CA2026 – サービス案内としての大学図書館バーチャルツアー / 髙野和彰, 小野永貴

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カレントアウェアネス
No.353 2022年09月20日

 

CA2026

 

サービス案内としての大学図書館バーチャルツアー

日本大学芸術学部文芸学科:髙野和彰(たかのかずあき)
筑波大学図書館情報メディア系:小野永貴(おのはるき)

 

1. はじめに

 2020年初頭より、新型コロナウイルス感染症の影響により多数の図書館が一時的閉館を余儀なくされ、再開後もサービスを縮小せざるを得ないなど、多くの利用制限が生じた。このような制限のある状況下でも、いかに利用者へのサービス提供を継続し、図書館の持つ社会的機能を維持し続けるかということが、検討されてきた。実際に各地の図書館では、郵送貸出・宅配貸出や遠隔レファレンス、司書による読み聞かせ動画の配信といった、代替サービスの取り組みが迅速に行われ、機能的な補完が目指された。さらに、館外からでも図書館空間を体感できる「バーチャルツアー」のコンテンツを開発・公開する大学図書館も複数登場した。

 本稿では、このバーチャルツアーの公開事例を概観しつつ、その形態や特性を整理する。そして、大学図書館におけるサービス案内や利用者教育としての観点から、これらのコンテンツの課題や今後の展望を述べる。

 

2. 大学図書館のバーチャルツアーの現状と傾向

 「バーチャルツアー」およびそれに類する呼称で展開されている図書館サービスは、内容の定義が一律ではなく、館によって多様な形態が存在する。2022年7月時点で公開されている事例を大別すると、主に3つの類型が確認できる。以下にそれぞれの代表的な事例と特性を記述する。

①図書館の外観や内観・書架、サービス内容を画像やスライドにまとめたものを「バーチャルツアー」として掲載する形態

 この形態は、館内の各種サービスが行われる場所を静止画で撮影して、図書館ウェブサイト上における利用案内の一環として公開するものであり、例えば「東京大学柏図書館バーチャルツアー」(1)が挙げられる。図書館のサービス区分ごとに仕分けて解説するのではなく、来館者が入館して館内を進む順序に沿って掲載されており、館内を歩いての施設見学を写真と文字で疑似的に再現しているといえる。高度な知識や技術を必要とせず、比較的低予算で作成が可能である。

②図書館の外観や内観・書架、サービス内容を動画として撮影し配信する形態(360度映像を含む)

 デジタルネイティブを筆頭とした若年層の学生利用者に焦点を当てると、日常的にリッチなコンテンツに触れる機会が多いことに鑑み、大学図書館も動画による情報発信を行うケースが増加している。2Dの動画に音声案内を加えたコンテンツはコロナ禍以前から多数制作されており、例えば「同志社大学今出川図書館バーチャルツアー」(2)は、各階の利用案内を順番に動画で閲覧できる。

 一方で、コロナ禍以降に急増したものが、全天球カメラを用いて撮影された360度映像によるコンテンツである。この形態は、館内各所のサービスを紹介する動画が再生される点では同様であるが、マウスのドラッグやスマートフォンを傾けることによって、どの方向を見るか視聴者が決めることができる。職員や学生がガイド役を務めて、館内各所を移動しながら案内する動画も多く、仮想的に館内ツアーへ参加しているような没入感を得られる。360度映像の投稿に標準で対応しているYouTube上にこの形態のコンテンツを公開する図書館が多数あり、例えば東北大学(3)やお茶の水女子大学(4)、東洋学園大学(5)などが挙げられる。この形態は、大学のキャンパス全体に対するバーチャルツアーの一環として、図書館のコンテンツも作成されているケースが多数見受けられる。よって、詳細な利用案内というより広報の機能が主眼となり、短時間の動画となっている場合が多い。

③全天球カメラにて図書館の内観・書架を撮影し、アクセスする側が自らの操作で動き回ることが可能なウォークスルー型VRコンテンツとして公開する形態

 これは、Googleストリートビューのように、360度全方向を撮影した静止画がマップ上でリンクづけられ、利用者のクリック操作により移動しながら見ることができる形態である。先の②の形態は、あらかじめ撮影された動画を受動的に閲覧する形であるのに対し、この形態は、利用者がブラウザ上で能動的に操作して館内や書架を巡ることが可能である。自らの意志での館内回遊を疑似体験でき、館内の空間配置のイメージを共有する機能が期待され、デジタルネイティブの世代にも直観的に印象付ける効果が高いと予想される。ただし、この形態は無償で利用できる簡便なプラットフォームが数少なく、館により採用している仕組みが異なるため、コンテンツの粒度や操作性に差異が見受けられる。

