CA1820 – 研究文献レビュー:日本人研究者の情報利用行動 / 倉田敬子

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カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1820

研究文献レビュー

 

日本人研究者の情報利用行動

 

慶應義塾大学:倉田敬子(くらた けいこ)

 

1. はじめに

 本稿では、カレントアウェアネス編集事務局から依頼のあった「日本人研究者の情報行動に関して日本語で最近(過去5年程度に)書かれた研究論文」に関してレビューを行う。情報行動にどこまで含めるかについては、多様な立場が存在するが、よく使われている意味で、日本人研究者がどのように情報を探索し、さまざまな情報源を入手・利用しているかに焦点を当てることとした。この条件に当てはまる雑誌論文は、4論文しか見あたらない状況であった。(これら4論文に関しては、3で詳細を紹介する。)

 欧米においては、研究者の情報行動に関する研究は一つの研究領域を形成するほど、数多くなされている。もともとは図書館や情報サービスの利用者がどのような関心、ニーズを持ち、実際に情報を探索し、入手しているのかを明らかにする、いわゆる「利用者」という視点からの調査であった。しかし、そのような図書館や特定情報サービスの利用という視点ではなく、研究者の研究活動の全体における情報の意義、利用される情報メディアの特性、入手・利用行動のパターンなどを明らかにしようとする研究が学術コミュニケーション、学術情報流通という研究領域を構成するようになった(1)。 

 このような学術コミュニケーション分野の研究においても、たとえば雑誌やデータベースの利用、図書館の利用も調査項目とはなるが、焦点は研究活動の推進に情報メディアや学術情報がどう関わるのかであり、研究者の行動や意識を研究活動の特性との関連で明らかにすることに主たる関心がある。特に、電子ジャーナルの普及は研究者の情報行動を大きく変化させる可能性があり、導入の初期から現在まで数多くの研究がなされてきている。

 他方、日本においては、電子ジャーナルの利用に関する論文や記事はそれなりに存在するが、その大部分は大学図書館等に電子ジャーナルや特定のサービスを導入した結果の報告である。

 たとえば、三村は杏林大学医学図書館における電子ジャーナルやデータベース導入の歴史をまとめた上で、新たに2010年にAnnual Review Onlineを導入した後の利用状況を、前年までの冊子体利用との比較、費用対効果といった点から分析している(2)。大学図書館における新しいメディアの導入とその後の利用の変化に関する報告としてはよくまとまっており、実際にAnnual Review Onlineの導入を検討している大学図書館にとっては役に立つ情報となろう。しかし、研究者の行動などの特性、その理由に関する言及はない。

 林と阪口は文献データベースと電子ジャーナル等の原文入手手段とを仲介するリンクリゾルバの効果を確かめるために、農林水産研究情報総合センターにおける文献データベース、電子ジャーナル、リンクリゾルバ(SFX)それぞれのアクセスログ解析を行った(3)。その結果として、たとえばSFXが中間窓として表示する各種サービスへのリンクのうち、電子ジャーナルに関しては、表示された回数の内84%で実際にクリックされていることがわかった。

 この論文の結果は、研究者の電子ジャーナル利用の特徴の一端を明らかにしている。ただし、それは一研究機関におけるSFXサービスに関連してわかる電子ジャーナル利用の側面に関してのみである。この利用行動の特徴は、より広い文脈での電子ジャーナルやデータベース利用の動向と比較することで、その意味や位置づけを明らかに出来る。実際この論文では、後述するSCREAL調査の結果をたびたび引用して、日本人研究者の電子ジャーナル利用の特性を前提に調査対象を選んだり、考察を行ったりしている。

 これらの論文以外にも、個別の図書館や図書館サービスの利用状況の調査は行われていると考えられる。しかしそれらでは、提供されているサービスが調査の中心で、研究者がどのような情報ニーズを持ち、どう情報の入手・利用を行っているか、そしてそれは何故なのかという、研究者やその研究活動、学術情報流通全体の動向などの文脈には関心が示されていないため、今回のレビューの対象とはしなかった。

 日本人研究者の情報行動に関する最近の研究の少なさと、学術コミュニケーションという研究領域に関する関心の薄さを鑑み、本稿では最初に学術コミュニケーションの古典的研究について簡単な概説を行い、その後で前述した日本の研究者の情報行動に関する最近5年の日本語の研究論文についてレビューを行う。日本人研究者を含めた全世界規模の調査を報告した英語の論文はもちろん存在するが、そこで日本人研究者の動向だけが取り上げられることはないため、今回与えられたレビューの対象からは外れていると判断し、ここでは言及していない。

