オランダの修士課程の大学院生の研究データ管理(RDM)に対する意識調査(文献紹介)

2020年8月5日付で、“Data Science Journal”誌第19巻に、論文“Research Data Management for Master’s Students: From Awareness to Action”が掲載されています。著者はオランダ・デルフト工科大学(TU Delft)のDaen Adriaan Ben Smits氏とMarta Teperek氏です。

著者らは、修士課程の大学院生について、研究論文や助成金申請に代表者として主体的に関わることが少なく、これまで研究データ管理(RDM)実践の観察対象にあまりされてこなかったものの、研究キャリアの準備段階にあり、将来優れた研究者・政策立案者・RDM実践者となる可能性を秘めた重要な研究対象群であるとして、RDMに対する認識を調査し分析する研究を実施しました。調査として、2015年以降にオランダの大学で修士論文の執筆を経て修士号を取得した16人を対象に、2019年9月から10月にかけて半構造化インタビューが行われました。インタビューで得られた知見として次のようなことを報告しています。

・「データ管理」の定義を明確に回答できず、データ分析や研究デザイン、研究の方法論など別概念との混同が見られた
・研究データの管理や分析におけるプライバシーの扱いを重視しており、インタビュー対象者のうち15人が何らかの形でプライバシーの問題に言及していた
・オープンデータやFAIR原則といったデータ管理における基礎的なタームへの言及はほとんどなかった
・インタビュー対象者のうち明確なデータ管理計画(DMP)に基づいて研究をしていたとする回答者はごくわずかであり、回答者の半数はインタビュー時点で自身の研究データの管理状況を明確に答えることができなかった
・優れた研究データの管理と共有が研究の再現性を高めることについて広く認識されていた一方、自身の研究データを公表しているとした回答者はいなかった
・修士課程在籍中のカリキュラム内で研究データの管理を扱う教育は行われているが、倫理・統計分析・研究方法など限定的なテーマのみが扱われる傾向にある

著者らはインタビュー調査の結果から、オランダの修士課程の大学院生はプライバシーの問題を除いて、RDMへの意識は低く、知識も断片的な状態にあるとして、機関はこうした学生たちにリソースを割く余地があることなどを指摘しています。

Smits, D.A.B. ; Teperek, M. Research Data Management for Master’s Students: From Awareness to Action. Data Science Journal. 2020, 19.
http://doi.org/10.5334/dsj-2020-030

参考:
E1330 – データキュレーションの実践や教育・研修の現状(米国)
カレントアウェアネス-E No.221 2012.08.23
https://current.ndl.go.jp/e1330

CA1818 – 研究データ共有時代における図書館の新たな役割:研究データマネジメントとデータキュレーション / 池内有為
カレントアウェアネス No.319 2014年3月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1818