CA851 – アメリカン・メモリー・プロジェクトの試行と反応 / 坂本博

カレントアウェアネス
No.161 1993.01.20


CA851

アメリカン・メモリー・プロジェクトの試行と反応

LCが所蔵する歴史的な原資料を機械可読のAV形態で全米の図書館に提供しようというアメリカン・メモリー・プロジェクト(CA676参照)が動きだした。1991年5月に約300の希望館の中から,予定の25館を増やして37館(公共図書館,学校図書館,大学図書館,歴史協会の図書館,州立図書館)が実験図書館に選ばれたが,実際にレーザーディスクが届けられたのは秋になってからであった。MS-DOS対応のソフトの開発がまだ終わらず,これまでの実験は総てアップル社のパソコンであるマッキントッシュを使って行われている。LCとの協力契約には,機器・担当者・費用などは協力館が用意すること,ユーザーのデータを集めてLCに報告することなどが含まれている。

これまでに作られたレーザーディスクは次の通り。

  • 歴史的な絵はがき2万5千枚の集成
  • 1770-1981年の時事風刺漫画
  • 1901年の汎米博覧会の描写
  • 1897-1906年のニューヨーク市
  • 1902年5月のある日の魚市場
  • マリリン・モンロー
  • ニューヨーク市の地下鉄工事,埠頭めぐり,ブルックリン橋の上からみたパノラマ
  • F・D・ローズヴェルト他の政治家の演説
  • 大陸会議や憲法制定会議の絵と文書

公共図書館の職員の手で公共図書館2館,学校図書館1館,大学図書館2館におけるこれまでの結果が報告されている。全体として期待されたほど,また図書館員がそのために忙しくなるのではと心配されたほど使われていない。

その理由としては,新学期が始まってからレーザーディスクが届いたため,その年の教育計画に組み入れる暇がなかった,重要なものではあるが,結論や主張の無い生の資料集なので,特に目的を持っていないとそれだけブラウズして面白いというものではないこと,授業に使うベきか独学に使うべきか明確でないこと(教材か図書館資料か)などがあげられている。各館とも,設置場所に工夫を凝らし,マスコミに対する積極的な広報を行っている。広報で知ってわざわざ見に来た者がいる反面,通りすがりに立ち止まった者が予想に反して少なかったということも(ソフトは利用者の目を引く反復デモプログラムを備えている)それを裏付けているといえようか。それにもかかわらず各館は一様に,このプロジェクトのこれからの可能性を高く買っている。これからレーザーディスクの種類は増やされ,MS-DOSにも対応するようになり,実験は今年の6月まで続けられる。

思うに,画集などを除いて研究のための資料集のようなものが通読されることは希で,ある程度予測された反応ではないかと思うが,LCに行かなければ接することができなかった音声や画像を含む文書館的資料が,手元で簡単に利用できるようになったことの意味は大きいであろう。学校教育などにどう取り入れられていくか期待したい。

坂本 博(さかもとひろし)

Ref: Polly, J. A. et al. Out of the archives and into the streets: American memory in American libraries. Online 16 (5) 51-57, 1992