CA969 – 日本の学校図書館をめぐる最近の動き / 江澤和雄

カレントアウェアネス
No.182 1994.10.20


CA969

日本の学校図書館をめぐる最近の動き

文部省の「読書に関する調査」('94.3現在)は中学生の44%,高校生の40%が月に1冊も本を読まないなど,中・高校生の活字離れの実態を改めて浮彫りにした。毎日新聞と全国学校図書館協議会(全国SLA)が毎年行っている「学校読書調査」でも,特に中・高校生の読書離れの進行が報告されており('93調査,1か月に0冊,中51%,高61%),子どもの読書体験をめぐる深刻な現状として受け止められている。

こうした中で,文部省が平成4年度から始動させている学校図書館に関わる新たな施策の中にも動きが見られる。施策は,1)図書の整備として,平成5年度から5年間で現在の蔵書数を1.5倍にする「学校図書館図書整備新5か年計画」,2)学校図書館に関わる事務職員の配置基準の改善(「第6次公立義務教育諸学校教職員配置改善計画」等他平5-10年度),3)学校図書館の現状に関する調査,4)児童生徒の読書意欲の高揚を図る指導方法に関する研究(平5年度から)などを柱としており,「人」の問題については,司書教諭有資格者の養成及び発令の促進が強調されている。

これらの施策は,臨時教育審議会第2次答申(昭61.4)や教育課程審議会答申(昭62.12)で謳われた「情報化への対応」「自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成」,さらには,新学習指導要領(昭63告示)の「学校図書館を計画的に利用し,その機能の活用に努める」といった謳い文句の延長線上でとらえることができ,学習センター機能をもった学校図書館の活用がめざされている。これらのうち3)については,文部省の行う初めての悉皆調査として,'92年l0月現在の状況が公表され,従来言われてきた図書購入費の少なさ(児童生徒1人当たりの年間図書購入予算,小579円,中661円,高1,336円),司書教諭発令の停滞(小0.1%,中0.2%,高0.4%),学校司書の小・中学校における配置率の低さ (小14%,中16%,高73%)などが改めて明らかにされた。また,4)については,漫画家,児童文学者らを含む「児童生徒の読書に関する調査研究協力者会議」が発足した('94. l.5)。

しかし,こうした施策も現実には様々な問題にぶつかっている。蔵書数を1.5倍に増やすと,コンピュータなどの導入で手狭になっている図書室に入りきらないという施設上の現実問題を指摘する声は強い。また,逆に蔵書が台帳と実際とで数に開きのあるところでは,本の値上りによる購入冊数減なども手伝って,現実に1.5倍まで整備するのは容易ではなかろう。また,職員問題では,授業負担軽減措置等を欠いた司書教諭発令では,校務分掌で行っている現在の図書係や図書主任と変わるところがなく,改善にならないとの指摘も多い。さらに,子どもの学校生活が忙しくて本が読めないという利用実態の背景にも目を向ける必要があろう。

一方,これまで学校図書館の現場や地域を中心に学校図書館の充実とそのための条件整備に取組んできた司書教諭や学校司書などの関係者をはじめ,全国SLA,日教組,日高組などの団体は,今を好機とみて,特に職員問題での取組みを強めている。このうち,全国SLAでは,学校図書館法改正のための3原則,1)当分の間司書教諭を置かないことができるとした附則2項の撤廃,2)学校司書の法制化,3)学校図書館機能の明確化を掲げ,法改正実現に向けた取組みに力を入れている。また,日教組では,各地の臨時・嘱託職員等の身分の不安定な図書館職員(学校司書)の正規職員化の取組みを重視しながら,定数法に規定し,現職者の完全移行を図る専任司書教諭制度の早期実現をめざした運動を展開している。

職員問題では,司書教諭と学校司書の2職種を掲げ,附則2項撤廃による司書教諭の配置と学校司書の法制化を求める全国SLAと,新たに専任司書教諭制度の創設をかかげる日教組などの組合側とではその位置づけをめぐって意見が分かれている。学校図書館法では専門的職務を掌る「司書教諭」を規定しながら附則2項でこれを骨抜きにしたため,多くの学校では司書教諭のいない状態が続いてきた。法規定にはない学校司書はこうした事態への対応策として早い時期から各自治体と学校現場,地域の人々らの努力により配置されてきた。臨時や嘱託などの職員が多いことから,専門・専任で正規の職員をという「人の配置」の要求が今日まで続けられてきた。その中で,長野県や岡山市のように,司書または司書補の資格をもって雇用された職員を学校司書として専任させるいわゆる「独自採用制度」を確立しているところもある。職員問題はこうした実態をふまえながら,新たな制度要求をどのように具体化していけるかが一つの鍵となろう。

ところで,今回の文部省の図書費に関する施策は,地方交付税で措置されるため,市町村で図書購入費として予算化されなければならず,そのためには学校側からの強い要望と働きかけが必要であり,教師の問題意識が不可欠である。同じことは,事務職員加配の問題についてもいえよう。文部省の「読書に関する調査」では,「新5か年計画」について,「知っている」と応えた教員はきわめて少なく(小36%,中21.5%,高9.5%),現場からの声の弱さが心配されている。一方,コンピュータ,ビデオ,CD等に力を入れる公共図書館に比べ,学校図書館は情報化の波に乗り遅れているという指摘もある。こうした現実を的確に受け止めながら,現場における学校図書館の役割の認識を広め,深めて,たとえば,公共図書館との連携による資料の充実や学校間のネットワーク作りなどを図っていくといった地道な努力が今期待されている。学校図書館をめぐっては,超党派の国会議員による「子どもと本の議員連盟」も発足しており('93.12.9),法改正をにらんだ今後の動きが注目される。

江澤和雄(えざわかずお)