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カレントアウェアネス
No.310 2011年12月20日
CA1757
日本におけるISIL(アイシル)(1)の導入
はじめに
電話、PC、書籍、お札、人……私たちが意識しているかどうかに関わらず、世の中にあるさまざまな存在にIDが付けられている。ここでは、「世界中のすべての図書館にIDを付ける」目的で始まった「図書館及び関連組織のための国際標準識別子」(International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations:ISIL)について、その概要・経緯を紹介し、日本におけるISILの導入と運用について説明する。
1. ISILの概要
全世界の図書館をはじめ、博物館・美術館、文書館等の機関に付与し、識別するための国際標準ID、それがISILである。
ISILは国際標準化機構(ISO)の標準規格ISO 15511として定められており、2011年10月末時点でドイツ、フランス、英国、イタリア、ロシア、米国等26か国が採用している。
ISO 15511:2011では「ISILは、既にあるシステムに与える影響を最小限にとどめつつ、図書館・文書館・ミュージアム及び関連組織を識別するために使われる、標準識別子のセット」(2)と位置づけられている。
ISILを導入する各国が既存の図書館コード等を流用できるよう配慮されていることから、ISILで定められている主なルールは、IDのフレームワークを規定する程度の緩やかなものとなっている(表1)。
表1 ISILの基本構成
プリフィクス | ‐ | 機関識別子 |
4文字以内 | 1文字 | 11文字以内 |
ISO3166-1国名コード (DK、JP等)/特定 機関コード(OCLC等) | 区切り | 大小英文字 数字 記号[/][-][:] |
- 全体は16文字以内の可変長コードで構成。
- 使える文字はISO/IEC 10646(UCS。JIS X 0221)の大小英文字、数字、記号3種。ただし、英文字の大小は同じ文字とみなす。
- 機関識別子(Unit Identifier:UI)は各国で決めてよい(ISO 3166-2の地理区分を含めることが推奨されている)。
- 機関種別及びUIで使用する文字は原則数字のみ。
- 機関種別は図書館を1、博物館・美術館を2、文書館を3、その他機関を9とする。
- 機関IDは000001から連番で付与する。機関の廃止等で欠番が出ても埋めず、常に新しい番号を付与する。
- 付与対象の名称変更や統廃合、設置自治体の合併等さまざまな変更が起こるたびにISILを振り直さなくて済むように、コード自体に複雑な意味を持たせず、なるべくシンプルなコード体系とする(よって、ISILで推奨されている「UIへ地理区分を含める」ことはしていない)。
- 機関種別の分類が複雑化したり、種別不適合がもとで「コードが決まらない」「例外措置の常態化」という事態になるのを避けるため、機関種別はごく大まかな枠組みに留める。また、複合文化施設や新たなジャンルの施設が今後展開されることを想定し、機関種別には余りを持たせておく。
- どんなID構成であっても付与対象の情報は別途管理しなければならない。そのために、ISILをキーとした「ISIL管理台帳」を別途作成し、機関名・住所・URLのような基本情報、地理区分などの属性情報等はすべてこの台帳の中で扱っている。頻繁に変更が発生するような項目をISILの体系と切り離すことで、ほとんどの情報変更を台帳の修正で済ませる。
- ISIL
- 機関名(英語表記、日本語表記、ヨミ)
- 所在地の郵便番号*
- 所在地住所 *
- 代表電話番号*
- 代表FAX番号*
- URL*
表2 ISILの例
IT-RM0267 | ローマ国立中央図書館(イタリア) |
AU-TS:RL | CSIRO森林業局(オーストラリア) |
DE-Tue120 | ドイツ‐アメリカ協会図書館(ドイツ) |
例えば、イタリアのローマにある国立中央図書館に付与されるISILは“IT-RM0267”となっている(表2)。プリフィクスの“IT”がイタリアの国名コード、UIの“RM”が図書館の所在地であるローマを表しており、“0267”は独自の番号である。
この他、ISILの登録や規格としての全体管理を行う国際登録機関(ISIL Registration Agency:RA)と、各国のUIの付与と管理を担う国内登録機関(ISIL National Allocation Agencies:NA)を置くことになっている。2011年10月末時点では、RAはデンマーク文化省に属する図書館・メディア庁(Styrelesen for Bibliotek og Medier)であり、日本のNAは国立国会図書館(NDL)が担当している。
