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カレントアウェアネス
No.325 2015年9月20日
CA1855
北米のメタデータ・ライブラリアンシップ事情
ハワイ大学マノア校図書館:芝麻子(しば あさこ)
ITの進化が図書館における業務プロセスやサービスに影響を与えてきたことは周知の事実である。その結果新たな肩書きのライブラリアンが出現し、本稿で取り上げるメタデータ・ライブラリアンもここ10年ほどで北米において一般的になりつつある(1)。なお本稿では便宜上、肩書きに「メタデータ」の付くあらゆる図書館専門職(2)を一括してメタデータ・ライブラリアンと呼ぶ。彼らが北米の図書館でどのような職務に従事しどのような専門知識や技能を有しているのか、以下に概説する。
メタデータ・ライブラリアン台頭の背景
メタデータ・ライブラリアンという肩書きの目新しさに反して、メタデータの概念は図書館界にとっては非常に馴染み深いものである。頻繁に参照されるメタデータの単純化された定義“data about data”によれば、図書館が伝統的に作成してきた目録データもメタデータであるからだ。実際に、目録担当の部署名から「カタロギング」が消え「メタデータ・サービス」といった名称が見られるケースもある(3)。しかし北米図書館界においてメタデータというと、 一般的には未だ、例えばDublin Core やMODS といったMARCデータ以外のものを指す(4)。
北米の図書館でメタデータの使用が初めて顕著に見られたのは、第1回Dublin Coreメタデータワークショップが開催された1995年ごろである(5)。インターネットの成長と共に1990年代前半までには国立図書館や研究図書館などの大規模図書館はすでに所蔵資料のデジタル化を始めており、デジタル資料のメタデータ作成は主に目録担当部署に属するカタロガーが行ってきた(6)(7)。その後、2007年に行われた北米研究図書館協会(Association of Research Libraries:ARL)対象の調査結果によると、調査当時でARL加盟図書館123館のうち4割近くが専任のメタデータ・ライブラリアンを少なくとも一人配置している(8)。
1990年代半ばに始まった劇的な電子リソース(9)の増加もまた、メタデータ・ライブラリアンの台頭の一助になったであろう。リンクリゾルバー、電子リソース管理システム(ERMS)、ナレッジベース、MARC提供サービスといった電子リソース管理専用ツールやサービスの登場は、従来の受入業務・目録作成・蔵書管理における慣習を大きく変えただけでなく、効率よくかつ確実に資料へのアクセスを利用者に提供するためのディスカバリー環境を再考するきっかけを図書館界にもたらした(10)。ところが、主に電子リソースメタデータの品質の低さに由来する問題のために、未だ理想的なディスカバリー環境を実現できておらず、図書館のみではなく出版社やシステムベンダーなどとも共有される、電子リソース関連メタデータの標準化の必要性が指摘されてきた(11)。
多様化する職務内容
当初はカタロガーが片手間に行っていたメタデータ作成業務は、次第に専任のメタデータ・ライブラリアンに取って代わられる。現在はカタロガーから転身したメタデータ・ライブラリアンが多数派であるが、図書館情報学大学院新卒でこの職種に就く者も増加してきた(12)。そういった今日のメタデータ・ライブラリアンが従事する職務は、多様化の一途を辿っている。最大の要因として、 図書館が関わるデジタル・プロジェクトやプログラム自体の多様化が挙げられるだろう。とりわけ大学図書館においてこの傾向は顕著で、蔵書のデジタル化に加え、機関リポジトリやデジタル・アーカイブの運営、学内で生産される研究データや他のボーン・デジタル情報のキュレーション(CA1818参照)、デジタル人文学プログラムへの関与が一般的になりつつある。また、地域関連資料のポータルサイトやサブジェクト・リポジトリの構築・維持など他機関との協同プロジェクトに参画する図書館も館種問わず少なくない。これらにおけるメタデータ・ライブラリアンの役割は非常に重要で、例えば、情報・資料の作成者自身や専門家とのコンサルテーションに基づき、それぞれのコレクションのニーズに適ったデータ・モデルやアプリケーション・プロファイルの設計を担ったり(13)、メタデータ作成に関するワークフローやガイドラインの設定、メタデータ作成者へのガイダンスやトレーニングの提供、また、既存のメタデータを効率よく再利用するためにデータの変換作業や一括編集を行ったりする。このような職務を担う人材の育成のため同僚に対する教育も行う(14)(15)(16)。メタデータ作成よりむしろ、情報技術の幅広い知識とスキル、図書館内外との協働関係を駆使して、高品質のメタデータを総合的に保証する環境を整える職務に重点が置かれてきているとも言えよう(17)。
ディスカバリー環境のさらなる変遷もメタデータ・ライブラリアンの職務に影響を与えてきた。前述した現状からもわかるように、図書館が今日ユーザーに提供する情報のトピックや形態、また書誌情報の粒度やメタデータの出所、使用されるプラットフォームやツールは多岐にわたる(18)。つまり高品質のメタデータは、理想的なディスカバリー環境にとって必須ではあるがもはや唯一の構成要素ではない。メタデータ・ライブラリアンはこのような事情を認識した上で、デジタル資産管理システム(digital asset management system)やディスカバリー・インターフェースの選択・導入や初期設定に参画し、既存のあるいはベンダーから提供されたメタデータを編集し、メタデータの可視性及び相互運用性の向上を図る戦略を練り、図書館におけるメタデータの作成・再利用を調整し、ポリシーを設定する(19)(20)。こういった職務はすべて、ウェブ環境における図書館資料の発見可能性の向上に貢献するものである。