 例えば、島根大学附属図書館(6)や筑波大学附属図書館(7)は、オープンソースの仮想現実(VR)構築フレームワークA-Frameを用いて、館内の主要スポットに立って全方位を見渡せるコンテンツを、ウェブサイト上で公開している。一方で、民間企業の高機能な外部プラットフォームを用いて構築・公開する図書館も多い。例えば、神奈川工科大学附属図書館(8)のコンテンツは、細かな間隔で撮影された画像をシームレスに連続表示でき、自らの意志で館内を歩き回る行動を疑似体験できる。また、これらのプラットフォームは関連する画像や動画をポップアップ表示できるように埋め込んだり、文章によるアノテーションを付与する機能もある。例えば、慶應義塾大学日吉図書館(9)のコンテンツは、クリックで表示される詳細説明のテキストが各所に配置されているほか、入館ゲートなど挙動に戸惑いが生じやすい箇所は、利用方法のデモンストレーション動画が埋め込まれている。さらに、多くの大学は無人状態の館内を撮影しているが、立教大学(10)のように、実際に学生が利用している光景を撮影して、どのように利用されているのかをイメージさせる点に重点を置いたパターンも存在する。そのほか、これらのプラットフォームの多くはVRゴーグルなどのデバイスにも対応しており、高い臨場感でブラウジングすることも可能となっている。

 

3. サービス案内および利用者教育の観点からの課題・展望

 以上の通り、いずれの類型をとっても、「図書館利用教育ガイドライン」(11)の「領域2:サービス案内」で示された、各種サービスの存在や配置の理解を図るという目標に合致した仮想的機能を有しているといえる。よって、コロナ禍による制限を代替する臨時的コンテンツとしては、高い価値を発揮するだろう。

 一方で、これらが今後の大学図書館界における標準的な常設サービスとなり得るかどうかという観点でみると、いくつかの課題が浮かび上がる。特に③の形態は、専用機材の調達や固有の撮影ノウハウの習得、および民間プラットフォームの運用を要し、公開・更新に伴うコストが大きい(12)ため、より広範な大学図書館の機能に対する適合性や得られる効果の検証が不可欠である。

 VRコンテンツの常設サービスとしての定着を図るのであれば、館内施設や利用手順の案内といったガイダンス機能だけでなく、情報探索や資料発見の機会まで対応する形へ発展させることが有効と考えられる。なぜなら、ガイダンス機能は初年次学生を中心とする初回利用者には必須の機能となるが、図書館利用法を一度習得してしまえば重要度は下がり、その後日常的に繰り返し利用される可能性は低いためである。大学図書館が持続的に整備するコンテンツとして位置づけるには、日常的な教育・研究に資する継続的な利用へいかに貢献できるか、という視点も不可欠であろう。

 この視点から既存の事例をみると、課題の一つとして、いずれの事例も現状では、解像度や撮影位置の条件により、書架に配架されている資料の背表紙までは認識困難な場合が多く、書名や著者名といった書誌事項を均一に視認できないことが挙げられる。また、書架から資料を引き出すという機能は実装されないため、実際に表紙や目次を参照するといった現実のブラウジングと同等の行為は再現されない(13)。さらに、画像・動画に写る資料は撮影時点でのスナップショットとなるため、撮影時に貸出中であったり撮影後に受入した資料などは、存在しない扱いとなってしまう。これらの問題が解決されない限り、特定資料の探索向上や新着資料の偶発的な発見といった機能は、十分に発揮できない。

 このような課題に対し、資料探索の機能を実験的に取り入れた事例として、東京学芸大学附属図書館による「学芸大3D書架」がある。これは、「学芸大デジタル書架ギャラリー」(E2306参照)に付随して開発されたコンテンツだが、2021年9月にアップデートが施され、OPACの検索結果ページと相互に行き来できるようになった(14)。一部の限られた書架のみが対象ではあるが、VRコンテンツと目録機能が連動した稀少な実践であり、図書館のバーチャルツアーが持つ将来的な拡張可能性を展望できる示唆的な事例である。

 

4. おわりに

 現実のブラウジングを経験している利用者にとっては、現実の行為が代替できない場合、もしくはバーチャルならではの効果・経験が見込めない場合、そのサービスの継続的な利用は期待できない。現実問題として、実際に物理的な資料を手に取ることと同等の操作ができない以上、必然的にバーチャルならではの効果・経験を重視する必要があるが、そのような観点での議論が図書館分野では不足している(15)。これらのコンテンツが大学図書館の常設サービスとして定着するかどうか、アフターコロナの時代を見据えた検討や評価が望まれる(16)

 

(1)“柏図書館バーチャルツアー”. 東京大学附属図書館.
https://www.lib.u-tokyo.ac.jp/ja/library/kashiwa/opencampus2020/tour/entrance, (参照 2022-07-08).