2. ISILの経緯
ISILは「国際標準化機構第46専門委員会」(ISO/TC46)の「相互運用技術分科会」(SC4)で定められた規格である。1996年にイタリアから提案された当初は“International Library Code”(ILC)という名称だったが、検討段階で付与対象が図書館だけでなく関連機関にまで広げられた。2000年には、ISILの名称で国際標準の草稿(ISO/DIS 15511:2000)が提示され、2003年にISO 15511:2003として正式に国際標準規格となった。(CA1715参照)。
それから6年後の2009年に再度規格の改訂が行われ、ISO 15511:2009となる。コードの規格自体はISO 15511:2003と同じだが、RAをデンマーク図書館・メディア庁が担うことが付録Bに明記され、あわせてNAの役割についてより細かく追記された。
現時点で最新のISILはISO 15511:2011である。この改訂では随所に“museum”の語が追記されるなどMLA連携が強く意識され、付与対象も広く「情報分野」に関係する組織という表現になった。また、複数のNAが現れた場合はRAがひとつのNAを選んで決定することが明記されるとともに、OCLCのような国に属さない登録機関のコードの管理に関する項目が節として独立した。
3. 日本におけるISILの導入
2007年、RAからISO/TC46国内委員会に対し、日本からNAを出すよう要請があった。これを受けてISO/TC46国内委員会からNDLにISILのNAになるよう打診があり、NDL内部で調査や関係者へのヒアリング、図書館・博物館・文書館の関係者及び団体との協議、日本におけるISILのUIの体系、付与対象、付与ルール、運用方法等についての検討が進められた。
ISILの構成については、検討の過程でUIにNDLの登録利用者(機関)のIDを適用する案等が出たが、最終的にISO/TC46国内委員会からの示唆(後述するRFID規格案への対応に関する内容)とISILの持つ汎用性に配慮し、表3の構成を採用することとなった。
表3 日本におけるISILの構成
プリフィクス | ‐ | 機関識別子 | |
2文字 | 1文字 | 1文字 | 6文字 |
国名コード (JP) | 区切り | 機関種別 | 機関ID |
表4 日本におけるISILの例
JP-1000001 | 国立国会図書館(東京本館) |
JP-1000907 | 東京都立中央図書館 |
JP-1003306 | 東京大学/総合図書館 |
この構成は、次のコンセプトを基にしている。
ISILの構成に関する検討と並行して、前述のようにNDLが日本のNAとして2011年8月31日に申請を行い、同日RAに承認された。こうした準備を経てNDLは、2011年10月20日ホームページ上で日本語版と英語版の「図書館及び関連組織のための国際標準識別子(ISIL)」のページ(3)を公開し、ようやく日本におけるISILの付与が始まった。
4. 日本におけるISILの付与・管理
<付与対象>
日本におけるISILの付与対象は、ISO 15511:2011に基づいて図書館、博物館・美術館、文書館、その他(出版者や取次業者、資料や情報の流通に関わる組織等)を想定している。また、原則として1館にひとつのISILを付与するが、中央館とは別に分館も個別のISILを持つことができる。最初からすべての対象を登録することは難しいので、当面は機関種別「1」の図書館(NDL及び支部図書館、公共図書館、大学図書館、専門図書館、その他情報専門機関、視聴覚障害者情報提供施設等)に対する付与から始め、徐々に付与対象機関を学校図書館や博物館・美術館、文書館等に広げていくことを考えている。
<機関情報の登録と更新>
機関情報は、「初期登録データ(一括)」「更新データ(一括)」「登録希望機関からのフォーム経由の申請(個別)」のいずれかに基づいてISIL管理台帳に登録する。機関種別「1」(=図書館)のデータの初期登録については、日本図書館協会(JLA)をはじめ、幾つかの関係団体の協力を得て登録対象となる機関の情報を入手し、あらかじめNDLでISILを採番・付与した(初期登録は図書館のみ。ISIL管理台帳公開時の登録数は4,926館)。しかし、この段階ではISILと機関名を結び付けただけである。今後は次のステップとして、すべてのISIL付与機関の登録情報に関してNDLが順次確認調査を行い、正確なデータをISIL管理台帳に反映させてゆく必要がある。
なお、初期登録から漏れた機関については、事務局の追加調査に加え、登録申請を受けてフォローすることにしている。さらに毎年、各機関の更新情報と申請情報を突き合わせて、必要に応じて事実確認を行った上で、ISIL管理台帳のデータ更新を行う想定である。
