CA1986 – 著作権リテラシーを育成する大学図書館 / 渡邊由紀子

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カレントアウェアネス
No.346 2020年12月20日

 

CA1986

 

著作権リテラシーを育成する大学図書館

九州大学附属図書館:渡邊由紀子(わたなべゆきこ)

 

 さまざまな情報がデジタル化されてインターネット上に氾濫するようになり、以前にも増して情報の提供者と利用者双方に著作権に関する知識が求められるようになってきた。本稿では、そのようなデジタル時代において、大学図書館が学生の著作権リテラシー(copyright literacy)育成にどのように貢献できるのかを、米国の大学図書館による著作権教育に焦点を当てながら考えてみたい。

 

1. 図書館による著作権教育への関心の高まり

 2010年代後半から、図書館と著作権教育に関するオープンアクセス査読誌(1)の創刊、図書館による著作権教育に関する単行本(2)(3)(4)の相次ぐ刊行など、北米の図書館界では著作権サービスへの関心が高まっている。この動向は、次の国際的な潮流とも連動している。

 国際図書館連盟(IFLA)は、2017年の年次大会(ポーランド・ヴロツワフ)中に開催された著作権教育に関するワークショップ(5)での議論を受けて、翌2018年に「著作権教育及び著作権リテラシーに関する声明」(6)を発表した。この声明は、図書館は利用者の情報へのアクセスを保証し学習を可能にするために、法律によって提供されるすべての可能性を利用すべきであること、また、図書館員が可能な限り最も効果的な方法で、その機能と義務を果たし、同僚や利用者を支援するには、著作権リテラシーを習得する必要があることを示した。「著作権リテラシー」とは、著作権で保護された資料の利用方法について、広い見識に基づいた決定を下すことができる十分な著作権の知識であり、「著作権教育」は、その著作権リテラシーを涵養し更新するプロセスと定義される。そして、図書館に対し、すべての図書館員が著作権法の基礎的知識を持つことを保証するとともに専門のコピーライトライブラリアン(copyright librarian)を任命することを検討するよう提言した。

 

2. 著作権サービスの担当者と担当部署

 大学図書館において著作権教育への関心が高まる背景には、学術論文や他の知的財産に係る著作権に関する問題が増加し複雑化する一方で、大学の教員や学生の著作権知識が不十分なことに対する懸念がある。その状況に対し、いくつかの大学図書館では、著作権に関するより具体的な情報を提供するために、コピーライトライブラリアンという新しい専門的な役職やコピーライトオフィス(copyright office)と呼ばれる新たな部署を設置するようになった(7)

 2006年8月から2013年4月までの期間に米国図書館協会(ALA)のJobLISTに掲載された求人広告2,799件のデータを分析したカウォーヤ(Dick Kawooya)ら(8)によると、役職名や本文に「著作権」と記載した求人が264件あり、著作権について言及している役職は2006年の9%から2011年の13%へと着実に増加していた。この結果から、コピーライトライブラリアンあるいは著作権に関する能力は、大学図書館の現在および将来のニーズに対する必須条件であると述べている。

 フェルナンデス=モリーナ(Juan-Carlos Fernández-Molina)ら(9)は、世界大学学術ランキングの上位100大学からコピーライトまたは学術コミュニケーションオフィス(以下「コピーライトオフィス」)を持つ大学図書館24館(うち19館は米国)を選び、各図書館のウェブサイトに掲載された提供サービスと担当者のプロフィールを調査した。その結果、大学図書館にコピーライトオフィスが設置されてから数年しか経っていないにもかかわらず、すでに成熟期を迎えていること、それらのオフィスが提供するサービスは、学術コミュニケーションに関連するすべてのものを包含する方向に進化し、その対象者を教員や研究者から、学生、執行部、ティーチング・アシスタントを含む大学コミュニティ全体へと拡大していることを明らかにした。また、北米や豪州で大成功を収めているコピーライトオフィスが、利用者のニーズが類似する他の地域ではほとんど設置されていないため、世界中で同様の部署が必須になると指摘した。

 著作権サービスの領域と焦点を特定するために、シュミット(LeEtta Schmidt)(10)は、カーネギー高等教育機関分類で最上級のR1(最高度の研究活動)と評価された115大学の図書館ウェブサイトを調査した。その調査と先行研究の結果に基づき、米国の研究大学図書館において、著作権に関する情報サービスが図書館の標準的な活動の一部となっていることは明白だと述べている。また、この調査から次のことが判明した。著作権サービスを担当する図書館員は、多くの場合、学術コミュニケーション担当者またはコピーライトライブラリアンのいずれかであり、職務の大部分は著作権教育に向けられている。その著作権教育は所属機関のすべての人々を対象とし、教職員と学生に共通して関心のあるトピックに取り組んでいる。これらのトピックは、著作権と再利用の基礎、授業での著作権で保護されたコンテンツの利用に関する情報、著者向けの著作権問題に関する情報の3領域に分類できる。

