米国の出版コンサルタントであるマクロイ(Thad McIlroy)氏が、自身の運営するブログ“The Future of Publishing”の2021年1月5日付の記事において、同じく出版コンサルタントであるグレン(Cliff Guren)氏・シエック(Steve Sieck)氏とともに作成したレポート『新型コロナウイルス感染症と書籍出版産業:影響と2021年への展望』(“COVID-19 and Book Publishing: Impacts and Insights For 2021”)の公開を発表しています。
同レポートは、新型コロナウイルス感染症が米国を中心とした書籍出版産業、及び出版産業の隣接分野に与えた影響について、3氏の調査の結果を報告するとともに、調査結果を踏まえた2021年への展望を示すものです。書籍出版産業全体については、米国出版協会(AAP)や市場調査会社NPDグループ、出版情報誌Publishers Weeklyのデータを用いて、2019年は横ばいか下落傾向にあった業績が2020年10月までは堅調に回復していることなどを指摘しています。
出版産業の隣接分野として、第7章で図書館に対する言及があります。コロナ禍以前の出版社と図書館を巡る争点の中心であった電子書籍の契約条件に関する問題が感染拡大に伴う需要の高まりによって「停戦」状態にあること、感染が沈静化したとしても物理的な媒体に対する忌避感により従来の冊子体図書中心のサービスは再編成を迫られること、感染症が州や大学の財政に与えた影響により公共図書館や大学図書館は予算削減が行われる可能性が高いことなどを指摘しています。
レポートの全文は“The Future of Publishing”からPDFファイルまたはEPUBファイル形式でダウンロードすることができます。
COVID-19 and Book Publishing: Impacts and Insights for 2021(The Future of Publishing,2021/1/5)
https://thefutureofpublishing.com/2021/01/covid-19-and-book-publishing-impacts-and-insights-for-2021/
COVID-19 and Book Publishing: Impacts and Insights For 2021 [PDF:51ページ](The Future of Publishing,2021/1/5)
https://thefutureofpublishing.com/new/wp-content/uploads/2021/01/COVID-19_and_Book_Publishing-FINAL.pdf
参考:
米国出版協会(AAP)、2020年5月期の参加出版社の収益を公表:出版業界全体としては前年同期比12.1%減の約10億ドル、電子書籍・オーディオブックの収益は増加
Posted 2020年7月27日
https://current.ndl.go.jp/node/41577
米・ITHAKA S+R、大学図書館の指導者層を対象とした新型コロナウイルス感染症影響下の戦略・予算編成に関する調査報告書を公開
Posted 2020年12月14日
https://current.ndl.go.jp/node/42752
米・ニューヨーク公共図書館(NYPL)のマークス館長、新型コロナウイルス感染症拡大下における図書館のデジタルサービス拡充の必要性をNew York Times紙上で主張
Posted 2020年6月8日
https://current.ndl.go.jp/node/41159
E2226 – 米国図書館界とマクミラン社との電子書籍をめぐる攻防戦
カレントアウェアネス-E No.385 2020.02.13
https://current.ndl.go.jp/e2226
CA1978 – 動向レビュー:米国での電子書籍貸出をめぐる議論 / 井上靖代
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1978