E1085 – 公共図書館と電子書籍の関係についての報告書(米国)

カレントアウェアネス-E

No.177 2010.08.19

 

 E1085

公共図書館と電子書籍の関係についての報告書(米国)

 

 2010年7月,米国の州立図書館機構の長で構成されるCOSLA(Chief Officers of State Library Agencies)は,公共図書館と電子書籍との関係についての報告書を公表した。報告書は,図書館の幹部職員及び図書館外部の専門家に対するインタビューの結果と,今後の行動シナリオという構成になっている。

 図書館幹部職員に対するインタビューの要約部分では,背景の説明として,電子書籍や電子書籍リーダーが社会に普及すると公共図書館の意義やミッションが埋没しかねないため,公共図書館のサービスに電子書籍を組み込んでいく必要があると指摘している。インタビュー対象者からは,利用者が電子書籍リーダーを借り出したり試したりするための低コストの仕組み,図書館の電子書籍の検索・利用方法の改善,購入費用抑制のための国単位での共同購入,価格やライセンスに関し出版社やベンダーに対する影響力の強化,図書館の役割を資料の提供場所から創造の場所へ変化させること,等の点に関して対応が必要であるとの認識が示された。

 これらの点について,図書館関係雑誌編集者,図書館情報学研究者,電子書籍提供会社等の図書館外部の専門家へのインタビューが行われ,その結果を踏まえ,公共図書館のための行動シナリオが作成された。シナリオのうち電子書籍に直接関係するものとしては,次のようなものがある。

  • 全米規模のコンソーシアムを結成し,ベンダーや出版社に対する影響力を高める。これにより,価格の低下や選書作業の負担軽減等のメリットが見込まれる。ただし,ほとんどの図書館が加入することで初めて機能するものであるため,全ての公共図書館にとって参加するメリットがあることが必要である。
  • 非営利団体Internet Archiveによる,電子書籍のメタデータを共有するサービス“BookServer”を利用する。各図書館の個別のサイトではなく,統一されたインターフェースで提供することで,利用者が電子書籍を見つけやすくなる。
  • どの電子書籍リーダーが公共図書館での利用に適しているかを評価する。フォーマット等の互換性やユーザビリティについて,ガイドラインに沿って評価する。図書館による評価を,電子書籍リーダーのメーカーが他社製品との差別化に使う可能性もある。
  • 図書館利用と書籍購入の関係について調査する。著者や出版社は,図書館が電子書籍を扱うことで利益が減少することを懸念しているため,出版社等に対し,図書館の価値を示す。
  •  この他に,著者を誕生させセルフ出版を支援すること,著作権やフェアユースについての認識を高めること,図書館という場の新たな役割を考えていくこと,についてもシナリオとして挙げられており,図書館の役割の変革が意識された報告書となっている。COSLAは,この報告書の内容を全米規模で検討していくことが重要であるとしている。

    Ref:
    http://www.cosla.org/documents/eReader_Press_Release140.pdf
    http://www.cosla.org/documents/COSLA2270_Report_Final1.pdf