 なお、日本で学術コミュニケーション領域を研究している研究者が少ないため、本稿で紹介する研究の多くに筆者自身が関与している。そのため、第三者としての研究レビューではないことにご留意いただきたい。

 

2. 学術コミュニケーションとは

 1970年代になされたGarveyを中心とする一連の研究が、研究者の学術コミュニケーション(Scholarly communication)に関する研究の本格的な始まりと捉えることが出来る(4)。これらの研究がその後長い間、多くの研究者によって古典的研究として引用されてきたのは、彼らの学術コミュニケーションに対する基本的な立場にある。彼らは、研究者の情報探索や入手という点だけに焦点を当てるのではなく、研究活動全体のプロセスにおいて、学術情報をやりとりすることがどういう意味を持つかという観点から研究している。特に以下の2点が特質できる(5)

 (1)インフォーマルコミュニケーションとフォーマルコミュニケーションという特性の区分
 (2)学術コミュニケーションを実現するための多様な情報源の時間軸に沿った整理

 インフォーマルコミュニケーションとは、研究者同士の個別の情報交換(直接対話、メールなど)を典型とするもので、このようなコミュニケーションは研究活動そのものを推進するのに非常に効果があるが、知り合いとならなければコミュニケーションができないという意味では閉鎖的なものである。他方、フォーマルコミュニケーションとして彼らが認めるのは、査読制のある学術雑誌で公開されて以降のコミュニケーションである。ここでは研究成果として認められた情報が公的な形で流通し、評価され、長い期間を経て知識体系へと組み込まれていく。研究者であれば誰でも情報を入手できるし、出版社や図書館などの研究者ではない仲介者が役割を果たすこともできる。

 彼らは学術雑誌(雑誌論文)が学術コミュニケーションにおける要となる情報メディアと考えている。それは、単に研究者が新しい研究動向を知るという役割があるだけではなく、自らの研究成果を公表する場であり、その分野の研究者に認めてもらえるという機能も果たしているからである。研究者は情報の利用者であると同時に、情報の生産者でもある。情報メディアの成果公表としての機能も重要な側面である。

 また、インフォーマル、フォーマル両方のプロセスにおいて、学術情報は少しずつ形式や内容を変化させながら、多様な情報源で繰り返し流通していく。ある程度業績を積んだ研究者であれば、学術雑誌論文が刊行される以前に、その成果について個人的な会話、講演会、学会発表などを通して既に知っていることが多い。もちろん論文になって初めて知る情報もあるが、多くの研究者が多様な情報源をそれぞれの状況に応じて利用しているのである。

 一時期研究が活発ではなくなった学術コミュニケーション分野だが、1990年代に入り研究が再び盛んになる。その最大の要因は、電子ジャーナルに代表されるデジタルメディアへの関心の高まりである。電子ジャーナルに代表されるデジタルメディアは、紙媒体とは根本的に異なる特性を持っており、もし研究者が紙からデジタルへとコミュニケーションの利用方法、形態を変えるのであれば、それは学術コミュニケーションに関わる体制の根本的な変容となるため、重要な研究課題と考えられた。

 研究者の電子ジャーナル利用に関する代表的な研究者としてTenopirを取り上げる。電子ジャーナル導入の比較的初期の段階で刊行されたTowards electronic journals は、印刷版から電子への学術雑誌の歴史から始まり、研究者の公表と利用、図書館の役割、出版社の役割や価格、電子化の技術的な課題まで網羅的に電子ジャーナルについて整理している(6)

 TenopirはKingをはじめとする多くの研究者との共同研究で、紙の雑誌の時代から研究者による利用動向についての研究を積み重ねてきた。特に、「最近読んだ論文」が紙なのか電子なのか、刊行年代、入手経路、利用目的などについて詳細にたずねる調査手法は、研究者がどのような論文をどう利用しているのかの実態を明らかにできる手法として定着した。

 彼女はこの方法を、米国天文学会の会員、米国の多くの大学所属の研究者、開業医など多様な調査対象に対して適用し、フィンランド、オーストラリアなどとの国際比較もなされている(7)

 非常に数多くの研究が、主として電子ジャーナル、検索手段の利用に関してなされたが、その多くが質問紙調査(一部インタビュー調査)であった。それらに対して、ロンドン大学のCIBERを中心として、英国の大学における研究者の電子ジャーナル利用をログアナリシスによって分析された一連の研究は、情報利用行動を調査する新しい手法として注目された。多数の雑誌論文が刊行されているが、Elservier社とOxford出版局の電子ジャーナルに関する英国10大学での2006/2007年の利用についての主な成果はResearch Information Networkの報告書としてまとめられた(8)。アクセス回数やダウンロード論文数、利用の集中度(利用の上位5%の雑誌で全利用の3割~5割を占める)などアクセスログの分析に特徴的な多数の結果を示している。さらに大学を研究レベルでランクして、電子ジャーナルの利用の仕方との関係を見たり、電子ジャーナル論文のダウンロード回数と大学の論文刊行数や博士学位授与数との関係を見たりもしている。

