カレントアウェアネス-E
No.163 2009.12.16
E1002
利用者がデジタル化を望んでいる資料とは(英国)
資料のデジタル化に際して,利用者の要望はきちんと考慮されているだろうか。需要側よりも供給側の観点が重視されてきたのではないだろうか。このような問題意識から,英国情報システム委員会(JISC)と情報研究ネットワーク(RIN)は,英国内の高等教育機関の利用者のデジタル化に関する要望について調査するプロジェクト“JiSCmap”を2008年9月から2009年3月にかけて実施し,その結果が2009年10月に公表された。調査は,職業的利用者(資料を管理する図書館員など)と一般利用者(教員,研究者,学生など)を合わせた1,000人以上を対象に,デジタル化を希望するコレクション名と,その選定にあたり考慮されるべき基準について調べた。
デジタル化を望む資料として名前が挙がった945のコレクションの概要は,次のようなものとなっている。
- 資料の所蔵機関別に見ると,図書館(53%),文書館(39%),博物館・美術館(7%)の順であった。
- 資料の年代は,20世紀前半が366件と最も多く,以下は19世紀,20世紀後半,18世紀以前,21世紀の順であった。一般には,最も古い資料への要望が最も高いように思われているが,実際には,近現代の資料への要望が高かった。
- 分野別の上位5つは,(1) 歴史及び経済・社会史,(2) 複合分野,(3) 創造的アート・デザイン・音楽,(4) 言語学及び文学,(5) 社会・経済・政治学であり,人文科学及び社会科学分野の資料への要望が多かった。
- 資料の種類別では,文書,書籍,手稿・写本,画像などの要望が高く,音声,地図,雑誌,動画への要望は低かった。
また,デジタル化に関する優先度の基準としては,職業的利用者・一般利用者に共通するものとして,資料の探索・利用が容易になること,研究・教育活動に貢献すること,他機関との協働を可能とすること,などが挙げられている。
調査で明らかになったことの一つとして,利用者の立場の違いにより要望の粒度に差があるということがある。つまり,職業的利用者はコレクション等の詳しい知識を有しているため詳細な要望を示せるのに対し,一般利用者の要望は大まかな場合があるということである。そのため,職業的利用者は,デジタル化後の利用にあたって,一般利用者に対して,その資料の位置づけなどを説明する必要があるとしている。
報告書の勧告部分では,利用者の要望調査の継続と活用,コレクション検索のための全国レベルでの分野横断的な検索システムの構築,高品質なメタデータの整備,などの必要性を指摘している。また,現在はデジタル化資料が実際にどのように活用されているのかが明確でないため,専ら保存目的となっているが,事前に利用者の意見を聞いたり,教育や研究での活用法を公開することで,デジタル化資料の活用機会が増加することになるであろうとしている。
Ref:
http://www.jisc.ac.uk/whatwedo/programmes/digitisation/reports/discmap.aspx
http://www.ariadne.ac.uk/issue61/marchionni/