<機関に関する情報の管理>
ISIL自体は単純なコードである。これに多くの意味を持たせることは、改訂作業の煩雑さを増し、申請から付与までの時間に影響を与え、情報の不整合をもたらす原因となりうる。よって、機関に関する情報は前述のとおりISIL管理台帳を作成し、IDとリンクする形で維持管理する。ISIL管理台帳の項目のうち、次のものをインターネット上で公開している(*マークがついている項目の情報は、事務局による確認調査が済んだものから順次公開)。
この他、ISIL管理台帳では中央館・分館の関係、機関の種別等の情報もメンテナンスしている。
5. おわりに
1996年にISILが提案されてから、実に15年を経て日本にISILが導入された。ISILそのものは単なる番号にすぎないが、標準化という意味において大きなポテンシャルを秘めている。
ISILの活用方法を問われて図書館員がすぐに思いつくのは、図書館間貸出の現場での活用、図書館システム等における登録機関管理作業の軽減等があろう。しかし、ISILはさらに広い分野での活用も視野に入っている。日本におけるISILの構成は、RFIDのコードに組み込むことも想定してあるので、ICタグに各館のISILを入れて資料の流通の自動化・円滑化を進めることも可能である。紙媒体資料を中心とした図書館間貸出だけでなく、電子書籍の流通等でISILをベースにした認証管理を行うことができれば、どの館で使われたかをチェックし、適切な権利処理や各種マーケティングへの活用も期待できる。加えて、ISIL管理台帳は「登録機関の基本プロファイルが格納された公的なリポジトリ」と考えることもできる。今後図書館を皮切りに博物館・美術館、文書館等の登録が進めば、これまで実は存在していなかった「日本の文化施設一覧」データに成長するであろう。
注目されやすい検索サービス等とは異なり、ISILの付与・維持管理は、言ってみれば「情報基盤の基盤」を整備する地道な事業である。それゆえ、半永久的なサービスとして継続することに大きな意義があると考えている。
関西館図書館協力課:兼松芳之(かねまつ よしゆき)
(1) 2011年10月27日に、ISILのRA事務局から電子メールで「『アイシル』と発音しているが、他の呼び方でも構わない」との回答を得ている。
(2) ISO 15511:2011(E). Information and documentation ― International standard identifier for libraries and related organizations (ISIL). p. 1.
(3) “図書館及び関連組織のための国際標準識別子(ISIL)”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/isil/index.html, (参照 2011-10-28).
Ref:
ISO 15511:2000(E). Information and documentation ― International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations (ISIL).
ISO 15511:2003(E). Information and documentation ― International Standard Identifier for Libraries and Related Organizations (ISIL).
ISO 15511:2009(E). Information and documentation ― International standard identifier for libraries and related organizations (ISIL).
ISO 15511:2011(E). Information and documentation ― International standard identifier for libraries and related organizations (ISIL).
Danish Agency for Libraries and Media. ISIL. http://biblstandard.dk/isil/index.htm, (accessed 2011-10-28).
兼松芳之. 日本におけるISIL(アイシル)の導入. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1757, p. 4-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1757