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カレントアウェアネス
No.328 2016年6月20日
CA1872
国際図書館資料識別子(ILII)
国立情報学研究所名誉教授:宮澤 彰(みやざわ あきら)
1.はじめに
現在,国際標準化機構第46専門委員会(ISO/TC46)の,識別と記述分科会(SC9)で,ISO 20247 国際図書館資料識別子(International Library Item Identifier: ILII)の標準化が進んでいる。現段階は2016年7月16日締め切りのCD(Committee Draft: 委員会原案)投票(1)にかけられているところである。
この標準は,成立すればISO/TC46分野で日本から提案して国際標準となる最初のものである(E1565参照)。2014年8月に提案(New Work Item Proporsal: NWIP)が3か月投票にかけられ,11月に承認されたもので,2015年の9月に作業原案の確定が終わっている。WGの主査とこの標準開発のプロジェクト・リーダは筆者がつとめている。
実は,TC46での日本からの提案としては,これは2件目である。最初のものは,2012年にTC46/SC4(技術的相互運用性)に提案したUHF帯域の図書館用RFIDタグのユニーク識別子に関するものであった(E1300,E1451参照)が,この提案は,結局英国からの提案とあわせて一つの技術仕様書(Technical specification: TS)28560-4(2)として実現することになったため,日本発で国際標準となるのは,このILIIが初めてのものとなる予定である。
2.ISO 20247の内容
以下の内容紹介は,CDに基づくもので,今後の審議過程で若干変更される可能性はあるが,大きく変わることはない。
端的に言えば,CD20247は,国際的な個別資料の識別子として,
ISIL.ローカル資料識別子
という形式を使うことにしようという標準である。ISILはISO15511で定められた図書館及び関連組織のための国際標準識別子 (CA1715, CA1757参照) (3)で,図書館や関連組織につけられた,国際的な識別子である。たとえば国立国会図書館は,“JP-1000001”というISILで表される。ISILの後ろには記号FULL STOP[.]をおく。ローカル資料識別子は,その図書館で個別資料につけた識別子である。この識別子が指示するものは,そのISILで識別される組織が,そのローカル資料識別子で指示している個別資料である。ISILは,使用文字が英数字と3種類の記号SOLIDUS[/],HYPHEN-MINUS[-],COLON[:]となっているので,ISILの後に付すFULL STOP文字が,ローカル資料識別子との区切りとなる。ローカル資料識別子は,英数字に限らず記号を含めてISO 10646 国際符号化文字集合(UCS)(4)のすべての文字が使用可能で,長さにも制限はない。
CD20247では,もう一つの形式の識別子も認めている。今のところほとんど使われていない標準のISO27730 国際標準コレクション識別子(ISCI)(5)を使用する場合の形式である。この形式ではILIIは,
ISCI.ローカル資料識別子
となる。ISCIは,“[ISIL]コレクション識別文字列”という形式である。この後に記号FULL STOP[.]で区切って,そのコレクション内でのローカル資料識別子をつなぐ形式である。ISCIを使用し,コレクションごとに独立の資料識別体系を使用している図書館で,通常の形式では重複がおこるような場合にこちらの形式で重複を回避できる。
この標準の適用範囲は,ISILの適用範囲の組織がそのサービスのために識別して管理しているすべての資料となっている。ただし,例えば電子ジャーナルで,図書館がアクセス権のみ保持しているというものは除外される。この制限以外は,どのような資料にどのように識別子をつけるかの管理は,すべて所蔵組織の責任で自由に行える。たとえば、5枚組のCDのような資料など,個別でも全体でもサービス対象になりうるような場合にどのように識別子を付与するかも,所蔵組織の裁量に任される。冊子資料だけでなく、デジタル資料も対象になり得る。また,1つの所蔵組織に保持されている限りは,識別子を変えてはならないこと,資料が他の所蔵組織に移された場合は,移管先の組織が新たに識別子を与えることも規定されている。したがって,この識別子は,資料の物理的な同一性ではなく,図書館等が管理する単位としての同一性を保証するものである。
3. ILIIの意義
ILIIは,一見大した意義がないように思えるかもしれない。ISILとローカルな資料識別子を組み合わせただけであり,2つの識別子を組み合わせれば,同じ機能を果たすことができるではないかと。確かに機能的には同等といえるが,ソフトウェアでの扱いは,格段に楽になる。また,組み合わせたときの表記方法を標準化することだけでも,十分意義はある。たとえば,年月日を組み合わせれば日付を表現することができるが,16/06/02や02/06/16などが使われて混乱が起こるため,国際標準(ISO 8601「日付と時刻の表記」(6))が必要になった。ILIIも表記の統一という点でISO 8601と同様の意義を持つ。さらに,図書館の資料がひとつの図書館にしばられるのではなく,より広く利用されるものとして位置づけられるというサービスの方向性を顕在化させるという意義もある。この点については,この標準がどのように利用されるかを見た方が理解されるであろう。
4. ILIIの利用
ILIIが利用されるのは,資料がその所蔵組織の範囲を超えて利用される局面である。「範囲を超えた利用」というのは,物理的な資料の利用に限らない。たとえば,資料をデジタル化して提供する場合に,ポータルサイトの構築等も含めて,そのデジタル化した資料を他の機関や個人が再利用する場合もこれにあたる。デジタルアーカイブで,同一資料から,たとえば解像度の異なる,複数のリソースを作成することはしばしばある。これらのリソースの原資料の同一性を保証するのは,書誌的な事項からだけではできない。このような環境でデジタル化されたリソースに,原資料のILIIを対応させておくことは,再利用にとって有効である。