要求される知識と技能
前述の多種多様な職務は、今日のごく典型的なメタデータ・ライブラリアンが遂行するものである。そのために必要とされる具体的な知識や技能を、2009年から2014年の間に発表された複数の文献(21)(22)(23)(24)と筆者の経験を元に、以下の表にまとめる。
その他、ほぼ全てのメタデータ・ライブラリアンの応募要件に見られる項目として、適性に関するものがある。例えば、職務遂行に必要なプロジェクト・マネジメント能力やコミュニケーション能力、また、常に新たな知識や技能を習得しようとする意欲と能力などが挙げられる。
表 北米のメタデータ・ライブラリアンに要求される知識と技能
知識・技能 | 背 景 |
カタロギング | AACR2あるいはRDAなどのようなスタンダードへの精通、LCSHやLCNAF(LC Name Authority File)に代表される統制語と典拠ファイルの働きと仕組みの理解、MARCフォーマットなどの知識は、メタデータ設計・作成・変換を行う際に非常に有用である。 |
MARC以外のメタデータ・スタンダード | 必須と言っても過言ではないDublin CoreやMODSの記述メタデータ・スタンダードに加え、VRA Core(25)、EAD(Encoded Archival Description)、METS(Metadata Encoding Transmission Standard)、TEI(Text Encoding Initiative)などの知識も頻繁に要求される。最近のデジタル・プロジェクトやプログラムの対象になる情報・資料は高い専門性を有することが多いため、専門分野のニーズに応えるために図書館界以外の分野で開発されたメタデータ・スタンダード、例えばFGDC/CSDGM(Federal Geographic Data Committee, the Content Standard for Digital Geospatial Metadata)、DDI(Data Documentation Initiative)、PBCore(26)などの基本知識が役立つこともある。 |
メタデータの相互運用 | メタデータの再利用やハーベスティングが一般的になってきたため、メタデータ・クロスウォーク(CA1552参照)の経験やOAI-PMH の知識はほぼ必須である。 |
メタデータ変換・改善のためのツール | Oxygen、MarcEdit、OpenRefineといったツールは頻繁に使用される。 |
システム | 統合図書館システム(ILS)、デジタル・ライブラリーやリポジトリで使用されるプラットフォーム、ディスカバリー・インターフェースの知識や経験は、システムの評価・カスタマイズなどを行う際に活用される。 |
IT関連 | メタデータ・スタンダードにはXMLベースのものが多いため、基本的な理解は必須。メタデータ変換ツールとしてのXSLTも有用。Python、PHP、MySQLなどのプログラミング言語の知識が応募要件に見られることもある。 |
アーカイブズ原則 | 図書館とアーカイブズにおける資料組織化の方法には根本的な違いがあるため、基本的な知識が必要である。また、デジタル・アーカイブズ構築やデジタル・プリザベーションにとって重要なOAIS 参照モデル(CA1489参照)やPREMIS(Preservation Metadata:Implementation Strategies)などのスタンダードの知識が求められる場合もある。 |
学術コミュニケーション | 機関リポジトリに関連して、特にORCID(CA1740参照)、ISNI(International Standard Name Identifier)、VIVO(E1475参照)などの研究者情報の管理に関するイニシアチブの認識は必要である。 |
Linked Data(CA1746参照) | 図書館がメタデータをLinked Open Dataとして公開する試みも始まっており、RDF(Resource Description Framework)、OWL(Web Ontology Language)、SKOS(Simple Knowledge Organisation System)などの知識は徐々に必要とされるようになってきた。MARCに代わる書誌フレームワークとされるBIBFRAME(CA1837、E1386参照)を理解する上でもLinked Dataの仕組みを知ることは重要。 |
おわりに
カタロギングの延長線上で行われていたメタデータ作成業務から派生したメタデータ・ライブラリアンが多様な職務に従事するようになった様子を概観した。職務の多様さ、他機関や専門家との協同作業に従事するなどの活動範囲の広さ、また技術色の強い職種であるといったメタデータ・ライブラリアンの特性は、必然的に彼らをとりまく環境も多様にする。言い換えれば、非常に変化の波を受けやすい立場にあり、メタデータ・ライブラリアンの役割は今後も大きく変化すると予想される。どのような変遷をたどるにしろ、適切なメタデータ管理は図書館サービスの向上に貢献し続けるに違いない。
(1)一般的となったメタデータ・ライブラリアンであるが、正式な統計は見当たらない。ライブラリアンを対象とした最近の任意調査には様々な館種に属する96人が参加しているが、北米に存在するごく一部のメタデータ・ライブラリアンにすぎないと思われる。
Mooney Gonzales, B. Preparing LIS Students for a Career in Metadata Librarianship. SLIS Student Research Journal, 2014, 4(1).
http://scholarworks.sjsu.edu/slissrj/vol4/iss1/3, (accessed 2015-08-09).
