カレントアウェアネス
No.156 1992.08.20
CA822
姿を消し始めたカーネギー寄贈図書館
アンドリュー・カーネギー(Andrew Carnegie, 1835-1919)とカーネギー財団が,1889年から1923年の間に合衆国の1,412の自治体に1,681の公共図書館を寄付し,それが米国公共図書館発展の基盤になったことは周知のとおりである。1897年当時971館であった公共図書館は,1923年には3,873館に増加した。その増加分の2,902館の約57%にあたる1,665館がカーネギーの寄付した図書館であった。その際,カーネギーは建物と図書・備品類を提供し,敷地と管理運営は自治体が負担する方式をとった。
現在,公共図書館として利用されているカーネギーの建物は911館のみで,その他は別の用途に利用されたり,取り壊されたりしている。その概要についてボビンスキーが最近調査したので紹介したい。ボビンスキーは,1,681のカーネギー図書館の建物について現状を尋ねるアンケートを1,412の自治体に郵送した。回答は1,554(92.44%)の建物について得られており,結果は以下の通りである。
*公共図書館として利用されている | 911 |
そのうちの建物の様子は | |
建築当時の建物のまま | 276 |
拡張されている | 286 |
改築されている | 175 |
拡張・改築・移転の計画がある | 131 |
修復されている・修復の計画がある | 24 |
情報が得られない | 19 |
*公共図書館として利用されていない | 643 |
そのうちの建物の状況は | |
取り壊されている | 242 |
他の用途に利用されている | 401 |
以上を州別に見ると,インディアナ州では,回答を得た158館のうち118館がまだ公共図書館として利用されているが,139館から回答を得たカリフォルニア州ではわずか36館にすぎない。さらに建築当時のままの建物の公共図書館の数となると,カリフォルニア州では18館,インディアナ州でも42館とかなり少なく,100館を越えるカーネギーの建物をもつイリノイ・アイオワ・ニューヨーク・オハイオの各州でも残存率はわずか15%前後にすぎない。
また,公共図書館以外の用途の内容は,以下の通りである。一番多い利用は博物館(90件)で,歴史(市や郡のもの)博物館などを含む。二番目がオフィス・レストラン・TVスタジオといった商用に改築されたもの(66件)で,三番目は裁判所や水道局などの市や郡のオフィス(37件)である。その他,美術館・教会・商業会議所・倉庫・住宅・学校等に利用されている。図書館として利用されているもの(8件)もあるが,それは学校図書館・系図図書館・歴史文書館・地方史図書館としてである。
このように建築当時のままのカーネギー公共図書館が姿を消しつつあるため,一つの建物を,合衆国図書館の歴史の記念館として保存することが必要となるであろう。カーネギー図書館の建築当時の建物と備品や合衆国中のカーネギー図書館の記録は,20世紀への転換期の公共図書館の様子を示してくれるからである。
来年予定されているカーネギー図書館に関する会議では,この件を討議する予定である。ALAはすでに公共図書館博物館の可能性を調査する委員会を持っているので,2つの案は統合されるかもしれない。
深田恭代(ふかたやすよ)
Ref: Bobinski, George S. Carnegie Libraries. Public Libr. 31 (1) 18-22, 1992
川崎良孝:図書館の歴史 アメリカ編 日本図書館協会 1989, p.161