CA1758 – 図書館展示の課題:国立国会図書館の企画展示アンケートの結果から / 古野朋子

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カレントアウェアネス
No.310 2011年12月20日

 

CA1758

 

 

図書館展示の課題:国立国会図書館の企画展示アンケートの結果から

 

1. はじめに

 一度でも展示を実施したことがある図書館は数多い。図書館展示は広報であり、また利用者教育や人材育成の機会(1)として、図書館業務に利をもたらすものである。

 しかし、展示専任の部署がある図書館は少ないのではないか。事例紹介では、委員会体制やワーキンググループ体制での実施が報告されている(2)。展示は、図書館ならではの受入・書誌作成・閲覧・レファレンスといった業務の合間に行われることがほとんどだ。どの図書館がどのくらい展示を行っているか、図書館展示はどうあるべきかといった研究も、日本ではあまりなされていない(3)。実施マニュアル的な論文も発表されてはいるが(4)、どの図書館も手探りで実施しているのが実情ではないだろうか。

 そのうえ、昨今は博物館や美術館で様々な展示会が開催されており、観客の目も肥えている。図書館展示も、内容の充実はもちろんのこと、集客や満足度向上に一層の努力が必要となっている。そこで本稿では、国立国会図書館(NDL)の展示(5)のうち、直近の2つの企画展示(6)での試みとその結果、図書館展示が今後取り組むべき課題を、アンケート結果をもとに、主に広報の観点から集客と満足度にしぼって紹介したい。

 

2. NDLの直近の企画展示アンケート結果分析

2.1. 基本情報

 以下に、今回紹介するアンケート対象である展示会の基本情報を述べる。

  • 貴重書展

 NDLの開館60周年を記念して、2008年の10月から11月に、東京本館と関西館でそれぞれ2週間ずつ開催した。貴重書等77点(重要文化財『師守記』や絵巻物等)を展示した(7)

  • 議会政治展示会

 帝国議会開設120年を記念して、2010年の12月に憲政記念館で開催した。議会政治に関する憲政文書約90点(坂本龍馬から浅沼稲次郎まで、議会制度に関わる人物の直筆等)を展示した。NHK大河ドラマ『龍馬伝』の放送終了直後にあたる(8)

 

2.2. 集客を増やすには

 入場者数・アンケート結果のうち、集客増につながる課題をここに挙げる(図1~図5参照)。

2.2.1. 開催期間、曜日の設定

 入場者数を日毎に見ると、展示に合わせた講演会を行った日は当然、入場者が多い。また、「せいか祭り」は、関西館が位置する京都府相楽郡精華町全体のイベントである。展示会事務局では「せいか祭り」に合わせた開催時期を選んだ。

 こうしたイベントを考慮しないとすると、曜日では東京本館、関西館ともに土曜日の数値が多く、東京本館では特に日曜日の数値が少ない傾向が見られる。そもそもNDLは、日曜日は東西ともに閲覧を行っていない。それでもあえて日曜日に展示会のためだけに来館する人がいるのではないかと期待していたが、結果としてはかなり少ない数値になった。また、東京本館は永田町という官庁街、関西館は学研都市にあるため、行楽がてら訪れたり、通りすがりに入場したりするようなケースを期待できないということだろう。それぞれの地域の特性に合わせた開催時期、開催曜日を選ぶことが大切であることがわかる(9)

図1 日別入場者数 貴重書展(東京本館2010年10月)

図1 日別入場者数 貴重書展(東京本館2010年10月)

図2 日別入場者数 貴重書展(関西館2010年11月)

図2 日別入場者数 貴重書展(関西館2010年11月)

 

2.2.2. 広報手段

 

図3 情報入手手段 貴重書展(東京本館)

図3 情報入手手段 貴重書展(東京本館)

図4 情報入手手段 貴重書展(関西館)

図4 情報入手手段 貴重書展(関西館)

  • 館内の案内がまず大切

 情報入手手段で最も多いのは、「来館して」であり、一般的な広報手段であるポスター・ちらしに匹敵(東京では超える)する割合である。館内のポスター掲示や、館の入口に掲げる看板等が、遠方へのポスター・ちらしの配布とともに重要であることがわかる。

