カレントアウェアネス
No.161 1993.01.20
CA850
LCの科学技術情報戦略
米国議会図書館(LC)のビリントン(James Billington)館長の構想によれば,国立科学技術情報センターの設立には80万ドルが必要となる見通しである。このセンターは科学技術資料についてのレファレンス・サービスを行うとともに,科学技術・ビジネス情報の提供における政府・民間企業・各調査機関間の協力を推進することになろう。
同センターに関する特別プロジェクト・チームが組織されたのは1990年のことである。ビリントンは科学技術の分野における新しい知識や最近の情報技術の発展をも射程に入れつつ,LCの科学技術情報(以下STI)について10カ月にわたる集中的な調査を実施し,その結果をもとにいくつかの勧告を行った。
この勧告を受けて,具体的な実施計画の立案にあたったSTI担当館長補佐ウイリアム・W・エリス(William W. Ellis)は,米国内STIシステムの現状と将来の見通しについて,またこの分野においてLCが担う役割について,以下のように述べている。
一般に,米国内の図書館・情報サービス機関は,STIに関して次の問題点を共通に抱えている。つまり,1)利用可能なはずの情報が十分活用されていないこと,2)情報やメディアの多様化・大量化により,最新の知識を常に得ることが難しくなっていること,3)レファレンス・ツールが各専門分野ごとに特殊化しており,複数の分野にまたがった調査を行う研究者には扱いにくいこと,である。
こうした問題点に対し,最近の情報技術の劇的な変革,特にコンピュータの能力と電気通信技術の向上は,将来に明るい見通しをもたらすものと言えよう。これに関して,LCは最近全米科学財団などの研究助成機関と共に,LCや他の図書館において新しい情報技術の導入を推進するプロジェクトについて検討した。また,会話型情報技術公開実験室をLCに移管した(CA821参照)。
ところで,LCは,STIに関連して三つの基本方針を掲げている。第一に,LCは議会の補助機関として,議会の必要とするSTIを議会調査局を通じて把握し,より充実したサポートを行う。第二に,LCはSTIコミュニティ全体の提供体制の改善のために先導的な役割を果し,企業や教育機関に対して灰色文献を含めた各種資料を提供する。第三に,LCは他のSTI機関と協力し,他の組織の活動によってあがった成果を積極的に利用する。
これらの基本方針のもとに,LCの担当職員は,STIシステムの改善を目指した活動を行っている。より具体的には,まずLC内のSTIシステムの改善があげられよう。検索システムの改善−現在,20以上のCD-ROMを備えたLANを構築中であるほか,ARC(Automated Referral Center)と呼ばれる,数千件の機関情報を収録したデータベースが試験段階にある−や,Tracer Bullet(情報源ガイドのシリーズ)の形式に合わせた新しい中間情報生産物の作成などがその内容である。また一方で,このような新しい情報技術を伝統的な図書館業務と結びつける試みもなされる。さらに,政府や企業,科学技術関係の学会・団体,非営利目的の情報機関,大手リサーチセンターや図書館団体など関連する他機関と活動をともにし,国内全体のSTIシステムの拡充に努めている。
STI関係の図書館や情報サービス機関相互の協力は,米国内では十分よくなされているとはいえない。STIのネットワーク化も,国際的なレベルに達していると言われるヨーロッパ諸国に比べれば,まだたち遅れている。STI機関は相互に協力し,より組織的な,緊密な協調体制を築きあげる必要がある。その意味で,科学技術情報センターの構想には期待がかけられよう。
鈴木智之(すずきともゆき)
Ref: Ellis, William W. LC's Science and Technology Initiative: new perticipation in the sci-tech community. LC Inf Bull 51 (12) 261-265, 273-274, 1992. 6. 15