新型コロナウイルス感染症拡大下におけるハゲタカジャーナルの危険性:ポケモンのキャラクターを用いて作成した論文で偽の科学情報の拡散を検知した経験から(記事紹介)

2020年11月1日付のThe Scientist誌オンライン版記事として、国立台湾大学のMatan Shelomi准教授によるオピニオン記事“Opinion: Using Pokémon to Detect Scientific Misinformation”が公開されています。

同記事はShelomi准教授が、ポケモンのキャラクター等を用いて執筆した新型コロナウイルス感染症に関する架空の論文の投稿とその後の経緯を通して、ハゲタカジャーナルによって偽情報が学術雑誌上で拡散することの危険性を指摘する内容です。

Shelomi准教授は、「コウモリの姿をしたポケモンを食べたことが新型コロナウイルス感染症の拡大を悪化させた」と主張する論文を執筆し、American Journal of Biomedical Science & Research誌へ2020年3月14日に投稿しました。同論文は架空の著者との共著で執筆され、架空の都市の感染症の原因を架空の生物に帰し、架空の文献を引用するという内容ですが、投稿からわずか4日後に同誌の編集者から「好意的な査読のコメントがあった」と連絡があり、出版されることになりました。Shelomi准教授は他にもポケモンのキャラクターを用いて作成した論文を投稿していますが、「この論文を出版する雑誌は査読を行わないのでハゲタカに違いない」や「この招待論文は査読を行っていないと思われるハゲタカジャーナルに掲載されています」といった本文の表現がそのまま掲載されていることを報告しています。

これらの一連の論文を掲載した雑誌は、査読・編集・事実確認が明らかに行われていないハゲタカジャーナルと言えますが、Shelomi准教授はその後の展開として、The International Journal of Engineering Research and Technology誌に、コウモリのポケモンを用いた論文や論文の中で引用した架空の参考文献を引用文献に挙げた論文を確認しました。Shelomi准教授は、同論文を執筆したチュニジアの物理学者になぜ引用したのか尋ねたところ、専門外の論文を書く際に未読の論文を引用することに問題があるとは思っておらず、オープンアクセスジャーナルとハゲタカジャーナルの違いについてはよくわからない、と回答されたことを報告しています。

Shelomi准教授は一連の経緯を通して、ハゲタカジャーナルは通常の学術雑誌と異なり、たとえ誤りが判明した場合でも撤回が行われないことが大半であることなどを挙げながら、ハゲタカジャーナルを通した誤りの学術情報の流通が、公衆衛生に著しい危険を与えている状況等を指摘しています。

Opinion: Using Pokémon to Detect Scientific Misinformation(The Scientist,2020/11/1)
https://www.the-scientist.com/critic-at-large/opinion-using-pokmon-to-detect-scientific-misinformation-68098

参考:
CA1960 – ハゲタカジャーナル問題 : 大学図書館員の視点から / 千葉 浩之
カレントアウェアネス No.341 2019年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1960

「そのメーリングリストから私を外せ」と繰り返し書かれているだけの論文が受理される
Posted 2014年11月25日
https://current.ndl.go.jp/node/27497

感染症拡大下でのプレプリントサーバによるスクリーニング(記事紹介)
Posted 2020年5月15日
https://current.ndl.go.jp/node/40957