カレントアウェアネス
No.121 1989.09.20
CA618
遡及入力(RECON)と図書館間相互貸借(ILL)−その相関関係−
書誌ユーティリティを利用し,書誌情報とリンクされた所蔵館記録によって図書館間で一次資料の相互貸借が行なわれている。世界最大の書誌ユーティリティである米国のOCLCでは,その1978/1988の年報によれば,データベースに追加される書誌情報は前年に比べて40万件程減少しているが,ILLサブシステムによる貸出し要求は50万件程増加している。
書誌ユーティリティでは参加館のオンラインによる目録作業によって新しい資料のレコードが蓄積され,古い資料については一括処理による遡及入力によって追加されている。その遡及入力による書誌所蔵情報のデータベースへの追加が,ILLに対してどの程度影響しているのであろうか。
本稿で紹介する調査は,米国のある大学図書館でRECONプロジェクトのILLへの効果を測定した結果である。測定の要点は以下のとおり。
- ILLの貸出し要求数の増減状況
- 貸出し要求数の増減がOCLCの使用と関係があるのか
- 貸出し要求数の増減の他の要因は何か?
- どれ程の貸出し要求がOCLCを通じて確認され,これらのどの位が遡及入力された資料に対するものなのか
- OCLCへ入力した資料の分類とILLによる貸出し要求の数に関係があるのか
調査の対象となった図書館は,130万冊以上の図書と50万冊以上の製本された逐次刊行物を所蔵し,ILL担当のスタッフは専任の2名とパートタイムの学生という規模である。
RECONのILLへの効果を測定する方法としては,1963年から1984年までの貸出し要求数の予測値と実績値により,1976年にOCLCがILLを実施したことによる影響を回帰分析で考察している。ILLの貸出し要求のどれ程が遡及入力された資料に対するものかを確定するために,特定期間の要求から標本抽出するとともに,LCの分類に従って資料の種類とILL要求の関係をインデックス値で分析している。インデックス値は(貸出し要求の百分率)÷(所蔵の百分率)である。
結果をまとめると次のようになる。
1)1976年より前,すなわちOCLCのILL実施前は毎年の貸出し要求の増加率は約10%であるが,1976年以降は毎年平均約25%増加している。ちなみに1963年の要求数は18件,1983年には6,360件に達している。
2)1979年初めから要求の予測値と実績値の開きが顕著になっている。とくに1983年には実績値が予測値の2倍になっている。このことは,この時期あたりからOCLCへの大量の書誌所蔵情報が追加されたことに直接関係があると思われる。
□OCLCでの所蔵記録
遡及入力分 | 201,308件(57%) |
新規入力分 | 152,265件(43%) |
□要求の抽出サンプル
遡及入力分 | 672件(53.7%) |
新規入力分 | 580件(46.3%) |
このサンプルには,この図書館で所蔵していてオンラインユニオンカタログにまだ入っていない資料に対するものはなかったということである。この結果から図書館の受ける貸出し要求の50%以上は遡及入力プロジェクトの直接の結果であるとしている。
4)LCの分類体系の類(A〜Z)ごとのインデックス値で,E,J,L,M,Pといった類は値が小さく,G,S,T,U,V等は値が大きい。これは所蔵記録に対して要求の割合の大小を表わすもので,コレクションの不足や過剰の指標でもある。例えばPなどはあまり利用されていないことになる。Pは小説が多く,ILLに対しては消極的であるとの見方もできる。全体としてはLCの類によるOCLCにおける所蔵記録数と要求数の比較は,相関係数0.9という結果が報告されている。
この調査では,遡及入力の影響度はいろいろな要因が複合しているため,その測定は難しいながらもある程度測定できるとしている。遡及入力実施にあたっては,ILLへの影響を事前に予測し,ILL業務消化のための設備――例えばM300(IBM/PCのOCLC端末)やマイクロエンハンサー(ILLの貸借手続を省力化するソフトウェアパッケージ)――やスタッフを補充すべきであったとし,今後新しく特殊コレクションなどを遡及入力する際には役立つであろうと結んでいる。
図書館資源を共同利用するILLにとって,書誌ユーティリティのテレコミュニケーション機能と充実した書誌所蔵記録が不可欠である。とくに現状では遡及入力の果す貢献度は相当大きいという結論になるといえよう。
杉山時之
Ref. McCartney, Elizabeth J. The Impact of Adding Retrospective Conversion Holdings to OCLC on Interlibrary Loan Lending. RQ 28 (3) 327-333, 1989.