CA747 – 最近のソビエトの出版統計から / 兎内勇津流

カレントアウェアネス
No.142 1991.06.20


CA747

最近のソビエトの出版統計から

外国向けのソ連の出版計画情報誌Novye Knigi SSSRに,最近1989年の出版統計が掲載された。それによると,当該年度中にソ連国内では7万6711点の図書が出版された。総冊数は22億5145万,平均ページ数は206であった。出版点数は,1975年に8万3439点となった前後から停滞していたが,89年は前年を5千点近く下回ることとなった。平均ページ数は増加を続けているが,総冊数は前年比5360万冊減少した。この他1万7880点の美術出版物,5228種の雑誌・継続刊行物,8811紙の新聞が発行された。

図書出版の内訳では,ロシア語をはじめとするソ連諸民族の言語により7万2981点が出版され,残りの3730点は,英語などの外国語で出版された。国内言語の中では,ロシア語が5万8451点で最も多く,リトアニア語(2075点),ウクライナ語(1937点),グルジア語(1383点),エストニア語(1319点)と続き,全部で72の言語にわたる。外国語は,英語(1021点),スペイン語(380点),ドイツ語(371点),フランス語(341点),アラビア語(150点)の順で54の言語にわたる。日本語は19点,エスペラントは6点の刊行だった。

7635点の翻訳書が出版されたが,うち外国語への翻訳が2657点あり,それを除くと4978点となる。この数字は,外国語からソ連国内言語ヘの翻訳と,ソ連国内語どうしでの翻訳の両方を含むとみられる。

少し前のことだが,ソ連の書誌学界の長老エフゲニー・ネミロフスキーは,ユネスコの統計などによりながら,ソ連の出版界についての提言を行った。そこで挙げられたデータなどを参考に,日ソ両国の出版情況を比較してみる。人口100万人あたりの出版点数は360対303(1983年)で日本がやや多い。この数字は国内に大きな言語集団をかかえる程低下するべきものと思えるが,多民族国家のソ連としてはやや少ないともいえよう。1人あたりの出版冊数も11.1対8.2(日本−1988年,ソ連−1989年)で日本が上回る。外国語から国内言語への翻訳点数は,日本が2479点,ソ連は2059点(1982年)であまり大きな違いはない。

ソ連と日本が特に大きく異なるのは,ソ連では雑誌のタイトル数が少ないこと,重版の少ないことである。雑誌について言えば,新しい雑誌の刊行を出版計画に組み入れる余裕がなかったということであろうが,そのため例えば医学雑誌は192種類しかない(日本では3134種)。重版が少ないのは,紙型を保存しておいて,売れ行きによって増刷するという体制がないことによるが,そのため出版社側も組版に余分の負担をかけている。

ネミロフスキーの提案は多岐にわたるが,外国との合併会社による翻訳出版事業の促進,写真製版によるリプリントの採用など,一部は実行されつつある。しかし,図書の価格を低く抑えることと省力化のための投資を進め工程をコンピュータ化することなど,両立困難と思える部分もある。ともかく,新しい雑誌を創刊するにも出版部数をふやすためにも,用紙の供給が増加しなければならない訳で,これはすぐには実現しそうにない。

兎内勇津流(とないゆづる)

Ref: Novye Knigi SSSR. 1991 (1) p. 58f.; 1991 (2) p. 64f.
Nemirovskii, E.L., O nekotorykh putia- kh sovershenstvovaniia- sovetskogo knigoizdaniia. Kniga: issledovaniia i materialy, Sb. 59, 1989.
出版年鑑 1989年版 等