 電子ジャーナルなどのデジタルなメディアに関しては、大量の利用データを収集することが可能であり、ログアナリシスによる調査分析は、質問紙調査では明示的には示せない利用の実態を明らかにできる利点がある。ただし、雑多で大量のデータは標準的な指標で分析しなければ無意味な結果にもなりかねない。現在のところ、個人を特定できる形での利用データの収集や分析は本格化していないが、個人の属性と利用動向とを併せて、しかも大量に分析することが可能になれば、研究者の情報行動や情報メディアの利用動向に関しても新しい展開が可能となろう。

 

3. 日本人研究者の学術コミュニケーション

 日本人研究者が電子ジャーナルに代表される電子情報資源をどの程度利用しているのかの動向について、過去5年以内に日本語で刊行された4論文を発表順に紹介する。

 

(1) 医学分野の大学所属研究者の利用動向

 この論文では、日本における医学研究者の論文の読みの形態、入手経路、検索手段に、電子ジャーナルとオープンアクセスの普及がどの程度影響しているかを明らかにすることを目的として、2007年に調査された結果を検討している(9)

 論文の中心は医学研究者への質問紙調査であるが、調査の前に電子ジャーナルの利用に関する先行研究のかなり詳しいレビューを行っている。海外の研究が中心であるが、日本に関しても、国立大学図書館協議会の調査や個別の大学図書館の利用者調査を整理して、電子ジャーナルを週1回以上利用した割合が4~7割であることなどを示している。

 質問紙の調査対象は日本の大学の医学部等に所属する研究者約2000人で、有効回答数は651件であった。中心となるのは、「最近読んだ論文」の(1)形態、(2)入手経路、(3)検索手段である。電子ジャーナルの利用頻度をたずねるのではなく、Tenopirの提案しているLast readingを調査するという方法を踏襲している。

 その結果、読まれた論文全体の7割が電子版、3割が印刷版であり、電子版のファイルをダウンロードして読む形が最も多く全体の53%を占め、さらにそれらの論文の85%は図書館の電子ジャーナルから入手していた。印刷版の雑誌をそのまま読んでいるのが全体の17%であったが、その64%は個人購読雑誌であったのと対照的である。

 これらの論文を見つけた手段は、印刷版学術雑誌の場合は当然のことながら雑誌のブラウジングが7割を占めていたが、電子版の場合は8~9割がPubMedを検索して論文を見つけていた。他方、サーチエンジンで見つけたという回答はほとんどなかった。検索手段として一般的にどの程度利用するかをたずねた設問でも、PubMedは毎日が28%、週1回以上では9割近いのに対して、サーチエンジンは週1回以上の利用が6割程度で、図書館サイトの利用割合よりも低くなっていた。英国での2006年の調査ではサーチエンジンの利用が最も頻度が高いという結果と異なり、日本の医学研究者はPubMedに非常に依存している状況が明らかになった。

 オープンアクセスに関して、認知度や利用度をたずねているが、全般的には非常に低調で、機関リポジトリを知らないとした研究者が86%にものぼっていた。一方で米国国立衛生研究所(National Institutes of Health、NIH)の主題リポジトリであるPMCを利用したことがある研究者は53%とかなりの割合を示し、また最近読んだ論文の1割がPMCから入手したという回答であった。ただし、論文ではこの数値をそのまま受け取ってよいかどうかには疑問があり、研究者がPMCをPubMedと混同している可能性も検討している。

 

(2) ライフサイエンス分野の研究機関に所属する研究者の利用動向

 松林等は、大学以外に所属する研究者の成果公表、情報源利用の動向、情報提供環境を明らかにするために2005年に国公立研究所の研究者への質問紙郵送調査、2008年に国公立研究所と企業の研究者へのインターネット調査を行った(10)。研究の焦点は、国公立の研究所や企業に所属する研究者の研究活動、情報行動が、大学所属の研究者のものとは違いがあるのかどうかである。

