英・ケンブリッジ大学、UKRIの新オープンアクセス方針案に対するケンブリッジ大学出版局(CUP)との共同回答の内容を報告

2020年8月18日付で、英・ケンブリッジ大学のOffice of Scholarly Communicationによるブログ“Unlocking Research”に、英国の研究助成機関UK Research and Innovation(UKRI)の新オープンアクセス(OA)方針案に対する同大学とケンブリッジ大学出版局(CUP)の共同回答の内容を報告する記事が公開されています。

ケンブリッジ大学はUKRIの新OA方針案に対して、CUPを含む大学内全体の幅広い分野の意見を反映して共同回答を作成し、2020年5月27日にオンラインフォームから回答しました。ブログ記事は共同回答の内容を以下のように要約して報告しています。

・著者の研究成果物に対する著作権保持、学術雑誌・出版社に対する透明性向上の要求、学術情報流通・研究評価基盤としての主要メタデータの重要性など、留保なしに支持できる点が多くある

・最終的な研究成果物へのアクセスを提供する持続的な雑誌出版モデルと研究集約型大学にとっての合理的な価格設定とは両立しがたく持続可能性に欠けるため、UKRIは全ての利害関係者の出版慣行の大幅な転換を支援しつつ、短期的にはより柔軟な方針を採用する必要があると思われる

・OAの恩恵は全ての研究コミュニティに享受されるべきだが、研究分野ごとの多様なニーズを踏まえて、研究振興のためクリエイティブ・コモンズ・ライセンスやサードパーティ製コンテンツについて柔軟性を持たせるべきである。単行書の出版のための資金がない状況で2021年以降の研究評価フレームワークResearch Excellence Framework(REF)において全ての単行書にOAが要求される可能性、サードパーティ製コンテンツを含む論文や単行書のOAに伴うコストへの影響、特定分野のキャリア初期の研究者に不利な結果を招く恐れといった懸念が表明された

・単行書のOAについては、グローバルな規模で高品質な出版モデルはまだ確認できず、拡張可能で持続可能な方法を検討するための時間と自由が必要である。エンバーゴを経て単行書をOAとする影響は十分に理解されておらず、購入習慣に変化を及ぼすと考えられるので、研究分野によっては望ましくなく経済的にも非現実的な可能性がある。UKRIに対して「オープン」の定義を「自由に読める」を含むように拡張すること、学術雑誌における“Subscribe To Open”のようなOAに転換するためのプログラムの下での単行書の出版を認めること、の2点を提案する

・雑誌論文については、研究集約型大学がゼロエンバーゴによるグリーンOAを追及すると、雑誌の購読基盤を弱体化させ、CUPのような出版社のゴールドOAへの移行を妨げるというパラドックスがある。UKRIはOAへの移行期間の許容事項として、グリーンOAを持続させるための購読誌における穏当なエンバーゴの適用、ハイブリッド誌におけるゴールドOAの継続的な支援を容認すべきである

共同回答の全文はケンブリッジ大学の機関リポジトリApolloで公開されています。

Cambridge response to the UKRI open access policy review(Unlocking Research,2020/8/18)
https://unlockingresearch-blog.lib.cam.ac.uk/?p=2824

Cambridge response to the UKRI open access policy review(Cambrige Core blog,2020/8/18)
https://www.cambridge.org/core/blog/?p=36924

UKRI Open Access Consultation- University of Cambridge Response(Apollo)
https://doi.org/10.17863/CAM.53089

参考:
英UKRI、新たなオープンアクセス方針の草案を公開 オープンアクセス化の対象をモノグラフ等の図書に拡大
Posted 2020年2月17日
https://current.ndl.go.jp/node/40257

CA1903 – 動向レビュー:研究助成機関によるオープンアクセス義務化への大学の対応―英国の事例― / 花﨑佳代子
カレントアウェアネス No.332 2017年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1903

CA1907 – 動向レビュー:欧州における単行書のオープンアクセス / 天野絵里子
カレントアウェアネス No.333 2017年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1907

英・Jisc、定期購読料の収益を利用して購読誌をオープンアクセス(OA)誌へ転換するAnnual Reviews社のプログラム“Subscribe to Open”への支援を表明
Posted 2020年3月17日
https://current.ndl.go.jp/node/40521