CA775 – キーワードは「こえる」こと―全国公共図書館奉仕部門研究集会(奈良)から― / 岸美雪

カレントアウェアネス
No.147 1991.11.20


CA775

キーワードは「こえる」こと
−全国公共図書館奉仕部門研究集会(奈良)から−

1991年9月26日,27日の2日間にわたって,全国公共図書館奉仕部門研究集会が奈良で開催された。「新しい時代に応える図書館奉仕を求めて」をテーマに,1)神奈川県立図書館情報ネットワークシステム(KL-NET)の概要,2)愛知県小牧市での市立図書館と市内小中学校とのオンライン化計画,3)埼玉県南5市による行政区域をこえた資料の個人貸出の問題点,4)山梨県石和町立図書館でのAV資料(主としてビデオ資料)サービス,の4つの事例報告が行われた。

これらの事例を通じて提示された「新しい時代への変化」をまとめるならば,おおよそ次の点となろう。すなわち,書誌情報ネットワークの進展による地域内の情報流通の進展とそれに伴うILL(Inter Library Loan)の活発化の傾向,地域内での館種をこえた協力の動き,地域をこえた図書館サービスヘのニーズ増大とそれを実現するための自治体間の障壁,新しい資料群による特色ある図書館運営の可能性,である。

フロアからの質疑,あるいは2日目の研究討議・助言者の発言から,これらの変化によっておこる問題点のうち,特に関心を集めていたのは,共有される書誌情報の著作権の考え方,新しいメディアを図書館で提供する際の関連業界との著作権調整機能への期待,ILLを支える手法(協力車運行など)が全般に従来のままで変化に対応していないこと,地方自治の問題点ヘの図書館としてのはたらきかけの方法,などであった。

館種をこえて,地域をこえて。公共図書館のサービス形態が大きく変化していく中で,お互いが「共通のことばで話しができる」ためにも,改めて図書館サービスの原理・原則的な思想が必要とされる時代になりつつあることを示唆する集会であった。

岸 美雪(きしみゆき)