カレントアウェアネス
No.130 1990.06.20
CA668
図書館間貸出(ILL)の機械化と蔵書構築
図書館間貸出(以下ILL)の借受データを分析することにより,自館で需要が強いのに所蔵の少ないある特定の分野,あるいは所蔵していない特定のタイトルが浮び上がってくる。電話や口頭でのレファレンスと異なり,ILLは1件ごとの記録が残るため,蔵書構成を見直す有効な手段のひとつになりうるのである。以下に米国でのILL分析の機械処理の動向について紹介する。
米国Kent State UniversityのL. M. Bartoroは,ILL処理が機械化されるようになり,選書への応用が一層簡便になったと述べる(Ref 1)。
Bartoroは,ILL用プログラムソフトの比較を試みる。そのため,まず,これまでに行われたいくつかのILL/蔵書分析の報告に検討を加えている。これらの報告はいずれも,ILL分析が蔵書構築に役立つことを結論づけており,例えば,5回以上請求されて借り受けた逐刊物は購入を考慮すべきであるとか,新しい刊行物で安価なものの中にはILLを利用するより購入されるべきものもあるはずだ,などという指摘がなされている。また,収集とILLのバランスを調べた結果,主題により購入が少なすぎたり多すぎたりしているという発見をしたものもあった。
しかし一方Bartoroは,これまでの手作業によるILL分析の限界をも指摘する。調査期間は限られるし,調査の規模も比較的小さい。蔵書構築のためには,ILLにおける新しい動きを把握することが必要なのに,データをまとめるのに時間がかかってタイムリーでなくなってしまう。また,統計的な傾向を強調しがちだが,実際にはどの学部が何を欲し,どの図書館にあるか,という個々の情報も役立つのだ。
したがって,ILL分析がILL作業過程に組み込まれるようになってはじめて,ILLは容易に蔵書構築に情報を提供することができるようになるわけで,それを可能にしたのがILLの機械化なのであった。
そこでBartoroは,ILL分析に必要な指標を過去の調査にふまえて抽出し,この指標にそってここ数年間に米国で開発され使用されているILL用プログラムソフトを,5つのソフト(AQUILLA,ILLRKS,ILL Log,ILL Office Program,SAVEIT)に的を絞って比較検討している。
まず,貸出の可・不可を図書・雑誌別リストにして出すこと,これは当然どのソフトも可能である。しかし,こうしたリストや統計を,学部別,主題(分類)別,出版年別,タイトルごとのリクエストの頻度といった指標で出すことが可能かどうかとなると,ソフトにより異なってくる。
第2に,これらILL分析に必要なデータ作業がILL作業過程の中にどれだけ組み込まれているか。要するにいかに手間をかけずにデータを入れることができるかということだが,これは職員がいちいちキーインするのと,電送されたものがそのままインプットされるのとではだいぶ異なるであろう。
第3に,機械化により,OCLCやRLINシステム等を通じて,他図書館の蔵書を知ることが可能になったことが,選書上のメリットになった。ソフトによっては,ある特定のタイトルを,貸出機関以外のどの機関が持っているかを情報として得られるのである。
以上のような比較をした上で,どのソフトがよいかということは,個々の図書館の蔵書のニーズに従ってハカリにかけるべきだ,というのがBartoroの考えである。
ところでILLRKSの使用例が,Colorado State UniversityのJ. E. Wesslingにより報告されている(Ref.2)。この大学ではかねてより,ILLの記録が購入の参考に供されていたのだが,実際には繰り返しリクエストのあったものを見つけるのは困難であった。こうした蔵書構築情報としてのニーズと,ILLのファイル管理上のニーズとが相俟ってILLRKSが導入されることになった。
ILLRKSは,リクエストが記録されるACTIVE FILE,また,処理済のリクエストがファイルされ,そこから統計やリポートが作成できるINACTIVE FILE,そして複写のリクエストを著作権法のチェックとともに管理するCONTU FILE等からなっている。OCLCやRLINへのリクエストは自動的にACTIVE FILEに記録される。リクエストのうち55%がOCLCに,43%がRLINに回される同大学にとってはこれは重要な機能である。
リクエストの記録は資料の到着,返却,返送やキャンセルの際に更新する。個々のリクエストのステータスを調べるのにも様々なアクセスポイントがあるので,請求者からの問い合わせや書類なしに資料が届いた場合などの事故にも簡単に対応できる。
ILLRKSシステムでは,リクエスト情報をひきだして資料購入の参考に供することができる。学部ごとにリクエストを表にして定期的に選書担当者に渡すことが可能である。また,複写依頼が著作権法上の制限を超えたことがCONTUでチェックされると,即座に選書担当者に知らされ,購入が検討されることになる。
さらにWesslingは,ILL処理の自動化は,選書を超えて,蔵書の評価にも有用であるという。つまり閲覧記録も自動化されれば,ILLの借受記録と閲覧記録を比較することができ,ある特定の主題で閲覧が少なくILLの借受が多ければ,そこにコレクション・ギャップがあるということがわかるというわけである。
このように,蔵書構成の見直しや,今後の蔵書計画に対してILLデータの分析は有効な示唆を与えるものと思われ,利用者ニーズの把握の一手法として考慮されるべき問題であろう。
山田邦夫
Ref.1 Bartoro, Laura M. Automated ILL Analysis and Collection Development: A Hi-Tech Marriage of Convenience. Library Acquisitions: Practice & Theory vol. 13, pp.361-369, 1989.
Ref.2 Wessling, Julie E. Benefits from Automated ILL Borrowing Records: Use of ILLRKS in an Academic Library. RQ Winter 1989, pp.209-218.