  • ポスター・ちらしは戦略が必要

 ポスター・ちらしは全国の図書館、関係機関に配布しているが、予算の関係により車内広告などは行っていないため、予想よりは少ない数値となった。

 展示内容と関係のある大学の研究室が、学生を連れて観覧に来ている様子も見受けられるため、学会などにピンポイントでポスター・ちらしを送付することも効果的と思われる。

  • マスコミは地方なら期待できる

 なお、東京本館では少ない「テレビ・ラジオ」「新聞・雑誌」が関西館で比較的多いのは、関西の地方ニュースとして取り上げられることが多いことによる。展示会そのものが多数行われる東京では、マスコミにプレスリリースを送付しても、残念ながら図書館の展示は大手メディアにはほとんど取り上げられない。

 実際、アンケート結果には、「もっと広報するべきである」という声が多く寄せられた(貴30、議20)(10)。特に、テレビ局での放送、電車内の広告をすべきであるという意見が多かったが、いずれも予算の関係上行っていない。駅にポスターを数枚貼るにも数十万円、電車内の広告には数百万円と、想像以上の費用がかかる。民間や法人の美術館・博物館でない国立の図書館がどこまで広報の費用を割けるのか、難しいところである。

  • 口コミ、リピーター

 3番目に多いのが「友人・知人から」である。一度来場した人が友人や知人に勧めるということが多いようだ。そうした口コミ効果を考えると、できるだけ会期を長くして周知期間を長く取ることが大切だと思われる(11)

図5 情報入手手段 議会政治展示会

図5 情報入手手段 議会政治展示会

 また、図5にある「案内状」というのは、NDLから関係者に送付した案内状のほか、議会政治展示会の会場となった憲政記念館が秋の企画展示の際にリピーターに送付しているものが含まれる。憲政記念館は常に展示を行っており、近現代の憲政史に興味のある人なら一度は訪れる記念館である。リピーターがおり、毎年送付する葉書の広報効果は高いという。同時開催となった議会政治展示会についても、この葉書の隅に情報を掲載して頂いた。このように展示の固定ファンをつかむことも重要である。

 

2.3. 満足度を上げるには

 アンケート結果のうち、満足度向上につながる課題をここに挙げる。

  • わかりやすく

 「かなりくわしく説明があり、理解しやすかった」(貴76、議82)、という意見がある一方で、「子供でも理解できるぐらい詳しくしてほしい」(貴68)、「難しい、堅苦しい」(議44)という意見もあり、入場者のレベルをどの程度に設定するかは難しいところである。「私には来てはならないところなのか」という悲痛な声もあった。

  • 現代語訳、ふりがな、翻刻をつける

 「不満足」という回答の20~30%程度をこれらの要望が占める(貴68、議40)。「わかりやすく」という要望の具体的な面である。議会政治展示会では、初日のアンケート結果をもとに翻刻を増やした結果、貴重書展よりは要望の数値が減った。ほかにも、「もう少しわかりやすい言葉で(かみくだいて)」「人名にふりがなを。西周では若い方は読めません」「○○事件の説明がないとわからない」といった意見からは、現代語訳だけでなく、解説の文章そのものについても、高すぎないレベル設定が求められていることがわかる。「知っていて当然」「知らない言葉は自分で調べましょう」というような姿勢は受け入れられない。

  • 参加できるコーナーは好評

 いずれの展示会もフロアレクチャー(展示担当者が出展資料の説明を会場内で行うこと。ガイドツアーとも言う)を行い、大変好評だった。どちらも2回ずつ行ったが、1度参加して2度目も参加する入場者もいたほどだ。また貴重書展での、簡易なレプリカを手にとって触るコーナーや、議会政治展示会での坂本龍馬の直筆署名をスタンプにしたものなど、見るだけでなく来館者も参加できる企画は全般的に好評である(貴113、議38)。

 なお、筑波大学の企画展示では、ブログやTwitterで情報発信するとともに、会期中に寄せられた質問に答えるQ&Aコーナーを設けている(12)。こうした相互交流は観覧者の満足度を上げると思われる。

