「知識コモンズ」の視点から見た日本のリポジトリにおける研究データのガバナンス状況(文献紹介)

2020年7月31日付で、図書館情報学分野の査読誌“Aslib Journal of Information Management”のオンライン速報版(ahead-of-print)の論文として、“How are research data governed at Japanese repositories? A knowledge commons perspective”がオープンアクセスにより公開されています。

同論文は筑波大学大学院図書館情報メディア研究科の博士後期課程に在籍する西川開氏によって執筆されました。日本のリポジトリにおける研究データのガバナンス状況を調査する目的で、知的・文化的共有資源とその管理を扱う「知識コモンズ」のアプローチによって理念型を設定し、設定された理念型とリポジトリの適合性を個々に評価した結果・考察等を示した内容です。

同論文内でリポジトリの理念型は、「知識コモンズ」研究におけるオープン性の概念に基づいて設定されています。研究データの公開・機械可読性・ダウンロード可否などに関わる「リソース」に対するオープン性、研究データのアップロード可否・利用条件の決定権などに関わる「コミュニティ」に対するオープン性、研究データリポジトリソフトウェアの自律性等に関わる「インフラストラクチャー」に対するオープン性の3つの次元を組み合わせて、8通りの理念型が設定されています。著者は、研究データリポジトリのレジストリ“re3data.org”から日本のリポジトリ37件を評価対象として選定し、リポジトリへのアクセス状況・ポリシー等を個別に検討することで、設定した理念型との適合性の評価を行っています。

同論文は、リソース(研究データ)についてはオープンであるが、コミュニティ・インフラストラクチャーについてはクローズドであると評価されたリポジトリが最も多いこと、3要素全てがオープンであると評価されたリポジトリは存在しなかったことなどを報告しています。著者は、研究データリポジトリを基盤として位置づけた日本のオープンサイエンスに関する政策文書は、日本学術会議の「オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言」や内閣府の「統合イノベーション戦略」にも表れているように、リソースのオープン性のみに言及している傾向にあるが、実際のリポジトリのガバナンスにおいても同様の傾向が示唆されると指摘しています。

また、分析対象の中で唯一の機関リポジトリである千葉大学のCURATORについては、大学図書館長の許可が得られれば学外からもデータの提供が可能な点などからコミュニティについてはオープンであるものの、論文同様に研究データも著作権の保護を受け、リポジトリソフトウェアがオープンソースでないことなどから、リソース・インフラストラクチャーについてはクローズドであると評価された事例となっています。著者は、CURATORが日本初の機関リポジトリであり、後続のリポジトリのモデルになったと考えられるため、論文内で分析対象としていないこれらのリポジトリも同様に評価される可能性が高い、としています。

Nishikawa, K. How are research data governed at Japanese repositories? A knowledge commons perspective. Aslib Journal of Information Management. 2020, Vol. ahead-of-print No. ahead-of-print.
https://doi.org/10.1108/AJIM-03-2020-0072

参考:
日本学術会議、「オープンイノベーションに資するオープンサイエンスのあり方に関する提言」を公開
Posted 2016年7月7日
https://current.ndl.go.jp/node/32020

内閣府、「統合イノベーション戦略2020」を公表
Posted 2020年7月27日
https://current.ndl.go.jp/node/41580

E2250 – 研究データの公開・利用条件指定ガイドラインの策定
カレントアウェアネス-E No.389 2020.04.23
https://current.ndl.go.jp/e2250

E1990 – 「デジタルアーカイブ」の新たな評価法:Impact Playbook概説
カレントアウェアネス-E No.340 2018.01.25
https://current.ndl.go.jp/e1990