カレントアウェアネス
No.137 1991.01.20
CA711
BL円形閲覧室の将来
英国図書館(BL)がセント・パンクラスに建設中の新館は,第1期工事も進み,移転に向けた準備が着々と進行しているようである。今回は,大英博物館内にある円形大閲覧室の移転を巡る話題を中心に,新館に関連した最近の話題を二三拾ってみる。
パニッツィの時代(1857年)に開館した円形大閲覧室は,幾多の文学作品の舞台となり,また,マルクスやディケンズなどの著名人が利用した,BLを代表する由緒ある施設である。BLが昨年6月に公表したところでは,移転計画の第2期(1996年に完了予定)に,BLの人文科学部門が新館に引っ越す予定である。この時,円形閲覧室をはじめ,キングズ・ライブラリー,ノース・ライブラリー,地図室など,大英博物館内にあるBLの全施設が博物館に明け渡される。
大英博物館に収容しきれない資料は館外に分散収蔵されているため,現在は,資料によっては請求から提供までに1〜2日かかるものもある。移転後は新館に資料が集中し,出納時間は約20分に短縮される予定である。閲覧席も現在の365から500に増え,キャレルも設けられる。職員の労働環境や資料の保存環境も改善される。このように,新館への移転は図書館サービスの改善・充実をもたらすものと期待される。British Library News誌(1990. 8/9)には,移転のタイムテーブルと共に,新館の完成予想図などが紹介されている。かつて新館貴重書室の予想図を見て,チャールズ皇太子が秘密警察の建物のようだと批判したのは有名だが,今回の図にはどんな評が寄せられるのだろうか。
一方,会計検査院は全体的な建築計画の杜撰さを指摘している。同院の報告書によれば,見通しの誤り,予算削減に伴う計画の無原則な変更,工事の遅れ,監督機関による不十分な工事の管理などによって,工費が当初見積りの4倍に達する一方で,1996年の移転完了時に既に書架は満杯になっているだろうと予測している。
円形閲覧室の消滅を惜しみ,存続を希望する意見は,かなり以前から繰り返し表明されてきた。昨年11月14日に開かれた閲覧室利用者懇談会の席上でも,閲覧室の移転は文化的な野蛮行為であるとの声があがった。
組織的な反対運動もある。オックスフォード大学総長ジェンキンス卿等は円形閲覧室の将来に関する私的委員会を設け,その討論結果を報告書にまとめて,このほど芸術大臣に提出した。報告書は,1)資料のみ新館に移転して閲覧室は現在のままで存続させる(両者は車で10分程度の距離なので,資料の搬送もそう手間取らない)か,2)新たに歴史分野の図書館とする,という二つの代替案を示している。
第1案に対し,BL側は,1)新館が建築段階にきている現在,設計の大幅な変更は不可能,2)1カ所に集中させた方がよりよいサービスをより効率的に提供できる,3)新館の方が資料の保存条件がはるかによい,という理由を挙げて反論している。第2案について,BL移転後の円形閲覧室をどう使うかは博物館の側の問題であるが,いくつかの案を検討中で,結論はまだでていないようである。
田村俊作(たむらしゅんさく)
Ref: The Guardian 1990.10.31
The Independent 1990.8.2 ; 1990.8.4 ; 1990.10.18 ; 1990.11.15
The Times 1990.8.4 ; 1990.10.31
Financial Times 1990.9.22/23