2020年9月30日、北米研究図書館協会(ARL)は、米・ミシガン大学を被告として係争中の訴訟について、ミシガン州最高裁判所へ意見書(Amicus Brief)を提出したことを発表しました。
ミシガン州最高裁判所への意見書は、ARL、米国学術団体評議会(ACLS)、米国歴史学協会(AHA)、米国大学・研究図書館協会(ACRL)、カリフォルニア大学図書館、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校図書館、アイオワ大学図書館の連名で提出されています。
ミシガン州最高裁判所では、ミシガン大学ベントレー歴史図書館(Bentley Historical Library)が所蔵する反移民運動・人種差別等に関わったとされる眼科医のタントン(John Tanton)氏の個人文書閲覧を巡って、ミシガン大学を被告とする訴訟が行われています。タントン氏の個人文書は、一部の文書の閲覧を2035年まで制限する条件の付された贈与証書に基づいて、同館へ寄贈されています。同文書への情報公開法(FOIA)に基づく閲覧制限期間中の文書の開示請求について、第一審の州請求裁判所(Court of Claims)では原告の訴えが退けられましたが、州控訴裁判所で州立のミシガン大学の所蔵資料であることなどを理由に当該文書は「公文書」と解されるためFOIAの請求対象であるという判断が下され、ミシガン大学はこの判断を誤りであるとして上訴し州最高裁判所で現在も係争中です。
同意見書は、図書館や文書館において、一定期間非公開とする条件で機密情報を含む資料を受入することは広く行われており、これは特にマイノリティの個人・集団を保護するために重要な慣行であることを指摘しています。その上で、この訴訟でミシガン大学に不利な形で公的機関と寄贈者との間で取り交わされた贈与証書の効力を事実上無効にする内容の判決が確定した場合、他の州へも前例として影響を与え、公的機関を信頼できなくなった寄贈者が機密情報を含む資料の廃棄を選択する可能性を懸念しています。
同意見書ではこれらの理由から、贈与証書で定められた期日まで当該文書は非公開とすべきであるというミシガン大学の見解を支持する立場をとっています。
Association of Research Libraries Files Amicus Brief in Michigan Supreme Court Case Ahmad v. University of Michigan(ARL,2020/9/30)
https://www.arl.org/news/association-of-research-libraries-files-amicus-brief-in-michigan-supreme-court-case-ahmad-v-university-of-michigan/
Amicus Brief in Ahmad v. University of Michigan(ARL)
https://www.arl.org/resources/amicus-brief-in-ahmad-v-university-of-michigan/
https://www.arl.org/wp-content/uploads/2020/09/2020.09.30-ahmad-v-university-of-michigan-amicus-brief.pdf
※2つ目のリンクはミシガン州最高裁判所に提出された意見書の全文です。 [PDF:25ページ]
AHA Signs onto Amicus Brief in Ahmad v. Michigan (October 2020)(AHA)
https://www.historians.org/news-and-advocacy/aha-advocacy/amicus-brief-in-ahmad-v-michigan-(october-2020)
ACRL Joins Ahmad v. University of Michigan Amicus Brief Filing(ACRL insider, 2020/10/2)
https://acrl.ala.org/acrlinsider/archives/20329
参考:
E877 – IFLA,記録文書が含む個人情報へのアクセスに関する声明を公表
カレントアウェアネス-E No.142 2009.01.21
https://current.ndl.go.jp/e877
CA1882 – 動向レビュー:英国の国立公文書館・大英図書館における私文書の閲覧体制―利用者の視点から― / 奈良岡聰智
カレントアウェアネス No.329 2016年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1882
CA1975 – オルタナティブな情報を保存する:統計不正問題からこれからの図書館を考える / 福島幸宏
カレントアウェアネス No.344 2020年6月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1975