カレントアウェアネス
No.161 1993.01.20
CA852
南アフリカ黒人読書調査
ナタル大学情報学科のリーチは,南アフリカ共和国における,新たに識字者となった黒人成人の読書傾向の調査を行った。ただし,本調査はダーバン市メトロ地区の75人を対象としており,結果的に,都市部の黒人に限定されたものとなっている。
初歩的な識字者にとって,適切な読書材料(一般に身近で入手できるものよりも平易なもの)が必要であることは広く認められている。しかし,そのような読書材料は不足しており,一層の整備充実が求められている。ところが,南アの黒人成年の初歩的識字者の読書傾向,すなわち,どのような書物・文献に対して関心を有しているかについての調査は,全くと言って良いほど欠如していた。従来の初歩的識字者の読書傾向に関する文献の多くは,極論すれば,推量にすぎず,科学的手法による確認を試みた研究は,この調査以前にわずか2件しか存在していない。
英語を第二言語とする人々を対象とした各種の識字学級に参加している黒人のうち,新たに識字者となったと判定された人々に調査への協力を依頼した。最終的に調査に応じた75人のうち,62人が男性,13人が女性であった。また,27人が18〜30歳,23人が31〜40歳であった。何らかの形で高校教育を受けた者は13人に過ぎず,32人は4年以下しか学校教育を受けていなかった。職業別に見ると,半熟練工が23人,単純労働者が22人,自営業が16人,“事務”職,多くは職長が11人であった。
調査方法としては,自由回答型と選択肢型の質問を共に含む,半指示的な面接法を採用した。選択肢型には,質問者の意図を回答者に「押し付け」る危険があるが,自由回答型にも,回答者の多くが「無回答」を選択する危険があるからである。一般的に関心を持っている主題分野や読みたいと思う主題などが質問事項であった。
調査から次のことが明らかになった。
- 主題への一般的な関心と,その主題に関する図書や論文への関心には正の相関がある。
- 教育・健康・蓄財に関する文献への関心は,調査対象者の多くが直面している,貧困な公教育,医療体制,経済的劣位の反映と考えられる。経済的・社会的に成功する方法に関する書物への関心の高さは,彼らが社会的成功などには無関心だという俗説を否定する。ハウツーものへの関心も,書物が直接的な日常生活上の必要性に応えていることを示している。黒人問題についても関心が高い。
- 政治的主題についての回答はほとんどない。これは,現在の南アの政治情勢のもとでは極めて神経質にならざるを得ないためであろう。
- 実用的書物への欲求は目立っているが,娯楽作品への関心もある。個々の書名を提示したときには,特に積極的な回答は見られなかったが,恋愛小説や歴史小説に対する関心は高かった。
調査対象が都市部に限定され,また,南アの厳しい政治状況を反映して,調査自体が厳しい制約の下で実施されたようだが,結果は一定の読書傾向を明確に示していて,興味深い。この結果は,初歩的識字者向けの図書(もちろん,英語の図書であろう)の出版や,図書館での選書の際に役に立つであろう,とリーチは述べている。しかし,読書傾向は個々人の状況に応じて変化するものであり,さらなる調査研究が期待される。
西村こだま(にしむらこだま)
Ref: Leach, A. Reading interests of newly literate black adults within the Durban metropolitan region, S Afr Tydskr Bibl Inligtingk 60 (1) 47-52, 1992