英国出版協会、UKRIの新オープンアクセス(OA)方針案が英国経済に与える影響を評価した報告書を公開

2021年2月17日、英国出版協会(Publishers Association)は、英国研究イノベーション機構(UKRI)が策定を進めている新しいオープンアクセス(OA)方針案について、英国経済に与える影響を評価した報告書を公開したことを発表しました。

同報告書は英国出版協会の求めに応じて、コンサルタント会社のFTI Consultingが作成しました。UKRIによる新OA方針案は、英国の研究競争力や学術研究に関するグローバル拠点としての英国の魅力にも悪影響が及ぶ可能性があるとして、主な知見を次のように示しています。

・新OA方針案に対応して相当数の学術雑誌が完全OAに移行した場合、英国の研究集約型大学の年間支出を約1億3,000万から4,000万ポンド増加させる可能性がある。

・新OA方針案の内容がそのまま実施された場合、2022年から2027年までの期間に、英国に基盤を置く学術雑誌が被る損失は約20億ポンドと推定される。それに伴い、単行書の出版が維持できなくなる出版社や小規模出版社の廃業も発生し、関連する英国の経済生産高の損失は約32億ポンドに達することが見込まれる。

・英国に基盤を置く学術雑誌が被る損失の大部分は英国の輸出収入の損失を意味しており、これによって最も利益を得るのは外国出版社である。

・一部の雑誌や単行書の完全OA化により英国内の図書館が得られるコストの削減幅は、年間数百万ポンド程度と小規模なものに留まると見込まれる。

・研究者の効率的で精密な研究遂行を阻害し、研究成果の生産にコストをかけることなどにより、研究成果の発表から得られる利益が希釈され、英国の研究の影響力や評価に悪影響を及ぼす可能性がある。

UKRIは2018年から既存のOA方針の改訂に着手し、2020年初めにcOAlition Sの「プランS」原則に沿った内容などを盛り込んだ草案を公開して、国内外の研究コミュニティからのレビュー、及びレビューで得られた回答に基づく分析等を実施していました。現在、改訂作業は、2020年11月から2021年第2四半期までの期間を対象とする第4フェーズにあり、この期間に同方針案が最終公開される予定です。

Economic impact of proposed Open Access policy detailed in new report(Publishers Association,2021/2/17)
https://www.publishers.org.uk/economic-impact-of-open-access-policy/

Economic Impact Assessment(Publishers Association)
https://www.publishers.org.uk/publications/economic-impact-assessment/

Economic assessment of the impact of the new Open Access policy developed by UK Research and Innovation [PDF:100ページ] (Publishers Association)
https://www.publishers.org.uk/wp-content/uploads/2021/02/FTI-Report-for-Publishers-Association-1.pdf

関連:
How our open access policies are changing(UKRI)
https://www.ukri.org/our-work/supporting-healthy-research-and-innovation-culture/open-research/open-access-policies-review/

参考:
英UKRI、新たなオープンアクセス方針の草案を公開 オープンアクセス化の対象をモノグラフ等の図書に拡大
Posted 2020年2月17日
https://current.ndl.go.jp/node/40257

英・ケンブリッジ大学、UKRIの新オープンアクセス方針案に対するケンブリッジ大学出版局(CUP)との共同回答の内容を報告
Posted 2020年8月21日
https://current.ndl.go.jp/node/41805

CA1903 – 動向レビュー:研究助成機関によるオープンアクセス義務化への大学の対応―英国の事例― / 花﨑佳代子
カレントアウェアネス No.332 2017年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1903

CA1990 – 動向レビュー:プランS改訂版発表後の展開―転換契約等と出版社との契約への影響 / 船守美穂
カレントアウェアネス No.346 2020年12月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1990