CA821 – LCがNDLを開設 / 竹田幸弘

カレントアウェアネス
No.156 1992.08.20


CA821

LCがNDLを開設

去る3月26日,米国議会図書館(LC)に会話型情報技術公開実験室(National Demonstration Laboratory for Interactive Information Technology,以下NDL)が開設された。

NDLは,「マルチメディア」として知られているビデオとコンピュータを結合させることで実現した会話型の最新技術を,一般(特に図書館・研究機関の関係者)に広く公開・体験してもらうために,当初はスミソニアン研究所に設けられた。1987年に,米国公共放送協会とスミソニアン研究所は,この新技術が映画やテレビのように娯楽にのみ用いられるようになることのないよう,教育的な観点から技術発達を図り,併せて評価基準の作成等の事業を行う機関としてNDLを設立し,翌年にジャクリーン・ヘス(Jacqueline Hess)氏を代表として発足した。

NDLがLCに移管されるに際しては,経営管理サービス室長ローダ・カンター(Rhoda Canter)氏の努力によるところが大きいが,その背景には,情報技術を図書館にどのように位置付けるべきか,また,情報化社会の中で図書館はどうあるべきかといった問題をめぐるLCの一連の動きがあった。LCの未来像として,ビリントン館長は「壁なき図書館」を提唱し,LCは過去の知識の単なる保管庫となるのではなく,新技術を活用して積極的に文化の発達に役立つべきであるとした。1989年に発足したアメリカン・メモリー・プロジェクト(CA676参照)は,このような「壁なき図書館」構想の具体化と見ることができる。このような背景の下で,カンター氏は最新技術を図書館員が理解し,使いこなせるように訓練するセンターが必要だと考えて,スミソニアン研究所のNDLを訪れ,それをLCに移管するよう働きかけたのであった。

移管後のNDLの最初の計画の一つに,GTE社と協力して,コンピュータと光ファイバ・ネットワークを用いて,LCの所蔵資料を全国の図書館や研究施設に送るというものがある。これによって,人々は居ながらにしてLCのデータにアクセスできる。この他に,図書館振興財団の資金援助の下に,「バーチャル・リアリティ」技術を応用し,利用者がコンピュータの前に座っているだけで,LCの書庫を歩き回って求める資料を見つけだすかのような図書検索体験ができる検索システムの開発なども予定されている。さらに,29のワークステーションとあらゆる分野の数百種のマルチメディア・ソフトを備えて,関係者に提供する。マルチメディアのCAIソフトを利用して,図書館員の研修を行ったり,さまざまな教育用ソフトを開発することも予定されている。

LC内部でNDLへの評価は割れているようである。多くは最新技術の必要性から歓迎しているが,まだ多くの問題が未解決であることから消極的な人も少なくない。しかし,カンター氏やヘス氏は,いずれ「伝統主義者」もその真価を認めてくれるであろうことを信じている。

新技術は,世界中の人々が居ながらにして図書館が所蔵する知識や情報にアクセスできるようにするだろう。図書館は,その建物ではなく,サービスの点から論ずるべきである。かつては,建物が大きいほどサービスもよくなると思われていた。これからは,そのような伝統的な図書館よりはるかに小規模で,かつサービスは決してひけをとらないマルチメディアの図書館が現れてくるのであろうか。NDLがそのような未来の図書館への一歩となることを期待したい。

竹田幸弘(たけだゆきひろ)

Ref: LC Information Bulletin 51 (4) 1992.2.24; 51 (8) 1992.4.20