CA2077 – 震災後の図書館サービスの復旧と支援:能登半島地震及び豪雨の現場から / 上田敬太郎

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カレントアウェアネス
No.363 2025年03月20日

 

CA2077

 

震災後の図書館サービスの復旧と支援:能登半島地震及び豪雨の現場から

石川県立図書館利用推進課:上田敬太郎(うえだけいたろう)

 

1. 石川県における地震の状況

 2024(令和6)年1月1日16時10分頃、石川県能登地方を震源地としてマグニチュード7.6の地震が発生した。輪島市、志賀町では震度7、七尾市、珠洲市、穴水町、能登町でも震度6強の地震だった。

 人的被害は死者498人でうち災害関連死270人、住家被害は全壊6,077棟、半壊1万8,342棟を含む計10万3,911棟となった。また、避難者はピーク時に約3万4,000人であった。断水はピーク時に16市町で約11万戸であった(1)(2024年12月27日現在)。

 

2. 石川県立図書館における被災状況

 石川県立図書館(以下「当館」)では、館内約110万冊の図書のうち、書架から落下した図書は約1,000冊であった(円形空間以外の開架書架の資料。全体の約0.1%に相当)。被害が比較的小規模だったのは、最新の免震構造と、円形空間が想定以上に地震の揺れに強かったものと考えられる。書庫の本は落下しなかった。

 本来開館日だった1月4日は安全点検のため臨時休館とし、職員による点検、業者による仮復旧を行い、安全性を確認の上、1月5日から開館することができた。ただ、傾いた書架やこどもエリアの照明器具破損等があり、後日修繕した。

 

3. 県内公共図書館における被災状況

 県内公共図書館では、奥能登4市町(珠洲市、輪島市、能登町、穴水町)と志賀町、七尾市などの被害が大きかった(E2681参照)。

 

4. 当館による支援

 第110回全国図書館大会(2)で既に発表済みであるが、そのうちのいくつかを記載する。

 

(1)自治体職員としての支援

 まず、図書館職員は自治体職員でもあるので、本庁の指示により、図書館の復旧業務より県民の命や健康を守り、災害関連死を最小限にとどめるための業務を優先することとなり、市町でもそのような状況にあるところがあったということは特記しておきたい。当館職員は県職員として震災支援のために能登などに派遣された。令和6年3月末までに、輪島市役所、剱地避難所(輪島市)、いしかわスポーツセンター(金沢市、1.5次避難所)などに149人日、4月以降は、図書館職員は被災市町へ常時1人派遣され、公費解体の受付、震災関係の事務処理などを行った。

 

(2)日本図書館協会(JLA)図書館災害対策委員会との連携

 JLA図書館災害対策委員会(3)から県内図書館での必要な支援や、地域紙や全国紙地域版など確保が難しい新聞の欠号状況の把握などについて問い合わせがあり、市町立図書館に確認したところ、新聞を入手できない図書館があったので、新聞の確保を依頼した。また、同委員会からは能登の図書館で現地調査を行いたいとの依頼があったため、能登の図書館に問い合わせて輪島市立図書館、穴水町立図書館、珠洲市民図書館などとのマッチングを行った。

 

(3)石川工業高等専門学校(津幡町)への支援

 石川工業高等専門学校の図書館から「書架から落下した資料が大量にあり、分類が混ざってしまった。余震があるため高い位置に配架しないよう配架場所の移動をしたいが落下した資料数が膨大である。作業を複数回に分けて行う必要があり人員が足りない」との連絡を受けて、当館で県内のネットワークを用いて、県内図書館員に手伝いを呼び掛ける仕組みを作った。石川工業高等専門学校が配架ボランティアを呼び掛けたところ公共図書館・大学図書館の4館延べ11人の参加者があった。

 

(4)穴水町立図書館への支援

 穴水町立図書館は、複合施設さわやか交流館プルートの建物の2階にあり、建物自体が避難所となっていた。そのため図書館は閉鎖されて、本は段ボール箱に詰めて床置きし、空いた書架に物資を置く物資倉庫となっていた。7月から一部開館したが、穴水町立図書館からの依頼を受けて、当館職員が7月から9月にかけてそれぞれ月1回訪問して、除架・除籍や選書など相談を受けたり、整架を手伝ったりした。

 

(5)輪島市立図書館町野分館への支援

 能登豪雨による被害に対する支援についても記載する。輪島市立図書館から、9月に奥能登豪雨のため町野分館が浸水し、書架の一番下の段が泥水に埋まったという連絡があった。貴重な郷土資料もあるということで、国立国会図書館(NDL)に連絡を取ったところ、NDLの職員がすぐに来県し、濡れた本の対応方法を講習してくれた。参加者で何冊かの本の復旧に努めた。

 