(2)例えば、metadata/cataloging librarian、coordinator ofcataloging/metadata、metadata archivist といった肩書きも見られる。
Han, Myung-Ja; Hswe, Patricia. The Evolving Role of the Metadata Librarian. Library Resources & Technical Services. 2011, 54(3), p. 129-141.
(3)代表的な例として、スタンフォード大学図書館のMetadata Department 、カリフォルニア大学サンディエゴ校図書館のMetadata Services が挙げられる。
(4)Reitz, Joan M. “Metadata”. Online Dictionary for Library and Information Science.
http://www.abc-clio.com/ODLIS/odlis_m.aspx, (accessed 2015-08-09).
(5)Ma, Jin. Metadata in ARL Libraries: A Survey of Metadata Practices. Journal of Library Metadata. 2009, 9 (1-2), p. 1-14. doi: http://doi.org/10.1080/19386380903094977.
(6)Ibid.
(7)Chapman, John W. The Roles of the Metadata Librarian in a Research Library. Library Resources & Technical Services. 2011, 51(4), p. 279-285.
(8)Ma. op. cit.
(9)ここで言う電子リソースとは、図書館がライセンス料を支払ってその利用者にアクセスを提供する電子ジャーナルや電子ブックである。後述のデジタル資料(ローカルで作成されたコンテンツ)とは区別する。
(10)McCracken, Elaine. Description of and Access to Electronic Resources (ER) Transitioning into the Digital Age. Collection Management. 2008, 32(3-4), p. 259-275. doi: http://doi.org/10.1300/J105v32n03_02.
(11)Kemperman, Suzanne Saskia et al. Success Strategies for Electronic Content Discovery and Access: A Cross-Industry White Paper. Dublin, OH, OCLC, 2014.
http://www.oclc.org/content/dam/oclc/reports/data-quality/215233-SuccessStrategies.pdf, (accessed 2015-07-19).
(12)Mooney Gonzales. Op. cit.
(13)近年は専門性の高いあるいはローカルに特化した資料・情報を扱うケースが増加したため、メタデータのニーズを的確に評価するには対象となる資料をよく知る者との共同作業が欠かせない。例えば、ワシントン大学図書館はコレクションごとにメタデータをデザインし、表形式のアプリケーション・プロファイルを以下のURLにて公開しているが、コレクションによってはプロファイルの文責として教授が含まれる例が見られる。
http://www.lib.washington.edu/msd/pubcat/mig/datadicts, (accessed 2015-08-09).
(14)Ma. op. cit.
(15)Chapman. op. cit.
(16)Finch, Meghan. “The evolving metadata librarian: Creating and managing data about data.” The New Academic Librarian: Essays on Changing Roles and Responsibilities. Jefferson, NC, McFarland, 2013, p. 185-195.
(17)Calhoun, Karen. Being a Librarian: Metadata and Metadata Specialists in the Twenty-first Century. Library Hi Tech. 2007, 25(2), p. 174-187. doi: http://doi.org/10.1108/07378830710754947.
(18)Breeding, Marshall. The Future of Library Resource Discovery: A White Paper Commissioned by the NISO Discovery to Delivery (D2D) Topic Committee. Baltimore, MD, NISO, 2015.
http://www.niso.org/apps/group_public/download.php/14487/future_library_resource_discovery.pdf, (accessed 2015-07-19).
(19)Finch. op. cit.
(20)Boydston, Jeanne MK; Leysen, Joan M. ARL Cataloger Librarian Roles and Responsibilities Now and in the Future. Cataloging & Classification Quarterly. 2014, 52(2), p. 229-250. doi: http://doi.org/10.1080/01639374.2013.859199.
(21)Park, Jung-ran; Lu, Caimei. Metadata Professionals: Roles and Competencies as Reflected in Job Announcements, 2003–2006. Cataloging & Classification Quarterly. 2009, 47(2), p. 145-160. doi: http://doi.org/10.1080/01639370802575575.
(22)Han & Hswe. op. cit.
(23)Finch. op. cit.
(24)Boydston & Leysen. op. cit.
(25)“VRA Core: Official Website.”
http://www.loc.gov/standards/vracore/.
(26)“PBCore: Public Broadcasting Metadata Dictionary Project.”
http://pbcore.org/.
[受理:2015-08-17]
芝 麻子. 北米のメタデータ・ライブラリアンシップ事情. カレントアウェアネス. 2015, (325), CA1855, p. 8-10.
http://current.ndl.go.jp/ca1855
DOI:
http://doi.org/10.11501/9497648
Shiba Asako
Metadata Librarianship in North America