カレントアウェアネス
No.174 1994.02.20
CA926
BNにおける大量脱酸処理
酸による資料劣化への対策の一つとして,大量脱酸技術は世界中で開発が続いている。ここでは,フランス国立図書館(BN)Sable-sur-Sartheセンターにおける大量脱酸処理設備の概要を紹介したい。
このセンターは,1979年,大量保存プログラムの一環として,BN図書部所蔵の酸による劣化資料を保管することを目的に設立された。当初は手仕事で脱酸作業を行い,年間処理冊数は500〜600冊以下というスローペースであった。1985年,Centre de Recherche sur la Conservation des Documents Graphiques (CRCDG)がカナダ国立公文書館のウェイトー法を基に開発した大量脱酸処理設備を建設し,試行を経て1989年に稼働を開始した。
脱酸工程は,まず資料をワイヤー・ラックに入れ,48時間60度Cの空気乾燥機で乾燥したのち,真空オートクレーブ(容器)のなかで,圧力をかけた状態でメトエキ・エトキシ・メチル・マグネシウム溶液(英国のArchives Aids社の製品)とフロン12との混合溶液に10分間浸す。さらに,溶液をオートクレーブから除きミキシング・タンクに送る。資料は空気抽出機のもとに12時間さらし,アルコール分を発散させる。上記の溶液は4回使用され,フロン12も蒸留と加圧により再生され,再利用される。(フロンは'94年まで利用することが法的に許可されている。)
業務体制
作業スタッフ2名,設備を操作する技術者1名という体制のもとで,1週間に4日(5日目には使用済の溶液を蒸留し,その結果生じる残留物を廃棄する)と,1日100〜200冊のぺースで処理し,1990年には18,000冊,1991年には33,000冊を処理した。経費は,1冊につき25〜40フランである。設備の重大な故障はこれまでなかった。
BNが処理を指定した資料の大半は,1880〜l950年に出版されたフランス史の本と小説であり,ペーパーバック版が多く,革製本はまれなため,脱酸処理が可能な本を事前に選ぶというめんどうな作業はない。
処理方法の評価
この処理方法による重大な悪影響はみられなかった。以前はしみやインク,顔料のにじみが見られたが,脱酸溶液中のメタノールをエタノールに替えてからはなくなった。しかし,BNのスタンプのうち水性の青インク使用のものは,わずかににじむ傾向がある。他にも問題はあるが,ある程度解決することができる。
1,830冊の資料に関し,処理の前後のpH値を測定した。処理前のpH値の平均は紙の中央で4.3,端で3.5であるが,処理後は各々8.1,7.2となった。しかし,処理前のpH値が3以下の場合は,処理後もわずかに酸性(pH6〜7)であった。また,本のページや1枚の紙の場所によってpH値が0.4〜0.9ポイント異なる場合があっだが,この差は溶液の浸透むらによるのではなく,処理前にあったpH値のむらがそのまま影響したものと考えられる。
脱酸処理後の資料の経年変化に関する調査は設備がないために行っていないが,l989年以降に脱酸処理をした29冊をサンプリングして良好な条件のもとで定期的に調べている。29冊の当初のpH値の平均は,紙の中央で8.1,端で8.8で,それは1992年まで変わっていない。この調査は今後も継続する予定である。
深田恭代(ふかだやすよ)
Ref: Vallas, Philippe. Mass deacidification at the Bibliotheque Nationale (Sable-sur -Sarthe Center). Restaurator (14) 1-l0, 1993
深田恭代 大量保存技術の現状 科学技術文献サービス (102) 25-27, 1993