 

3. 米国の大学図書館による著作権教育の実践例

 本節では、前述のコピーライトオフィスを持つ24大学およびR1大学の両方に含まれるイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)の図書館を例に、米国の大学図書館による著作権サービスと初年次教育に留まらない著作権教育について紹介する。

 UIUCの図書館ウェブサイト上で、著作権サービスは研究支援の「学術コミュニケーションと出版」の中に位置付けられている(11)。「著作権」の見出しの下に掲載されている項目は、著作権の概要、著作権サービス(コピーライトライブラリアンの紹介、サービス範囲、免責事項)、著作権に関する情報源とガイド、著作権講習会と講義、ポッドキャストの5項目である。このうち著作権講習会と講義で扱う主題は、著作権の基本原則、著者のための著作権と出版、教室での著作権、フェアユースの権利、著作権と視覚芸術、著作権と工芸、著作権と建築、著作権とデータ、著作権とソーシャルメディア・利用規約と多岐にわたる。コピーライトライブラリアンは、これらの主題と関連トピックに関するさまざまな長さのゲスト講義やワークショップを提供している。

 2015年に米国大学・研究図書館協会(ACRL)が策定した「高等教育のための情報リテラシーの枠組み」(CA1870参照)(12)は、その6コンセプトの一つ「情報は価値を有する」において、情報が多様な価値を持つことを前提に、情報の作成者および利用者に対し、学術コミュニティに参加する際の権利と責任を理解することを求めている。UIUC図書館のコピーライトライブラリアンであるベンソン(Sara Benson)は、このコンセプトに基づき、学生を含む研究者向けに、学術出版の実際の場面で著者としての自身の著作権について学ぶ講習会をデザインしている(13)

 また、同館は学生向けに「学士課程学生による研究(undergraduate research)論文誌」を題材とした著作権教育も提供している。米国の研究大学では、近年の学士課程教育改革の流れの中で、「学士課程学生による研究」の促進が大学全体の重要事項に位置付けられ、大学図書館はそれらの研究に対する支援を重視するようになった(14)。「学士課程学生による研究論文誌(undergraduate research journal)」は、学生の研究を促進する手段の一つであり、大学図書館は、この研究論文誌に対して、機関リポジトリ等の出版手段の提供、著作権やオープンアクセス等の雑誌運営に必要な情報の提供、論文誌創刊への関与、編集委員会への参加などによる支援を行っている(15)。そうした支援の展開には、ACRLが2013年に発表したレポート「学術コミュニケーションと情報リテラシーの交点」(16)で、図書館員の新たな役割として、学士課程学生による研究論文誌に関わる人々を対象にした著作権を含む情報リテラシー教育の重要性が強調されたことも影響している。

 研究論文誌の論文を執筆する場合、学生は知識の消費者であり生産者でもあるため、著作物を作成し再利用する際の著作権の管理と、出版物の著者としての権利の管理の両方に責任を持つことになる。そこで、UIUC図書館は、学士課程学生の研究論文誌に初めて論文を掲載する準備をしている学生のために、「学士課程学生の研究論文誌での論文発表について知っておくべきことすべて」と題した、著作権と著者の権利に関する90分間のワークショップを新たに考案した(17)。そのプログラムを見ると、学生は論文の生産・管理・提供の流れに沿って、論文で著作物を使用する際にフェアユースを適用する方法、論文掲載時の著者同意書の読み方、自身の論文が将来の研究に与える影響の順に、事例研究、議論、理解度チェックを繰り返しながら、知的財産と著作権について学ぶ構成となっている。

 

4. 日本の大学図書館における著作権サービス

 先述の調査結果や実践例から考えると、日本の大学図書館による著作権サービスには発展の余地があると言えるだろう。たとえば、日本と中国の大学図書館57館のウェブサイトに掲載された著作権に関する情報を比較分析したワン(Ying Wang)ら(18)は、日本では中国よりも著作権に言及することが多く、著作権情報の提供に積極的であるものの、著作権情報の可視性や図書館が行っている著作権活動の点で不十分であると指摘した。その上で、日本の図書館に対し、図書館ウェブサイト上の著作権情報をより可視化し、著作権教育を日常的な活動にして、コピーライトライブラリアンのポストや著作権担当部署を設けるべきであると提言している。

 他方、多くの国で図書館員は著作権に関する知識が不足していると感じており、著作権教育者の役割を担うことに自信を持てずにいるとの報告がある(19)。日本の大学図書館においても、大学の構成員、特に学生を対象とした著作権教育に貢献するためには、まず図書館員自身の著作権リテラシー向上が重要となる。世界的な潮流の中で、豊富な先行事例を参考に、学術コミュニケーション支援と情報リテラシー教育の交点に著作権教育を位置付けて、著作権サービスの担当者と担当部署を明確化しながら、著作権教育により深く関与することが大学図書館に期待されている。

 

(1) Journal of Copyright in Education and Librarianship. University of Kansas Libraries, 2016-.
https://www.jcel-pub.org/index, (accessed 2020-10-01).

