CA765 – 来たる時代の情報アクセスをめぐる諸問題―第10回KIT-LC国際セミナー / 中森強

カレントアウェアネス
No.145 1991.09.20


CA765

来たる時代の情報アクセスをめぐる諸問題
−第10回KIT-LC国際セミナー−

表記のテーマのもとに,金沢工業大学ライブラリーセンター(KIT-LC:酒井館長)主催の第10回国際セミナーが,去る6月6〜8日,同大学において開催された。今回の講演発表は,ハース前米国図書館振興財団理事長をはじめ,米国の大学副学長,大学図書館長,図書館学校長等5名の講師により行われ,図書館情報学関係者87名がセミナーに参加して,活発な討議が行われた。その概要は以下のとおりである。

(1) 来たる時代の情報アクセスをめぐる諸問題(基調講演):ウォーレンJ.ハース

情報化時代の利用者ニーズに応えるための図書館の将来の課題として,i)情報アクセスに影響を与える外部的な要因と政府の政策,ii)「新時代の」調査図書館の特質,iii)新しい図書館員の専門教育,の3点を挙げ,将来への提言がなされた。

(2) 図書館に対して大学が配慮すべき政策:ビリーE.フライ (エモリー大学副学長)

近年の経済的停滞に対処するため,大学はこれまでの予算の恒常的増大を縮小すべく努力している。大学の図書館においても,例外でない。今後の対応として,図書館間相互の協力を推進して,蔵書の構築,保存,頒布等のコストを分担する必要がある。

(3) 科学技術の必要性:ロバートM.ヘイズ(カリフォルニア大学ロサンゼルス校図書館長,図書館学校長)

科学技術分野では,調査研究方法の変化,コンピュータの利用の増加,電子媒体情報の出現,その結果としての伝達方法の変化といった新たな問題が生まれてきた。将来は,特にデジタル化された画像情報の利用の具体化が,より重要となってくるであろう。

(4) 人文学と歴史の定義の変遷:ディナーB.マーカム(アメリカカトリック大学図書館長)

米国では,人文学・歴史学のあり方が,1960年以降劇的に変化し,偉大な人間の偉大な作品の研究調査にかわって,マイナーではかない事柄の調査資料や,非印刷資料へのアクセスがますます必要になってきた。また,図書館以外の文書館,博物館などさまざまな情報保存機関ヘのアクセスを可能にするための書誌システムも欠かせないものとなっている。

(5) 調査研究図書館における資料アクセスの増強(1965年〜1990年)ジェイムスF.ゴーヴァン(ノースカロライナ大学<チャペルヒル>図書館長,図書館学校長)

コンピュータと遠隔通信の進歩により,画像の伝送や多量な情報のアクセスができるようになった。調査研究図書館はこれらの技術を導入して発展を計らなければならない。

セミナー最終日の質疑討論において,特に印象深かったのは,今年初めにケロッグ財団に転出されたハース氏が,図書館の存在意義を「心の環境を豊かにする」ものと捉え,強調されたことである。また,講師として出席した大学経営者と図書館学校長の間で,アメリカでの図書館学校閉鎖問題につき激しい議論が展開された。

特に,フライ氏が大学経営の立場から,閉鎖の理由につき,行き過ぎた図書館学校の増加,ビジネススクールのように卒業生から大学への財政的支援がないこと,新しい時代の図書館サービスに対処するカリキュラムの不足等を挙げていたのが記憶に新しい。

中森 強(なかもりつよし)