資料が物理的に所蔵館の範囲を超えて利用される例としては,RFIDタグがあげられる。RFIDタグを図書に添付して貸出や蔵書管理に利用するシステムは,すでにかなり普及している。図書館で使われるRFIDタグには,周波数帯域がHF帯域のものと,UHF帯域のものがある。製造時に識別番号をもっているHF帯域のRFIDタグとは異なり,UHF帯域のRFIDタグでは,図書館側で識別子をつけなければならない。この識別子が他館の蔵書と重ならないようにすることは重要で,そのための識別子としてILIIを使用する方法が強く勧められている。この方法は,図書館RFIDシステムのタグ使用法を定めたISO/TS 28560-4(7)とも互換性がある。また,図書館相互貸借における現物貸借を処理するシステムで,貸借物のILIIを使用することにより処理システムも個別館システムとのインタフェースも単純に設計できる。日本では,あまり例がないが複数の図書館が保存書庫を共有するシェアード・プリント (CA1819参照)の管理システムでの資料識別のためにも使用できる。これらの利用は,いずれも単独の組織を超えて資料が利用される場合である。ILIIはそのような環境,とくに図書館との共働,あるいは図書館と他の組織との共働といった局面で有効に働くものであり,ILIIがこのような共働を促進することが期待される。
5.今後の予定
ISOの手続きでは,CD投票が通ると,そのコメントを反映させて,DIS(照会原案)投票(5か月投票)を行い,最終的な編集作業を行って,発行段階に至る。投票や議論の結果によっては,投票を再度実施したり,最終国際規格案を作成して投票したりすることになるが,ILIIの標準案は単純なもののため議論されることは多くないと考えており,2017年の後半には発行前段階(標準の確定)に進めるものと予想している。
6. おわりに
この国際標準の開発は,TC46国内委員会が,デジタルアーカイブの利活用促進のための国際標準開発の一環として進めているものである。デジタルアーカイブは,国の施策としてもその利活用促進がうたわれており(8),この標準が成立した後も,日本からデジタルアーカイブに関して積極的に国際標準を提案していくことが望まれている。
(1)ISOの手続き上でのCD投票の位置づけについては下記参照。
宮澤彰. 標準化の世界. 情報の科学と技術. 2015, 65(8), p. 328-334.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009975750, (参照2016-05-17).
(2)ISO/TS 28560-4:2014. Information and documentation — RFID in libraries — Part 4: Encoding of data elements based on rules from ISO/IEC 15962 in an RFID tag with partitioned memory.
https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:ts:28560:-4:ed-1:v1:en, (accessed 2016-05-19).
(3)“図書館及び関連組織のための国際標準識別子(ISIL)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/isil/index.html, (参照 2016-05-17).
(4)ISO/IEC 10646:2014. Information technology — Universal Coded Character Set (UCS).
http://standards.iso.org/ittf/PubliclyAvailableStandards/index.html, (accessed 2016-05-19).
(5)ISO27730:2012. Information and documentation — International standard collection identifier (ISCI).
https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:27730:ed-1:v1:en, (accessed 2016-05-19).
(6)ISO 8601:2004. Data elements and interchange formats — Information interchange — Representation of dates and times.
https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:8601:ed-3:v1:en, (accessed 2016-05-19).
(7)ISO/TS 28560-4:2014. Information and documentation — RFID in libraries — Part 4: Encoding of data elements based on rules from ISO/IEC 15962 in an RFID tag with partitioned memory.
https://www.iso.org/obp/ui/#iso:std:iso:ts:28560:-4:ed-1:v1:en, (accessed 2016-05-19).
(8)知的財産戦略本部.知的財産推進計画2016.p. 46-51.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku20160509.pdf, (参照 2016-05-19).
[受理:2016-05-19]
宮澤彰. 国際図書館資料識別子(ILII). カレントアウェアネス. 2016, (328), CA1872, p. 2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1872
DOI:
http://doi.org/10.11501/10020597
Miyazawa Akira.
International Library Item Identifier.