CA678 – ソ連における資料保存の課題から / 篠原ミカ

カレントアウェアネス
No.131 1990.07.20


CA678

ソ連における資料保存の話題から

1988年2月の科学アカデミー図書館(レニングラード市)の火災を契機に,ソ連国内では防火体制をはじめとする図書館資料の保管についての劣悪な状況が指摘され(同じレニングラード市内のロシア文学研究所,通称プーシキンの家の書庫など),昨年暮れにはモスクワでソビエト図書館・文学博物館援助基金の創立大会が開かれた。以下,ソ連邦の全国書誌作成機関である全ソ集書院(Vsesoiuznaia knizhnaia palata,全ソ連邦書籍院,全ソ図書庁などとも訳される)について最近のレポートを紹介する。

「1917年以来わが国で刊行されてきた出版物は国民の財産である。が,その保存状態については非常に危惧せざるをえない。6,000万部以上の永久保存用の出版物が元来他の用途に使われていた古びて,事故が起こっても不思議ではない建物に配置され,こうした出版物の相当部分は劣化していく‥‥‥モスクワ市執行委員会に命ずる。1965年5月18日付ソ連邦閣僚会議の命令に基づいて建設されている‘本の家’を1989年上半期には完成するよう。」

こうして,3年前の閣僚会議は1965年の閣僚会議の命令――モスクワ市執行委員会が責任をもって,VKPのために専用の‘本の家’を建設すること――を確認した。が,1990年現在も完成には至っていない。

現状ではVKPには,毎月国中から集まる10万部を超える出版物を整理する場所はおろか,置き場すらない。モスクワ州の32箇所に散在するVKPの支所は昔の教会や地下室を使っていて,老朽化が激しく,書物だけでなく職員の生命にとっても危険がある。「床板は腐ってたわみ,新聞の山が書架の間の通路に積み上げられている…」「半地下室――湿っぽく,かびが生えた壁,濁った空気…」「雪解けの水が侵入した…」「ベニヤ板を張って補強した天井がいつ崩れてくるかと思うと…」云々。ソ連科学アカデミーの火災の教訓は生かされず「火災警報装置も不備である。」なお,損傷した書物を修復するにも,設備・材料・有資格の専門職員を揃えるのは難しく,費用もかかる。

こうして近年,VKPの蔵書――かけがえのない文化的・歴史的集積,将来にわたる政治・文化・経済研究の源泉――の10〜20%が失われたともいわれる。ソ連邦閣僚会議はモスクワ州執行委員会に命じてモジャイスク市にVKPのための書庫を2つ建設したが,問題の解決には程遠い。

‘本の家’の建設は,1974年〜1989年にかけて,その予算額の60%弱が履行されたにすぎない。行政管理機構の無責任と官僚主義がはびこり作業進度が現状のままなら,その完成は21世紀にずれこむことになる。

篠原ミカ

Ref. Filimonov I., Spacem knizhnye sokrovishcha. Knizhnoe obozrenie 1989. 12. 22
Bakhanov E., Gribok. Knizhnoe obozrenie 1990. 2. 9