  • 別のページが見たい。電子展示があるのはいい。

 図書館展示の根本的な欠点として、一部分のページしか展示できない点が挙げられる。貴重書展は企画展示と同時に同内容の電子展示を作成し(13)、展示箇所以外のページも見ることができるようにした。アンケートでは、まずまず好評であった(貴10)。議会政治展示会は、既存の電子展示会「史料にみる日本の近代」(14)に全ページ画像を掲載している史料を中心に、展示を構成した。いずれの展示会でも、会場内ではパソコンコーナーで電子展示を閲覧できるようにした。

 しかし、展示物とパソコンとは、どうしても離れた位置にしか設置できず、臨場感がない。展示物のすぐそばで、ページをめくるような感覚で電子画像を見られるような仕組みが開発されることを期待する。

 

2.4. 取り上げるテーマ(集客、満足度の両方の観点から)

  • 貴重なもの、有名人の直筆、あの有名な○○、タイムリー

 「貴重なものが見られてよかった」(貴164)、「学校などで習った有名な書物(伊勢物語、源氏物語、八犬伝等)の実物が見られて感動した」(貴35)、「著名人の直筆を見ることができて感動した」(議150)、「龍馬の直筆を見ることができて感動した」(議81)、「大河ドラマ放送直後に坂本龍馬はタイムリー」(議31)、こういった回答が、回答数全体の約15%を占める。特に議会政治展示会はポスターに坂本龍馬の肖像を入れたため、普段憲政文書に興味を持たない層も入場し、好評だったようだ。誰もが知っているもの、貴重なもの、今流行のもの、という親しみやすさが最も喜ばれるようだ。

 しかし、内容が著名なものであっても、タイトルが堅苦しいために、「それだけでは足を運びにくい、損をしている」「『八犬伝とその仲間たち』とでもしたほうがいい」という声も聞かれた。

  • 視覚に訴えるもの

 貴重書展では、三部構成のうち第一部、第二部では文字が中心の資料であったが、第三部で美しい絵巻物を展示し、これが好評であった(貴29)。一方、議会政治展示会ではどうしても文書が中心となってしまうため、「文書ばかりでつまらない。もっと映像などを取り入れるべき」という意見が見受けられた(議21)。これはそもそも予想できたことなので、壁面に展示資料に関係する人物肖像や風景写真をパネルで飾った。また、入口にディスプレイを設置し、文書と人物肖像を組み合わせたスライドショーを上映して、少しでも視覚に訴えることを目指した。しかし、画像が白黒のせいか、あまり目立たなかったようだ。音声付きのビデオ上映コーナーなどを期待する意見もあった。

 

3. おわりに

 総じて、わかりやすく親しみやすい展示が求められていることがわかる。じっくり読むのではなく、ぱっと見て満足できるもの、興味を持てるものが良いとされるようだ。

 それでは軽薄にすぎるのではないかという声もあるだろう。学術的な確かさが確保できるのか心配だという声もあるだろう。議会政治展示会のアンケートには、「坂本龍馬で客寄せをしすぎである」「大衆におもねっている」という意見も10件あった。しかしどんなに中身が良くても、入場してもらわなければ意味がない。

 もちろん、ただ「貴重です」「テレビドラマとタイアップです」では軽薄すぎてイメージダウンの可能性もある。また、後が続かない。よって、企画段階では、集客増や満足度向上を視野に入れつつ、既存のイメージや無難な路線にこだわらない企画を考え続ける努力が求められるだろう。

 また、わかりやすさと学術的な確かさの両立という点では、入場者が展示を見る段階に従って、方向性を変える必要がある。具体的には、学術的な記述は図録等で行い、会場内ではわかりやすく、親しみやすく、さらに広報段階では注目を集めるように心がける、というような切り分けが考えられるだろう。

 図書館の存在意義が問われる今、本稿で紹介したNDLでの展示活動が抱える課題とその分析を基に、図書館展示がより戦略的に活用されることを願う。

利用者サービス部サービス企画課:古野朋子(ふるの ともこ)

 

(1) 米澤誠. 広報としての図書館展示の意義と効果的な実践方法. 情報の科学と技術. 2005, 55(7), p. 305-309.
http://ci.nii.ac.jp/els/10016618354.pdf?id=ART0003225345&type=pdf〈=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1320023594&cp=, (参照 2011-10-28).