 成果公表のために使う情報メディアとしては、研究所の研究者は大学の研究者と同じく学術雑誌が8割以上であるが、企業の研究者は特許が4割、成果は公表しないとする回答も4割であった。研究活動に利用する情報源は、9割が学術雑誌、7割が学会という点は共通であったが、研究所の研究者はこの二つの情報メディア以外はあまり利用していないのに対して、企業の研究者の場合、業界紙、特許、図書、大学・研究所のサイトを利用するという研究者もそれぞれ4~5割おり、多様な情報源を利用していた。

 電子ジャーナルの利用は、2008年の研究所の研究者の42%が毎日、37%が週1回と、非常に頻繁に利用していた。企業の研究者は毎日が27%、週1回が43%と多少落ちるが、それでも高い頻度で利用していた。また、情報検索に関しては、研究所、企業ともに約4割が毎日、週2、3回が約3割とこちらもかなり高い頻度で検索している。情報検索を行っている研究者のうち、83%がPubMed、62%がGoogleを使っていた。

 これらの結果を受けて、ライフサイエンス分野においては、研究所や企業の研究者と大学所属研究者との間に、情報利用行動に大きな違いがないことがわかったとされている。ただし、企業の研究者の成果公表のあり方と、利用する情報源の多様さに違いが見られた。Tenopir等のエンジニアに対する調査結果とはかなり違いがあり、所属機関の差よりも研究分野の差の方が大きいのではないかと考察している。

 

(3) 心理学者の機関リポジトリ利用

 この論文は心理学研究者の情報の検索、入手全般ではなく、機関リポジトリが成果公表と情報源入手のためにどれだけ利用されているかを調査している(11)。その意味では機関リポジトリという情報メディアに焦点が当たっているが、研究者にとってその位置づけを考察していると解釈してレビューの対象とした。

 2010年に日本の心理学者への質問紙調査を行い、回答数は526件であった。オープンアクセスの認知度は、言葉も活動概要も知っている者が23%、何も知らない者が23%であった。機関リポジトリの言葉も活動概要も知っている者は41%、何も知らない者が22%であった。機関リポジトリに過去3年間に登録した経験のある者は11%にとどまったが、論文入手のために利用したことがある者は63%にのぼった。

 (1)で述べた医学研究者の場合、オープンアクセスの認知度は34%にとどまっていたが、主題リポジトリであるPMCの認知度は65%であった。両者の調査の間には3年間の経過があるが、その間にオープンアクセスの認知度はかなり広まったと考えられる。他方で、主題リポジトリと機関リポジトリの認知度と利用度の違いに関しては、研究領域による差なのか、オープンアクセスの普及によるものなのかは判然としない。

 

(4) SCREAL 2011調査

 佐藤義則を中心とするSCREAL(学術図書館研究委員会)によって2011年になされた電子ジャーナル等の利用および論文の読みの調査の報告がなされている(12)。SCREALの調査は国立大学図書館協会電子ジャーナルタスクフォースおよび公私立大学図書館コンソーシアム(PULC)によって実施された過去の電子ジャーナル利用調査の一部を引き継ぐとともに、Tenopir等の最新論文の読みの調査の設問も加えたものとなっている。なお、2007年にも同様の調査を実施している。2011年の調査では、45の大学、研究機関の協力の下で自然科学、社会科学、人文科学全分野の研究者を対象に実施され、博士課程の院生を含め3922件の回答を得ている。

 電子ジャーナルの利用度は、分野による差が大きいが、自然科学系の場合週1回以上利用する割合は6割から9割にのぼり、社会科学でも5割、人文学でも3割を超えており、その利用は定着したといえる。2011年調査は、2007年調査と比べると中小規模の大学も含めた多様な機関が参加しているため、週1回以上電子ジャーナルを利用する研究者の割合が95%を超える機関から、30%程度の機関まで差が大きかった。

 最近読んだ論文の言語を見ると、自然科学系の分野ではほぼ9割が国際文献であるが、人文学、社会科学では半分以上が国内文献を利用していた。国際文献を利用するグループと国内文献を利用するグループとでは、電子ジャーナルの利用度の顕著な差があり、国際文献を利用しているグループでは電子ジャーナルを週1回以上利用する割合は6割から9割弱なのに対して、国内文献を利用するグループでは、3割から4割にとどまっている。

 電子ジャーナルがあれば印刷体雑誌は不要かという設問に対して、2007年では両方必要とする回答の方が多かったのに対して、今回の調査では、自然科学分野で最新号に関しては54%、バックナンバーに関しては62%が不要と回答している。人文社会科学では両方必要とする回答の方が多いが、バックナンバーに関しては4割が不要と回答している。

