CA713 – 中国の医学図書館で閲覧証有料化の試み / 鎌田文彦

カレントアウェアネス
No.137 1991.01.20


CA713

中国の医学図書館で閲覧証有料化の試み

中国医学科学院に所属する中国協和医科大学の図書館では,1985年から閲覧証の発行を一部有料化しており,この試みが図書館界の注目を集めている。

協和医科大学図書館は,71人の職員が働き,蔵書数45万冊を有する医学関係の専門図書館である。蔵書は,当然ながら医学・生物学関係の図書・雑誌が主で,また中国医学の古典籍を多数所蔵している。この図書館は,中国医学科学院に所属する病院,研究所の医師,研究者,職員および協和医科大学の教師,学生など約4,000人を主たる利用者として想定している。しかし,医学科学院外の各種組織の研究者,医師の利用も多い。

閲覧証有料化は,この院外からの利用者に対して行われている。費用は,閲覧証一枚につき年間60元である。これは,サラリーマンの平均月収の3分の1程度の金額なので,決して安いものではない。院外から閲覧を希望する場合は,閲覧者を派遣したい組織と協和医科大学図書館が協議して,閲覧証の発行枚数を定め,その組織が実際に利用する個人を指定する。費用は利用者が自ら負担するわけではなく,所属する組織が研究費などの中から支払うことになる。そして,毎年年初に登録の更新を行う。また,他の組織から医学科学院に派遣されている研修生からも,月5元の管理費を徴収している。

協和医科大学図書館がこのような制度を導入したのは,院外の利用者が急増して,院内の利用者に対して十分なサービスができないという深刻な問題に直面したためである。諸条件を勘案し,院外への閲覧証発行は,500枚を上限とせざるを得ないとの結論に達した。そこで,「制限,有料」という原則のもとに,閲覧証有料化に踏み切った。

この結果,院外に発行する閲覧証は,毎年約450枚に落ち着き,実際の利用者の中に院外者が占める割合は,85年の34%から88年の25%まで下がった。これにより,院内の利用者には,十分なサービスを行えるようになった。有料化によって得られた収入は,閲覧条件の改善,アルバイト雇用に当てている。有料化後,閲覧室の椅子を新調し,扇風機,エア・コンを設置した。

協和医科大学図書館の試みは,中国でも新しいものであり,その是非をめぐって社会的論議を呼んだ。『人民日報』『健康報』などの新聞が,取材に押しかけた。「図書館のような公益的事業を行うところでは,絶対に費用を徴収してはならない」「医学科学院の図書館では,閲覧証を売りに出している」といった非難の声も上がった。

しかし,当事者は,利用者の増加をコントロールし,十分なサービスを行うために有効な方法であると考えている。また,近年の激しいインフレにより,資料購入費が実質的に目減りし,中国の全ての図書館にとって頭の痛い問題となっているが,このような状況下では何らかの自主的な措置を講じざるを得ないと主張している。最初はとまどった利用者も,有料化の結果,より良いサービスを受けることができ,設備も改善されるのを見て,徐々にこの措置を理解し,支持するようになってきたと語っている。

以上のような閲覧証の有料化は,中国でも従来例が無かったため,社会の注目を集めたのである。近年各組織の独立採算制が強化されている中国では,あるいはこのような措置が普及してゆくのかもしれない。

鎌田文彦(かまたふみひこ)