(2)“今出川図書館 バーチャルツアー”. 同志社大学.
http://library-vt.doshisha.ac.jp/index.html, (参照 2022-07-08).

(3)“360°カメラで見る東北大学 ―附属図書館本館”. YouTube. 2022-05-17.
https://www.youtube.com/watch?v=GzQMz8z2cVQ, (参照 2022-07-08).

(4)“お茶の水女子大学VRキャンパスツアー#7【附属図書館】”. YouTube. 2020-09-05.
https://www.youtube.com/watch?v=Ufhc8ql-vwI, (参照 2022-07-08).

(5) “東洋学園大学 360°VRキャンパスツアー -図書館-”. YouTube. 2021-03-30.
https://www.youtube.com/watch?v=BLB9UUS9cdM, (参照 2022-07-08).

(6)VR図書館ツアートップページ.
https://da.lib.shimane-u.ac.jp/virtual_tour/top_j.html, (参照 2022-07-08).

(7)“中央図書館の360°VR画像を公開しました”. 筑波大学附属図書館.
https://www.tulips.tsukuba.ac.jp/lib/ja/information/20210316, (参照 2022-07-08).

(8)“神奈川工科大学附属図書館 3Dビュー・VRマップ”. 神奈川工科大学附属図書館.
https://www-std01.ufinity.jp/kaitlibrary/?page_id=9484, (参照 2022-07-08).

(9)“日吉図書館バーチャルツアー”. 慶應義塾大学メディアセンター.
https://www.lib.keio.ac.jp/hiyoshi/about/hiyoshiVR.html, (参照 2022-07-08).

(10)“立教大学図書館VRプロジェクト”. 立教大学.
https://www.rikkyo.ac.jp/campuslife/support/certification/librarian/project.html, (参照 2022-07-08).

(11)日本図書館協会図書館利用教育委員会. 図書館利用教育ガイドライン 合冊版. 日本図書館協会, 2001, p. 40.

(12)近年、比較的安価な全天球カメラデバイスが流通するようになり、例えば「RICOH THETA」や「Insta360」シリーズの製品は、エントリークラスの性能であれば10万円以下の価格で調達可能である。しかしながら、撮影の作業や撮影後の編集に要する労力は大きく、従来の静止画・2D動画によるコンテンツの作成と比べると多大な人的コストがかかるといえる。

(13)この点は、電子書籍版の契約がある資料であれば、電子書籍ビューアーを埋め込む・リンクするといった形で近い体験を再現可能であるが、和書の電子版の配信状況に鑑みると、現実的な実用性を担保することは当面困難であろう。
安形輝, 上田修一. 日本における電子書籍化の現状. 日本図書館情報学会誌. 2019, vol. 65, no. 2, p. 84–96.

(14)“デジタル書架ギャラリーアップデート【Möbius Open Library Report Vol.13】”. note. 2021-09-02.
https://note.com/mol_expg/n/na0f1321cb422, (参照 2022-07-08).

(15)なお、博物館の分野ではバーチャルミュージアム構築の実践は以前より度々行われており、その利用効果や現実世界での鑑賞に与える影響などの研究も存在している。
山本順司, 徳永 彩未, 小牧寿里. 仮想現実展示が物理現実展示に対する観覧意欲に及ぼす影響. 博物館学雑誌. 2021, vol. 47, no. 1, p. 57-69.

(16)筆者らはこれらの点を調査すべく、科学研究費助成事業にて「360度映像によるバーチャル書架回遊の効果検証―コロナ時代の図書館利用能力形成へ」と題した研究を開始している。(基盤研究(C)課題番号21K12597)
“360度映像によるバーチャル書架回遊の効果検証―コロナ時代の図書館利用能力形成へ”. KAKEN.
https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-21K12597/, (参照 2022-07-08).

 

[受理:2022-08-10]

 


髙野和彰, 小野永貴. サービス案内としての大学図書館バーチャルツアー. カレントアウェアネス. 2022, (353), CA2026, p. 12-14
https://current.ndl.go.jp/ca2026
DOI:
https://doi.org/10.11501/12345004

Takano Kazuaki
Ono Haruki
Virtual Tour of the University Library and Introduction to Services