(2) 松原敏夫. 琉球大学附属図書館における展示会活動について. 大学の図書館. 2005, 24(5), p. 76-78.
http://ir.lib.u-ryukyu.ac.jp/bitstream/123456789/58/1/matsubara.pdf, (参照 2011-10-28).
米澤誠. 田中耕一氏展示という未知への挑戦. 大学の図書館. 2005, 24(5), p. 78-81.
篠塚富士男. 大学図書館における展示会活動. 大学図書館研究. 80, 2007, p. 43-53.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/101739/1/daitoken_80.pdf, (参照 2011-10-28).

(3) 大学図書館に関しては、以下の文献がある。
篠塚富士男. 大学図書館における展示会活動. 大学図書館研究. 80, 2007, p. 43-53.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/101739/1/daitoken_80.pdf, (参照 2011-10-28).

(4) 松下眞也. 図書館と展覧会. 早稲田大学図書館紀要. 1996, 43, p. 1-46.

(5) NDLでは1948年の創立以来、様々な企画展示や常設展示を開催してきた。2006年4月以降は委員会体制とともに、電子展示会を含めた展示専任の係(3名)を事務局として設置して取り組んでいる。
“過去の展示会一覧”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/event/past_ex/index.html, (参照 2011-10-28).

(6) ここでは、NDLの東京本館での開催を主とした大規模な展示会を指し、電子展示会、小規模な展示会(展示ケース数個程度のもの)、国際子ども図書館における展示会を除いたものを取り上げた。

(7) 貴重書展は、東京本館では2008年10月16日~10月29日(土・日を含む)10:00~18:00に新館1階展示室で開催した。関西館では2008年11月13日~26日(土・日・祝を含む)10:00~18:00に関西館大会議室で開催した。
東京本館の入場者数はのべ2,056人で一日平均146.8人、アンケート回収枚数は618枚で回収率は30.0%であった。関西館の入場者数はのべ2,254人で一日平均は161人、アンケート回収枚数は830枚で回収率は36.8%であった。
アンケートの回答による満足度(「とても良い/良い/普通/あまり良くない/良くない」のうち、「良い」以上の割合)は、展示内容に対しては88.4%で、展示方法については72.7%であった。

(8) 議会政治展示会は、2010年12月1日~12月10日(土・日を含む)9:30~17:00に憲政記念館1階会議室で開催した。なお、この展示会は関西では開催していない。
入場者数は4,124人で一日平均412人、アンケート回収枚数は1,460枚で回収率は35.4%であった。
また、アンケートの回答に基づく満足度(「満足/やや満足/やや不満足/不満足」のうち、「やや満足」以上の割合)は、展示内容については92.2%、展示方法に対しては86.7%であった。

(9) 次回のNDL企画展示「ビジュアル雑誌の明治・大正・昭和」(2012年2月~3月開催予定)では、日曜・祝日は開催しない。

(10) 本文中で(貴30、議20)のようにカッコ内に記載した数字は、自由記入欄の同様意見をまとめた件数である。また、「貴」は貴重書展、「議」は議会政治展示会を意味する。以下、同様とする。

(11) 次回のNDL企画展示「ビジュアル雑誌の明治・大正・昭和」(2012年2月~3月開催予定)では、東西あわせて40日間と、会期を長く設定した。

(12) 篠塚富士男. 大学図書館における展示会活動. 大学図書館研究. 80, 2007, p. 43-53.
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/dspace/bitstream/2241/101739/1/daitoken_80.pdf, (参照 2011-10-28).
筑波大学附属図書館展示Blog
http://www.tulips.tsukuba.ac.jp/exhibition/blog/, (参照 2011-11-15).
“筑波大学附属図書館特別展WG(@tulips_tenji)”. Twitter.
http://twitter.com/tulips_tenji, (参照 2011-11-15).

(13) “国立国会図書館開館60周年記念貴重書展: 学ぶ・集う・楽しむ”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/exhibit60/index.html, (参照 2011-11-15).

(14) “史料にみる日本の近代: 開国から戦後政治までの軌跡”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/modern/index.html, (参照 2011-11-15).

 


古野朋子. 図書館展示の課題:国立国会図書館の企画展示アンケートの結果から. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1758, p. 6-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1758