(6)輪島市立図書館の仮設図書館移転について

 輪島市立図書館は1981年に竣工した奥能登地区で最も古い図書館だが、今回の地震により地下にある電源設備が水没し、使用できなくなった。その後5月14日に隣接する道の駅ふらっと訪夢の会議室で1,000冊程度の資料を置いた臨時の仮設図書館を開いた。

 仮設図書館を開館するために、廃校となった小学校校舎など適した場所を探していたところ、震災で商業施設のテナントが空いたことから図書館にどうかという提案があった。そこでその場所に仮設図書館を開館することになった。

 当館は書架について相談を受けたが、前年度移転した金沢美術工芸大学の旧図書館の書架が不要になるのではと考え、すぐ金沢美術工芸大学に連絡を取った。するとちょうど書架を処分しようとしているところだと聞き、当館が現物確認に出向いた。書架は十分使用できる状態であったため、輪島市に無償で提供いただけないか打診したところ、同大学としても復興支援になるのであればと、快諾を得ることができた。

 書架の問題が解決した後、輪島市立図書館から開架分の本の箱詰めと、配架・整架のボランティアを募集したい旨、相談を受けた。輪島市立図書館職員は仮設図書館への移動で多忙なため、当館で募集をかけることとし、県内の図書館ネットワークでまず本の箱詰めボランティアを募集した。

 募集した結果、11月1日から4日の間(11月2日は豪雨のため中止)、公共図書館・大学図書館11館延べ37人の参加があった。参加者で仮設図書館へ運ぶ本を分類順に書架から段ボール箱に詰める作業を行った。

 金沢美術工芸大学図書館の書架が仮設図書館に設置された後、段ボール箱に詰めた本を箱から出して書架に配架し、さらに請求記号順に整架する作業が必要となった。そのため図書館ネットワークで当館がボランティアを募集し、11月30日から12月4日の5日間で公共図書館・大学図書館7館延べ31人が参加した。今回は富山県立図書館に依頼して同県内の図書館員にボランティアとしての参加を呼び掛けてもらったところ、 富山県内の図書館7館延べ9人の図書館員の参加があった。その結果、計14館延べ40人の図書館員が作業にあたった。また、輪島市立図書館職員の堂ケ口氏の紹介により、11月29日から12月1日に金沢学院大学の学生たちもボランティアとして参加した。

 これらの作業を通して、ある程度開館に向けての準備が整った。県内だけでなく、県外の図書館職員にも参加していただけたのは今後の図書館連携を考えるとよいことだったと思う。

 輪島市立図書館は開架約4万5,000冊の本が並ぶスペースで12月21日に仮設図書館を開館した(4)

 ただ、輪島市立図書館の書庫は現在も移動書架が倒れたままで、約9万冊の本が取り出せない状態となっている。また、約15万5,000冊あった蔵書のうちある程度は除籍するが、今後も所蔵していく本を保管する場所についてはまだ決まっておらず、今後の課題として残っている。

 

5. 最後に

 地震はいつなんどきどこで起こるかわからない。もしもに備えることが大切である。図書館職員は、図書館の仕事以外にも、自治体職員としての市民への支援もしなければならないことを考えておく必要がある。

 また、県内の公共図書館、大学図書館などの図書館ネットワークはもちろん、県外の図書館とのネットワークも密にして、有事の際には互いに協力し合える関係を作ることが大切であろう。

 

(1)石川県危機対策課. 1 令和6年能登半島地震による人的・建物被害の状況について【第181報 令和6年12月27日16時00分現在】.
https://www.pref.ishikawa.lg.jp/saigai/documents/higaihou_181_1227_1600.pdf, (参照 2025-01-05).

(2)第110回全国図書館大会長崎大会.
https://www.110th-library.com/, (参照 2025-01-05).

(3)“図書館災害対策委員会”. JLA.
https://www.jla.or.jp/committees/tabid/600/Default.aspx, (参照 2025-01-05). “令和6(2024)年能登半島地震 関連情報”. JLA.
https://www.jla.or.jp/committees///tabid/1058/Default.aspx, (参照 2025-01-05).

(4)輪島市図書館広々仮設で再開. 北陸中日新聞. 2024, 2024年12月19日朝刊, p. 1.
北陸朝日放送. “輪島市立図書館 商業施設で再出発”. YouTube. 2024-12-21.
https://www.youtube.com/watch?v=GCMMm_AMV1A, (参照 2025-01-05).

[受理:2025-02-07]

 


上田敬太郎. 震災後の図書館サービスの復旧と支援:能登半島地震及び豪雨の現場から. カレントアウェアネス. 2025, (363), CA2077, p. 2-3.
https://current.ndl.go.jp/ca2077
DOI:
https://doi.org/10.11501/14120731


Ueda Keitaro
Restoration and Support of Library Services in the Aftermath of the 2024 Noto Peninsula Earthquake and Heavy Rainfall