CA1247 – ILL提供不能の理由 / 増田利恵

カレントアウェアネス
No.236 1999.04.20


CA1247

ILL提供不能の理由

英国では,1995年までの10年間で,相互貸借(ILL:ドキュメントサプライも含む)が約17%増える一方,提供不能となるものは約25%も増え,1995/96年には91,000件に上る。そして,提供不能なリクエストによる損失は,地域図書館システムで年間50万ポンドを超えると見積もられる。

英国のILLシステムは,英国図書館文献供給センター(BLDSC)と,10の地域図書館システムの連携よりなる。出版物が増え,出版物の情報を入手する手段が多様化する中,ILLサービスの需要は急増している。ここでは,ILL提供不能の理由を図書館の種別,資料の種別から分析した調査を紹介する。この調査は,国家及び地域図書館システム長会(Circle of Officers of National and Regional Library Systems)が英国図書館研究イノベーションセンター(BLRIC)の資金を得て1996年に行ったものである。

調査は,3種類のデータについて行われた。第1に,1996年10月〜11月の2カ月に渡り,45館(公共図書館24館,大学図書館15館,専門図書館6館)で,所定の様式で他館にILLを申し込んだが資料の入手不能のため利用者に提供できなかった4,683件と,逆に他館からILLリクエストを受けたが提供不能だった12,457件が記録され,分析された。第2に,ランカシャー・カウンティ図書館が受けた単行書のリクエストのうち提供できなかったもの6ヶ月分(1,060件)を,主題,刊行年,出版地により分析した。第3に,2カ月間に,BLDSCが扱った326,775件の記録と分析が行われた。さらに,BLDSCが提供不能と回答した事例における書誌事項確認上の問題が調査された。文献の調査や,ILL担当職員および関連団体へのインタビューなども行った。

調査の結果,ILLの利用頻度は大学図書館の方が公共図書館よりも高いことが判明した。

ILLの供給源では,北部地域の場合,大学図書館はBLDSCが93%,他の図書館が7%と,BLDSCが圧倒的であるのに対し,公共図書館はBLDSCが60%,他の図書館が40%と,他の図書館からの供給が多い。また,調査した全ての公共図書館で,BLDSCへの申し込みの前に,地域のシステムや目録類の調査が行われたのに対し,ほとんどの大学図書館では,BLDSCで提供不能になった後に総合目録などの書誌ツールに当たっていた。

まず,ILLを申し込んだが入手不能のため提供不能となった理由を館種別にみると,表1のような結果になる。( )内はBLDSCの回答コードである。

表1

提供不能の理由
公共
図書館(%)
大学
図書館(%)
BLDSCからの回答
書誌事項の確認
(CRF)が必要
9
26
国内での所在不明
(NUKL)
21
19
対象外
6
2
 
国外でも所在不明
9
4
 
相互貸借不可
11
7
 
すぐには提供不能
 
20強

表1を見ると,BLDSCのCRFやNUKLという回答が提供不能の大きな理由になっていることがわかる。BLDSCの調査では,迅速な回答という目標のため,調査ツールを十分に使わないうちにこうした回答をする傾向にあることが判明した。

また,BLDSCの収集方針はある分野の提供不能の要因になる一方,他の図書館の政策にも影響を与えるので,非常に重要である。多くの図書館員に,BLDSCにおける資料費削減と収集されない資料の増加について懸念が見られた。

資料により提供不能の割合が異なることが,地域図書館システムのデータから明らかになった。フィクションが最も提供不能率が高く(ほぼ15%),次にノンフィクションの単行書が高い (9%)。他方,逐次刊行物(雑誌記事)は最も提供不能率が低い(3%)。これは,91%がBLDSCから提供されるためであろう。

書誌事項の調査や所在情報の調査の失敗による提供不能の場合も多い。内訳は,書誌事項の確定不能(25%),書誌事項の確定はできたが所在不明(25%),判明した所在で所蔵なし(11%)となる。

次に,他館から受けたILLリクエストについては,41%が提供不能だった。大学図書館ではその割合は46%に上る。提供不能の理由は,表2のとおりである。

表2

提供不能の理由
貸出中または需要が多い
31
所蔵なし,除籍,不明
31
貸出不可
17
紛失
10
所在確認のない,
推測に基づく依頼(TRY)
9

理由を館種で比較すると,公共図書館は,貸出中または需要が多いという回答が多い(公共37%,大学14%)。大学図書館はその他の理由が多く(公共14%,大学28%),TRYに対する提供不能の場合も多い(公共4%,大学24%)。また,貸出方針がILLに及ぼす影響は大きい。大学図書館の中には貸出を拒否するところもある。また,総合目録に古い情報が存在することや,TRYに対する充足率の低さも問題となる。

利用者からのキャンセルも,提供不能として処理されている。処理に迅速さが要求され,提供に時間がかかるためにキャンセルされることがある。公共図書館よりも大学図書館,専門図書館の方がその傾向は強い。

その他に提供不能の要因に挙げられているのは,ILLに重点が置かれていないこと,人手不足や繁忙,システム内でのリクエストの消失(!),新刊資料のILLの問題,費用,引用文献の不十分な書誌記述,著作権である。

以上のような調査結果をふまえ,ILLリクエストの充足率改善のために,政策面と実務面での提言がされた。政策面では,ILLを視野に入れた資料の収集・保存や検索ツールの整備を国レベルで行うこと,コンピュータ目録の充実,コンピュータシステムの水準の維持・向上,ILLの貸し手になる意欲の強化,公共図書館で学生のILL利用が増加していることへの対応,について提言がされた。

実務面では,総合目録の情報の更新,貸出状況を目録に表示すること,コンピュータ目録と英国全国書誌(BNB)相互の情報交換による目録の質の向上,が挙げられた。BLDSCに関しては,さらに,データベース検索能力の向上の必要性なども指摘された。その他,ILLを申し込む図書館に対しては,BLDSCの提供方針に対する理解を求めるとともに,不正確な情報に基づくリクエストやTRYコードの安易な使用について注意を促した。また,提供不能データを選書の際に参考とすること,ILLに適さない資料を周知させること等の提言がされた。また,ILLシステムに対しては,所在を知らせる方法の改善,すぐに提供できない資料の所在情報,他館への回送システム,リクエスト消失への対策について意見が出された。

この調査は失敗例を対象にしたもので,これだけを見ると印象は悪いが,英国のILLネットワークは成功している例であり,21世紀の技術環境において,ILLシステムがさらに発展するための提言がされている。ILL提供不能の理由の詳細な分析,そして図書館の館種によるILLへの取り組みの違いは,イギリス以外の国でも今後のILLを考える上で,重要である。

増田 利恵(ますだりえ)

Ref: Parry, David. Why requests fail. Interlend Doc Supply 25(4)147-156, 1997