 最近読んだ論文の読み方は、自然科学系の研究者がPDFをダウンロードして読むが50%、画面で読むが24%、印刷体雑誌をそのままが12%となっており、2007年調査と比べると、ダウンロードの割合が減り、画面で読む割合が多少増えているといえる。他方、人文社会科学の研究者の場合、4割が印刷体雑誌をそのまま読んでいた。

 以上日本人研究者の情報行動に関する4研究論文からいえる全体の動向としては、電子ジャーナルの利用が全体としてはほぼ定着したといえ、海外の状況と比べても日本は利用が進んでいる。ただし、専門分野による差はかなりあり、自然科学系の分野でも人文社会科学と同じ程度もしくはそれ以下の電子ジャーナル利用しかない領域もある。また医学の中でも、基礎と臨床のように研究環境が異なると大きな差がある。

 論文の読み方は、PDFをダウンロードし印刷して読むという、電子ジャーナルではあっても印刷版の形式をそのまま維持した形での読みが主流であるが、徐々に画面での読みが増えてきている。また、分野によって違いはあるが、雑誌のブラウジングだけでなく、文献データベースやサーチエンジンの利用が広がっている。

 オープンアクセスの情報源の利用は、徐々になされだしているが、これらについては調査自体が少なく、動向はまだよくわかっていない。

 

4. おわりに

 日本人の研究者の情報行動に関しては、調査が決定的に不足しているといえる。できるだけ多様な分野における広範囲の研究者を対象とする調査が定期的に行われることが必要である。その際には、海外を含めた先行調査を踏まえ、標準的な調査項目を取り入れた設問とすることで、調査結果を学術コミュニケーションという広い文脈に位置づけ解釈していくことが重要である。

 

(1) 倉田敬子. “4.1学術コミュニケーション”. 図書館・情報学研究入門. 三田図書館・情報学会編. 勁草書房. 2005, p. 105-108.

(2) 三村沙矢香. 杏林大学医学図書館におけるAnnual Review Online導入と利用状況について. オンライン検索. 2010, 31(4), p. 243-248.

(3) 林賢紀ほか. 文献データベースと電子ジャーナルの利用行動に対するリンクリゾルバの影響の分析. 情報知識学会誌. 2012, 22(3), p. 238-252.

(4) Garvey, W.D. コミュニケーション:科学の本質と図書館員の役割. 敬文堂. 1981,302p.

(5) 倉田敬子. “2.6 学術コミュニケーション”.図書館情報学. 上田修一, 倉田敬子編著. 勁草書房, 2013, p. 91-106.

(6) Tenopir,C. et al. Towards Electronic Journals: Realities for Scientists, Librarians, and Publishers. Washington, DC, Special Libraries Association. 2000, 488p.

(7) Tenopirの著作は非常に多いので,彼女のサイトの著作一覧を参照のこと。
http://scholar.cci.utk.edu/carol-tenopir/publications
この中で,国際比較を行った論文は以下のものである。
Tenopir, C et al. Cross country comparison of scholarly e-reading patterns in Australia, Finland and the United States. Australian Academic & Research Libraries (AARL). 2010, 41(1), p. 26-41.

(8) Research Information Network. E-journals: their Use, Value and Impact. 2009, 51p.

(9) 倉田敬子ほか. 電子ジャーナルとオープンアクセス環境下における日本の医学研究者の論文利用および入手行動の特徴. Library and Information Science. (61), 2009, p. 59-90.

(10) 松林麻実子ほか. 日本研究機関に所属する研究者における電子メディア利用実態:ライフサイエンス領域の研究者を対象とした実態調査報告. 日本図書館情報学会誌. 2009, 55(3), p. 141-154.

(11) 佐藤翔ほか. 日本の心理学者に対し機関リポジトリが果たしている役割. Library and Information Science. 2012, (68), p. 23-53.

(12) 佐藤義則ほか. 日本の研究者による電子情報資源の利用:SCREAL2011調査の結果から. 情報管理. 2013, 56(8), p. 506-514.

 

[受理:2014-02-01]

 


倉田敬子. 日本人研究者の情報利用行動. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1820, p. 32-36.
http://current.ndl.go.jp/ca1820

Kurata Keiko.
Information use and exchange by Japanese researchers.

This article reviews research articles on the information use and exchange by Japanese researchers of published in Japanese during the past half decade. Given that there are few research articles in this category, the article begins with a introduction of basic research on scholarly communication. Major trends for information use by Japanese researchers are include the following:
1) Extensive use of electronic journals,
2) Reading articles in PDF format as typical pattern,
3) Increasing use of information retrieval through a bibliographic database or search engine such as Google, and
4) Less use of open access resources.
Continued research into how scholarly communication is conduction in Japan is urgently needed.

 

クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 2.1

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