カレントアウェアネス
No.236 1999.04.20
CA1246
中国のインターネット規制と政府情報の国際交換
中国におけるインターネット利用者は99年に入って150万人を越え,その数は1年間で倍以上に増加した。北京,広州,上海などの大都市では若者やビジネスマンを中心にかなり普及・定着してきたようである。また99年2月に江沢民国家主席は対外宣伝工作会議での演説で,改革開放政策や民主化の推進といった基本政策を世界に説明して中国のイメージアップをはかるためにインターネットを積極的に活用するよう指示した。中国当局は経済効果のみならず政策遂行という面からもインターネット事業の発展を重視し始めた。とはいえ従来からの「有害情報」の規制をゆるめる気配はなく,むしろ強化されている。
中国のインターネットに対する規制については以前本誌でも紹介した(CA1111)。規制のため制定された「コンピュータ情報ネットワーク国際接続管理暫定規定」はその後97年5月に改定され,規制は強化された。さらに97年末に公布された「インターネット安全保護管理規定」では,規制の対象となる情報として,国家や制度の転覆をはかるもの,封建的な迷信やポルノ,暴力などに関わるものなど9項目を列挙し,こうした情報をインターネットを利用して作成,複写,検索,配布してはならず,これに違反すれば,罰金や接続許可の取り消しといった処罰を受けることになった。
99年1月20日には上海市第一中級人民法院で国内の電子メールのアドレス約3万件を海外に提供した上海市のコンピュータソフト会社経営の林海氏が国家政権転覆罪で懲役2年の有罪判決を受けた。提供した相手というのが中国国内の反体制派へ電子ニューズレター「VIPレファレンス」を発信しているワシントンの団体であったことが問題になった。中国内外の民主活動家たちがインターネットを闘争の有力な手段として活用することを明言していることもあり,当局はこれに対する見せしめとして林海氏を処罰したと思われる。
こうした規制で反体制派やマフィアなど犯罪組織の動きを封じるのにどれだけ効果をあげられるかは疑問だが,中国在住の外国人(特にマスコミ関係者やビジネスマン)の国外情報へのアクセスに制限が加わり,国内の接続業者も政府の回線を高い料金で賃借しなければならないため,一時期全社が赤字経営を余儀なくされるなどの影響が出ている。
また図書館関係でも,中国の北京図書館(中国国家図書館)と米国の議会図書館との間の政府刊行物の国際交換業務に支障を来す可能性が出てきた。米国では政府機関の情報は従来の紙による刊行物の発行からインターネットによる公開へとシフトさせつつあるが,そうしたサイトが中国側の規制対象に入っている可能性が指摘されているのである。もともと米中の中央図書館による政府刊行物の交換は両国の政府刊行物の概念の相違などもあってその内容や量に大きな隔たりがあり,中国に比べて多くの資料を出している米国側の不満が高まっていた。インターネットを利用した政府情報の国際交換のための新たな枠組みが求められている中で,中国が規制を続ければ,両国間の資料交換制度の存続にも関わる問題に発展するかもしれない。
渡邊 幸秀(わたなべゆきひで)
Ref: Wang, Rui. Traveling uncharted waters: the exchange of government information between the United States and China. J Gov Inf 25(4)353-358, 1998
Christian Science Monitor 1999.1.26
新聞研究 (568)1998.11
北京週報 1998.12.1
産経新聞 1999.1.12
日刊中国通信 1999.1.19
朝日新聞 1999.1.21;1999.2.28