E1001 – 協力を橋渡しする―ニューヨークの7つの図書館

カレントアウェアネス-E

No.163 2009.12.16

 

 E1001

協力を橋渡しする―ニューヨークの7つの図書館

 

 米国の書誌ユーティリティOCLCの研究部門OCLC Researchはこのほど,ニューヨーク市内の7つの図書館(NYC-7)間での協力関係促進に向けた議論の成果を紹介する報告書“Catalyzing Collaboration: Seven New York City Libraries”(『協力を橋渡しする:ニューヨーク市の7図書館』)を発表した。なおNYC-7とは,ブルックリン美術館図書館,コロンビア大学図書館,フリック美術館レファレンス図書館,メトロポリタン美術館Thomas J. Watson図書館,近代美術館図書館,ニューヨーク公共図書館,ニューヨーク大学図書館,の7図書館を指す。

 NYC-7間での議論の目的は,業務のどの分野で協調が必要なのかを見極め,優先順位をつけることである。報告書では,「(NYC-7の利用者によるメンバー館の資料への)特権的アクセス」「コレクション構築」「目録作業の外部委託」「共同のライセンシング」「パブリックビューの共有」という重点領域に関する議論の経過と成果が取り上げられている。議論は,OCLC Researchの調整の下,第1回グループ電話会議(2008年8月),オンラインアンケート(2008年10月),フォローアップ電話会議(2008年11月~12月。各々の機関の担当者とOCLC Researchのファシリテーターによる個別の電話会議),報告書のドラフト完成(2009年3月),第2回グループ電話会議(2009年4月)というプロセスで進められた。

 議論の結果,上記の重点領域のうち,「特権的アクセス」に最も高い優先順位がつけられた。この領域に対する提案として,最低でもNYC-7の利用者の施設の相互利用を可能にする指針を作ること,限定的な資料の電子配達(e-delivery)サービスを開始すること,を挙げている。特に資料の速達方法を模索することは,共同でのコレクション構築を視野に入れた場合,欠かせないものとなる。次に高い優先順位がつけられたのは「コレクション構築」である。これには,資料収集に関連のある文書を共有すること,資料の購入情報を共有すること,特定の分野に限定してコレクションの共同構築を試みるパイロットプロジェクトを開始すること,といった提案があった。

 中程度の優先順位という判断がされたのは「目録作業の外部委託」で,高度に専門的な分野の目録作業における連携の実現可能性を調査することが必要と判断された。「共同のライセンシング」は,自分たちのライセンシング契約に他の図書館を加えることに消極的な大規模な図書館や,共同のライセンシングで得られる利益に懐疑的な図書館があり,優先順位は中程度~下位とされた。

 最も下位に位置づけられたのは「パブリックビューの共有」である。「パブリックビュー」とはここで,「NYC-7の資料のための統一された探索プラットフォーム」を指す。NYC-7のうち6館が興味を示したが,その実現方法を巡り,共有のオンライン目録を構築するのか,WorldCatの機能を使うのか,統合検索を可能にするのか,といった意見が並立するなど,議論はまとまらなかった。

 NYC-7の議論では,以上の重点領域に対してだけでなく,今後の協力プロセスのあり方についても,「優先順位が高い領域については少なくともワーキンググループを立ち上げる」「ワーキンググループの会議を設定し,プロセスを稼動させるファシリテーターを置く」「ワーキンググループには館長レベルよりは下だが高位のステークホルダーを入れる」「ワーキンググループに相応の権限を与える」といった提案をしており,併せて参考にすることができる。

Ref:
http://www.oclc.org/research/news/2009-12-01.htm
http://www.oclc.org/research/publications/library/2009/2009-08.pdf