E1475 – 大きな広がりを見せる学際的研究ネットワーク:VIVO

カレントアウェアネス-E

No.244 2013.09.12

 

 E1475

大きな広がりを見せる学際的研究ネットワーク:VIVO

 

 2013年8月14日から16日までの3日間,VIVOカンファレンス2013が米国ミズーリ州セントルイスで開催された。今年の基調講演は,日本でもオープンガバメントの提唱者として名高いノヴェック(Beth S.Noveck)博士,PLoSのアドボカシーディレクターであるネイロン(Cameron Neylon)博士らが務め,学術研究の環境やそのプラットフォームがオープンであることの意義を確認し3日間の幕が開けた。カンファレンスには,共同研究,研究情報ネットワークに関わる研究者,図書館関係者,研究情報管理者,研究助成団体職員などの多岐にわたる関係者が参加し,講演やワークショップ,パネルディスカッションそしてポスターセッションにおいて,次世代の共同研究とネットワークについて活発な議論を繰り広げた。

 VIVOとは,研究者に関するさまざまな情報をそのネットワーク上に展開,実装し可視化できるオープンソースソフトウェアのセマンティックウェブアプリケーションである。研究者情報には,論文や著作などの研究成果だけでなく,予算獲得実績や教員歴,学協会の役員歴,さらには研究活動で利用される機器等の資源や研究データセットの情報までも含まれる。これらの情報を従来の組織の枠を超えて世界規模でネットワーク化させることで,ユーザーは学際的な研究プロジェクトの推進や研究助成の獲得機会の発掘等に活かすことができる。今のところVIVOのセマンティックネットワークで扱われる分野は,医学,生理学,生物学そして農学が中心となっている。

 VIVOは,2003年に米国のコーネル大学でその原型が開発されたもので,当初は北米の大学および研究機関を対象に発展してきた。2009年には,米国国立衛生研究所(NIH)から1,220万ドルの出資を受け,以後グローバルなプラットフォームとして成長してきた。VIVOコミュニティには,現在30か国,約100の研究機関および高等教育機関が参加しているが,残念ながら日本からの参加はまだない。代表的な参加機関には,例えば中核メンバーのコーネル大学,フロリダ大学をはじめ多くの主要大学,および米国政府の農務省や環境保護庁などがある。英国からはケンブリッジ大学,インペリアルカレッジロンドンなども参加している。また,今年に入ってアジアで初の機関として中国科学院が加入し,その規模の大きさからVIVOコミュニティで大きな話題となった。

 カンファレンスでは,基調講演に続き8つのワークショップが開催された。ここでは主にプライバシーポリシーの運用や複数のデータソースに分散する研究者のプロファイル情報の集約方法,セマンティックデータの可視化の手法,そして既存データとの交換など主に技術的・運用面のテーマで活発な議論が行われた。続くセッションおよびパネルディスカッションは,ORCID(CA1740参照)のブライアント(Rebecca Bryant)氏らが,国や組織をまたがる共同研究における永続的なIDの重要性を指摘して始まった。50にもおよぶプログラムは,各国のトップ研究機関や大学による実装事例の報告,および共同研究での実際の活用例やその成果が中心で,VIVOの発展と成熟を印象づけるものだった。とりわけ米国デューク大学の発表は高度に可視化された研究ネットワークのチャートと一目で判る研究プロファイルで評判となっていた。その他に,人文科学におけるオントロジー構築のブラウン大学の事例“Modeling Humanities Scholarship”や,セマンティック技術やオントロジーで複数言語をどう扱うかといった国際共同研究での課題についてなど,VIVOの深化をうかがわせる発表も目を引いていた。

 この一年間でさらなる発展と広がりを遂げたVIVOであるが,日本ではまだごく一部の人にしかその実態を知られていない。VIVOの参加機関をマッピングした世界地図上で日本が空白なのは残念である。国際共同研究の推進は国の研究力強化の施策とも合致する方向性でもある。来年のカンファレンスでは日本からの参加を期待したい。

(ネイチャー・パブリッシング・グループ シンプレクティクリミテッド・四倉清志)

Ref:
http://vivoweb.org/blog/2013/08/thank-you-fantastic-vivo13
http://www.ted.com/talks/lang/ja/beth_noveck_demand_a_more_open_source_government.html
http://cameronneylon.net/
https://docs.google.com/file/d/0B4NlOCPPbx7MUG9IbEJKc05zY2c/edit
http://vivoweb.org/download
http://vivo.cns.iu.edu/gallery.html
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