

(4) 科学技術振興機構(JST)と国立国会図書館(NDL)がそれぞれの持つ学術誌閲覧提供機能を統廃合し,海外主要学術誌のアーカイブを構築し,誰もがアクセス可能な環境を確保する。

(5) 日本からの学術誌の受発信体制の一本化と強化を行う。

(6) 学術情報流通専門家養成コースを含む博士課程・修士課程(社会人を含む)を新設し,中長期的に学術情報流通分野で活躍できる人材を育成する。

Ref:
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-t101-1.pdf