カレントアウェアネス-E
No.169 2010.04.14
E1041
ドイツスタディツアー報告 ― 連携と革新
2009年11月22日から11月29日まで,ゲーテ・インスティトゥート(ドイツ文化センター)の主催により,日本とドイツの大学・研究所の図書館員が情報交換を行う,スタディツアーが開催された。日本から,国立情報学研究所(NII),科学技術振興機構(JST),物質・材料研究機構(NIMS),放射線医学総合研究所(NIRS),宇宙航空研究開発機構(JAXA),北海道大学,東北大学,一橋大学,筑波大学,京都大学,九州大学の12名の職員が参加し,ドイツ国立図書館,ゲッティンゲン大学図書館,技術情報図書館,バイエルン州立図書館,マックスプランク電子図書館の5機関を訪問した。主に, オープンアクセス,リポジトリ,電子化,デジタルアーカイブ等について,日独合計約50本のプレゼンテーションが5日間で行われ,活発な意見交換がなされた。本稿では,紙幅の許す範囲でこのツアーについて報告する。
訪問した5機関では様々なプロジェクトの説明を受けたが,そのほとんどが他機関との連携によるプロジェクトであり,館種を超えた連携はもちろん,出版社やそれ以外の企業,他国の図書館など様々な組織との提携が行われていた。これらの多くはドイツ研究協会(DFG)という研究者の自治組織からの助成によるものである。中にはEUの出資によるプロジェクトも多くあり,大局的な戦略を持ってドイツ全体・欧州全体の学術情報基盤を構築すると共に,e-scienceなど,研究者を取り巻く環境の変化に柔軟に対応できるような学術情報流通のインフラ整備・構築を目指すものであった。欧州各国の図書館と大手出版社と研究者の三者による,オープンアクセスの理想的な形態を模索する実験的プロジェクトPEERなどはその一例である。また,これら外部資金によるプロジェクトのために,博士号を持った専門家を任期付きのプロジェクトライブラリアンとして,多数雇用していた。
昨今シュプリンガー社のオープンアクセスサービスOpen Choiceの機関契約が耳目を集めているが,この契約は2007年のゲッティンゲン大学図書館のものが最初である。18世紀前半に創立されたこの大学はもともと数学分野での研究の長い歴史があり,同様に数学分野での実績があるシュプリンガー社とは,特別な信頼関係が存在していた。そこからこの契約の話が発展したそうである。科学研究の長い歴史があるということは,目に見える以上のアドバンテージとなっており,このような点でも,日本とは根本的に基盤が異なるのだという強い印象を受けた。
日本でも,国際的なオープンアクセスリポジトリ連合であるCOARにデジタルリポジトリ連合(DRF)とNIIが加盟したことは記憶に新しい(E992参照)。学術情報流通の形態がヴァーチャル化とグローバル化の一途をたどる今日,散在する学術情報をネットワーク化し結びつけることは図書館員にとって不可欠なことである。ドイツ文化センターはその意向の下に今回のツアーを企画した。ツアー終了後,2010年2月と3月に,東京と京都でそれぞれ報告会を行い,多数の方にご参加いただいた。ドイツ文化センターのこの意識を多くの方と共有し,より大きなネットワーク構築の実現に向けて共に歩んでいけることを切に望む。
(京都大学工学研究科図書掛・坂本拓)
Ref:
http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/53/1/41/_pdf/-char/ja/
http://www.uni-goettingen.de/en/3240.html?cid=2758
http://www.peerproject.eu/
E992