(2) Frederiksen, Linda. The Copyright Librarian: A Practical Handbook. Chandos Publishing, 2016, 134p. (Chandos information professional series).

(3) Benson, Sara R. ed. Copyright Conversations: Rights Literacy in a Digital World. ACRL, 2019, 401p.

(4) Smith, Kevin L.; Ellis, Erin L. ed. Coaching Copyright. ALA Editions, 2020, 188p.

(5) “Models for Copyright Education in Information Literacy Programs”. University of Wisconsin-Milwaukee.
https://uwm.edu/informationstudies/research/partnerships/models-for-copyright-education/, (accessed 2020-10-01).
なお,下シレジア大学で開催された同ワークショップの発表をもとにした論文の特集号が2019年に刊行された。
Journal of Copyright in Education and Librarianship. IFLA World Library and Information Congress “Models for Copyright Education in Information Literacy Programs” Special Issue. 2019, 3(2).
https://www.jcel-pub.org/jcel/issue/view/1425, (accessed 2020-10-01).

(6) IFLA Copyright and other Legal Matters Advisory Committee. “IFLA Statement on Copyright Education and Copyright Literacy (2018)”. IFLA.
https://www.ifla.org/publications/node/67342, (accessed 2020-10-01).

(7) Fernández-Molina, Juan-Carlos; Martinez-Ávila, Daniel; Silva, Eduardo Graziosi. University copyright/scholarly communication offices: Analysis of their services and staff profile. The Journal of Academic Librarianship. 2020, 46(2), 102133.
https://doi.org/10.1016/j.acalib.2020.102133, (accessed 2020-10-01).

(8) Kawooya, Dick; Veverka, Amber; Lipinski, Tomas. The copyright librarian: A study of advertising trends for the period 2006-2013. The Journal of Academic Librarianship. 2015, 41(3), p. 341-349.
https://doi.org/10.1016/j.acalib.2015.02.011, (accessed 2020-10-01).

(9) Fernández-Molina. op. cit.

(10) Schmidt, LeEtta. Copyright educational services and information in academic libraries. Public Services Quarterly. 2019, 15(4), p. 283-299.

(11) University of Illinois at Urbana-Champaign, University Library. “Scholarly Communication and Publishing, Copyright Services”. University of Illinois at Urbana-Champaign.
https://www.library.illinois.edu/scp/copyright-overview/, (accessed 2020-10-01).

(12) ACRL. “Framework for Information Literacy for Higher Education”.
http://www.ala.org/acrl/standards/ilframework, (accessed 2020-10-01).

(13) Benson, Sara R. “Copyright for scholars: Informing our academic publishing practices”. Framing Information Literacy: Teaching Grounded in Theory, Pedagogy, and Practice, vol. 2. Information Has Value. Oberlies, Mary K.; Mattson, Janna. ed. ACRL, 2018, p. 159-170. (ACRL publications in librarianship, no. 73).

(14) 新見槙子. 大学図書館が実施する「学士課程学生による研究」に対する支援の実態と特徴 : 北米の研究大学図書館を対象とする質問紙調査とインタビュー調査から. Library and Information Science. 2017, (78), p. 111-135.
http://lis.mslis.jp/article/LIS078111, (参照 2020-10-01).

(15) 新見槙子. 学士課程学生の研究論文誌に対する大学図書館の支援 : 北米の事例から. 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集. 2019, p. 9-12.
http://mslis.jp/am2019yoko/03_niimi.pdf, (参照 2020-10-01).

(16) ACRL. Intersections of Scholarly Communication and Information Literacy: Creating Strategic Collaborations for a Changing Academic Environment. ACRL, 2013, 26p.
https://acrl.ala.org/intersections, (accessed 2020-10-01).

(17) Hensley, Merinda Kaye. “Undergraduate research journals as pedagogy”. Coaching Copyright. Smith, Kevin L.; Ellis, Erin L. ed. ALA Editions, 2020, p. 105-120.

(18) Wang, Y.; Yang, X. Libraries’ positions on copyright: A comparative analysis between Japan and China. Journal of Librarianship and Information Science. 2015, 47(3), p. 216-225.

(19) Secker, Jane; Morrison, Chris; Nilsson, Inga-Lill. Copyright literacy and the role of librarians as educators and advocates. Journal of Copyright in Education and Librarianship. 2019, 3(2), p. 1-19.
https://doi.org/10.17161/jcel.v3i2.6927, (accessed 2020-10-01).

 

[受理:2020-11-13]

 


渡邊由紀子. 著作権リテラシーを育成する大学図書館. カレントアウェアネス. 2020, (346), CA1986, p. 2-4.
https://current.ndl.go.jp/ca1986
DOI:
https://doi.org/10.11501/11596732

Watanabe Yukiko
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